今回は、公開されているGNSS、つまりGPSなどの衛星測位観測データを使って、「地表の動きそのもの」ではなく、観測点どうしの動き方の関係がどれくらい変わったかを数値的に確認するテストを行いました。
ここで扱うのは、地震予測や防災判断ではありません。
あくまで、公開データを使った数値解析・行列計算の安定性テストです。
何をしたのか
使用したのは、Nevada Geodetic Laboratory が公開している GNSS station の日次時系列データです。
GNSS観測点には、日ごとの位置変化データがあります。今回はその中から、東西方向・南北方向・上下方向の3成分を使い、複数の観測点をまとめて「共分散行列」を作りました。
共分散行列とは、簡単に言えば、
「複数のデータが、どのように一緒に動いているか」
を見るための行列です。
株価、遺伝子データ、センサー、地殻変動、気象データなど、多数の観測値を扱う分野では非常によく出てくるものです。
最初の問題
最初の試行では、観測点のデータ取得自体はできました。
しかし、選んだ観測点どうしで、共通して観測されている日付がありませんでした。
つまり、A地点はある期間のデータを持っているが、B地点やC地点と同じ日付でそろわない。
この状態では、複数地点を同時に比較するための共分散行列を正しく作れません。
このため、最初の計算では距離評価が成立しませんでした。
対策したこと
最初の試行では、観測点のデータ取得自体はできました。
しかし、選んだ観測点どうしで、共通して観測されている日付がありませんでした。
つまり、A地点はある期間のデータを持っているが、B地点やC地点と同じ日付でそろわない。
この状態では、複数地点を同時に比較するための共分散行列を正しく作れません。
このため、最初の計算では距離評価が成立しませんでした。
対策したこと
そこで、次のように処理を変更しました。
先に観測点を固定するのではなく、候補となる観測点を複数読み込み、その中から「共通日付が十分に重なる組み合わせ」だけを自動で選ぶようにしました。
今回の条件は以下です。
候補観測点数: 15
選択された観測点数: 6
使用した成分: 東西・南北・上下の3成分
行列の次元: 18
共通日付数: 10126日
比較窓: 前半90日、後半90日
実際に選ばれた観測点は以下です。
DRAO, ALBH, WILL, YELL, NANO, UCLU
この時点で、前回の失敗原因だった「日付がそろわない」という問題は解消されました。
何を計算したのか
共通日付が十分にある観測点だけを使い、前半90日と後半90日の2つの期間に分けました。
それぞれの期間について共分散行列を作り、次に、その2つの共分散行列がどれくらい違うかを計算しました。
ここで使ったのは、SPD行列、つまり対称正定値行列の幾何学的な距離(AIRM:アフィン不変リーマン計量)です。
単純な引き算ではなく、共分散行列が持つ数学的な性質、特に正定値性を保ったまま、多様体と呼ばれる曲がった空間上で2つの行列の距離を見る方法です。
今回得られた距離は以下でした。
AIRM distance:
5.986644991146158
これは、前半90日と後半90日の共分散構造に、数値的に測定可能な違いがあることを示します。
行列の安定性も確認
共分散行列は、データの欠損やノイズ、観測点数とサンプル数の関係によって、計算上壊れることがあります。
特に、コレスキー分解という重要な計算が失敗する場合があります。
今回は、前半・後半の両方について、行列が正定値として扱えるかを確認しました。
結果は以下です。
前半の条件数:
977.4344358425706
後半の条件数:
569.6946443408505
また、最小固有値も正の値を保っていました。
前半の最小固有値:
1.119167918130513e-07
後半の最小固有値:
1.8012264979034127e-07
つまり、今回の選択された観測点と期間では、共分散行列は数値的に安定して扱える状態でした。
この結果から言えること
今回言えるのは、かなり限定された内容です。
公開GNSSデータを使い、共通日付が十分に重なる観測点だけを選べば、前後2期間の共分散構造の違いを、行列幾何の距離として数値化できる。
これが今回の成果です。
一方で、以下のような主張はしていません。
地震を検知した
地震を予測できる
地殻ひずみを公式に判定した
防災上の警報になる
測地学的な結論を出した
今回の作業は、あくまで数値解析としてのテストです。
どんな仕事に使えるか
このような処理は、GNSSだけでなく、さまざまな時系列データに応用できます。
たとえば、
複数センサーの相関構造の変化
金融市場データの共分散変化
工場設備の異常兆候解析
地理・環境データの構造変化
多地点観測データの安定性診断
などです。
重要なのは、単にグラフを見るだけではなく、「データ同士の関係性が変わったか」を行列として確認できる点です
まとめ
今回のテストでは、公開GNSS時系列データを使い、複数観測点の共通日付をそろえたうえで、前後2期間の共分散構造の違いを数値化しました。
結果として、6つの観測点、18次元の共分散行列、10126日の共通日付を使い、AIRM距離 5.9866 を得ました。
これは、地震予測や防災判断ではなく、公開データを使った数値解析・行列安定性診断の実例です。
複数の観測データを扱う現場では、「計算が途中で壊れる」「相関構造の変化を見たい」「共分散行列が不安定」という問題がよくあります。
そうしたデータに対して、行列の安定性を確認し、構造変化を定量化することは、実務上かなり有効です。