⾃分の中の「⼩ 2 男⼦」を笑わせたい。彼が笑えば世界の⼦どもが笑うはず。
アニメーション作家/絵本作家/キャラクターデザイナー にじたろう
温かみのあるタッチと、どこかユーモラスで愛らしい動き。アニメーション作家/絵本作家/キャラクターデザイナーとして活動する「にじたろう」さん。
しかし、その穏やかでハートフルな世界観の奥には、彼⾃⾝が⻑年抱え続けてきた「創作への強い衝動」と「いたずら⼼」が静かに息づいている。
なぜ彼はキャラクターを作り続けるのか。本当に描きたい世界とは何なのか。代表作の誕⽣秘話から、⼼の中に棲み続ける「⼩2男⼦」の存在、そして今まさに挑んでいる絵本制作まで、その創作の裏側を掘り下げました。
代表作『ほしぐま』の誕⽣と、20 年近いクリエイター⼈⽣
ーーにじたろうさんは 2008 年頃から現在の名義で活動を始められ、もう 20 年近くになりますね。まずはこれまでの歩みと、代表作である『ほしぐま』について教えてください。
にじたろう:もともとはフリーランスでグラフィックデザインや映像の仕事をやっていたんで す。当時はミュージックビデオの制作なんかにも携わっていて、モーショングラフィックスやアニメーション を作ったりしていました。
しかし依頼された仕事だけでは、だんだんと満足できなくなり、「やっぱり作家として、⾃分のオリジナル作品で勝負したい」と強く思うようになったんです。
そこで、まずは⾃分の作品を持たなきゃいけないということで、オリジナルのショートアニメを作り始めました。それまでは大人向けのデザインや、ちょっとグロテスクな表現も好きで作っていたんですが、オリジナルをやるならもっと明るく、楽しくて可愛い世界観にしようと。作家名も親しみやすい「にじたろう」に改名して、⼦ども向けのキャラクターアニメを作り始めたのが今の活動のスタートです。
ーーその中で⽣まれたのが、代表作の『ほしぐま』ですね。
にじたろう:はい。2010 年頃から作り続けているクマの親⼦の物語で、僕の作品の中では⼀番作品数が多く、世の中に知ってもらうきっかけになった作品です。
『世界名作劇場』などで知られる日本アニメーションのグループ会社の方が『ほしぐま』をすごく気に入ってくださって。「⼀緒に作品を育てていきましょう」ということでタッグを組むことになり、映画館で上映してもらったり、国内の映画祭で賞をいただいたりしました。今も新作を作っている最中なんですが、気づけばもう 15年以上も作り続けているライフワークのような存在ですね。
ーー『ほしぐま』は、親⼦の愛情やぬくもりが伝わってくる⾮常にハートフルな作品です。このテーマには、にじたろうさん⾃⾝のどのような思いが込められているのでしょうか?
にじたろう:『ほしぐま』に関して⾔うと、根底にあるテーマは⼀貫して「家族」です。これは僕⾃⾝のバックボーンが⼤きく影響していて、うちは家族も親戚もみんな仲がいいんですよ。
今でもみんなで集まって甥っ子の誕生日パーティーをやったり、いとこ同士で食事会をしたりしています。
⼈⽣の中で何が⼀番幸せかと聞かれたら、僕は「家族みんなで集まって過ごす時間」なんですよね。だから、その素直な幸福感を素朴に表現したいという思いが、『ほしぐま』の世界観には、そのまま流れています。
「本当は、ちょっと毒のあるヤツが好き」原点の毒と『モジャッピ』
ーー世間的には「優しくて⼼温まるアニメーションを作る作家」というイメージが強いと思いますが、にじたろうさんが本来持っている作家性は、もう少し違うところにあるとお聞きしました。
にじたろう:そうですね(笑)。『ほしぐま』は企業との共同企画という側⾯もあるので、先⽅の希望でもあった「優しくてハートフルな世界」というカラーを⼤切にしています。だから、あえて毒気やトゲを抜いている部分があるんですね。
でも、僕が個⼈的に本当に⼤好きなキャラクターって、優等⽣な「いい⼦」じゃなくて、ちょっとふざけていたり、みんなにいたずらばかり仕掛けるような「ちょっと悪いヤツ」なんで す。どこか⽪⾁が効いていて、コメディ要素があって、ブラックな⼀⾯を持っている。そういうキャラクターにこそ、たまらない魅⼒を感じてしまうんです。
ーーこれまでに作られた作品の中で、今⼀番気に⼊っている作品は何ですか?
にじたろう:⾃分の作品で今⼀番気に⼊っているのは、ホームページにも載せている『モジャッピ』という⽑むくじゃらのキャラクターのアニメーションです。
これは海外の短編映画祭などで何⼗箇所もノミネートされて上映されたり、賞をいただいたりしていて、向こうの映画関係者からもすごく評判が良い作品なんですが、テーマは「家族」ではなく、完全に僕の原点である「毒のあるいたずらっ⼦」を描いた⾃主制作作品です。自分自身で企画し、純粋に自分の「好き」を突き詰めて作ったので、作家としての純度は一番高いですね。
「⼦ども好き」というより、⾃分の中の「⼩ 2 男⼦」を喜ばせたい
ーー⼦ども向けの作品を多く⼿掛けられていますが、それはやはり「⼦どもが好き」だからですか?
にじたろう:いや、実はよく誤解されるんですが、僕⾃⾝は「⼤の⼦ども好き」というわけではないんです(笑)。もちろん⼦どもは好きですが、⼦どもに媚びて「こういうのを⾒せたら喜ぶだろう」と計算して作っているわけではありません。
じゃあなぜ⼦ども向けのものを作るかというと、僕の中の「⼦ども」が騒ぐからなんですよ。それも、⼩学校 2 年⽣くらいの、ちょっとおバカで⽣意気な男の⼦が、いまだに居座り続けているんです。
絵本でもアニメでも、僕の中の「小 2 男子」が観て「うわ、面白い!」と感じるものを作れば、きっと世の中の子どもたちにも楽しんでもらえるんじゃないかと思っています。
ーー⾃分の中にいる「⼩ 2 男⼦」ですか。
にじたろう:今でも僕、「うんこ」っていう⾔葉やモチーフが⼤好きなんです(笑)。⼩学⽣の男⼦って、理由もなく「うんこ! うんこ!」って⾔って、落書きで描いたりして、⼤笑いするじゃないですか。あの感覚が、今も残っているんですよ。いつか絶対に「うんこ」をテーマにした絵本やアニメを作ってやろうと本気で企んでいます。
世間⼀般の⼤⼈が⾒たら「くだらない」「下品だ」と眉をひそめるような、ちょっとしたタブーや毒、いたずら⼼を発散させたい。そういう衝動が湧き上がってくるのは、まさに⾃分の中の「⼦ども性」がずっと騒ぎ続けているからなんだと思います。
ーーその⼦ども性の原体験は、どこにあるのでしょうか?
にじたろう:⼀番古い記憶は、幼稚園の頃ですね。⾃分で初めて絵本のような⼩さな冊⼦を描いて、幼稚園の先⽣にプレゼントしたんです。そうしたら先⽣がものすごく喜んでくれて、教室に飾ってくれたんですよ。その時に「⾃分でゼロから何かを作るのって最⾼に楽しいし、⼈をこんなに喜ばせることができるんだ!」と強烈に実感したんです。
それに、⼦どもの頃の僕にとって、絵を描くことこそが「クラスの中で⾃分の居場所を獲得する唯⼀の⼿段」でした。「絵といえば太郎くん」と周りから認めてもらえることが⾃⼰アピールであり、誇りだった。絵を描けばみんなが注⽬してくれて、笑顔になってくれる。あの瞬間に感じた純粋な万能感と幸福感が、僕のクリエイティブの全ての原点であり、今もそこから⼀歩も外に出ていない気がします。絵柄もそのころからあんまり変わってませんしね。
キャラクターが産声を上げた瞬間がピーク。制作は「具現化の労働」
ーーにじたろうさんの作品は、⽑並みや⽪膚の質感など、触り⼼地まで伝わってくるような⽴体感とディテールが⾮常に印象的ですよね。
にじたろう:僕のアニメーション制作の出発点は、「アニメを作りたい」というより「キャラクタービジネスをやりたい」「世の中に愛されるキャラクターを⽣み出したい」という思いでした。だから、まず何よりも「キャラクターそのものの存在感」が⼤事なんです。
初期に毛むくじゃらのキャラクターを作った時も、いきなり描き始めたわけではありません。まず最初に、ホームセンターで買ってきた発泡スチロールを⾃分の⼿で削って、⽴体の⼈形を試作したんです。「これを実際にぬいぐるみにした時、本当に抱きしめたくなるくらい可愛いか?」「⼿で触った時にどんな感触がするか?」というのを、現実の⽴体物として検証しました。
その上で、「ぬいぐるみ化できるようなリアリティ」を持たせるために、一本一本の毛の質感を細かく描き込んでいきました。だから、僕のキャラクターはどこか⽣々しいというか、画⾯越しでも「触れそう」な質感を帯びているんだと思いま す。
ーーキャラクターを⽣み出す⼯程の中で、最も好きな瞬間はどこですか?
にじたろう:僕にとって⼀番楽しい、最⾼に興奮する瞬間は、新しいキャラクターを思いついて、それがビジュアルとして形になったその瞬間です。
頭の中でキャラクターの姿が⽴ち上がり、「あ、こいつが動き出したら絶対に⾯⽩いぞ」「こんな表情をさせて、こんな意地悪なセリフを⾔わせたら最⾼だな」と、世界観が頭の中で⼀気にぶわっと広がる瞬間。その「産声を上げた瞬間」が、僕の創作のエネルギーの 99%と⾔ってもいいかもしれません。
ーーでは、その後の実際のアニメーション制作の⼯程は楽しくない?
にじたろう:正直に⾔ってしまうと、作っている最中はもう⼤変なだけの「労働」です(笑)。気の遠くなるような作業や調整を繰り返すわけですが、それは僕にとって、最初に頭の中に出来上がったイメージをただひたすら現実世界にトレースしていく「具現化の作業」に過ぎないんですよね。
芸術家のように予算や納期を度外視して、⾃分が納得いくまで何回も作り直すので、1 つの短い作品に 1 年以上かかることもあります。もちろん、完成して⾳楽や効果⾳をつけた直後の 2〜3 ⽇は、「うわ、めちゃくちゃ良いものができた!」と⼀⼈でニヤニヤしながら何⼗回も⾒返して⾃⼰満⾜に浸ります。
でも、その新鮮さも 3 ⽇後には消え去って、「やっぱりあそこをもっとこうすればよかった」「まだまだ⼤したことないな」と粗ばかり⾒えてきて飽きてしまう。結局、⾃分を本当に満たしてくれるのは、「まだ⾒ぬ新しいキャラクターが頭の中に⽣まれた瞬間」だけなんです。
アーティストとしてのワガママと、『ほしぐま』という奇跡的なバランス
ーーお話を聞いていると、アーティスト気質が強いですよね。他者からの依頼で受託制作をする際、葛藤はありませんか?
にじたろう:以前はよくありました。。根本的な本⾳を⾔えば、「⾃分が好きなことしかやりたくない」し、「他⼈から『こういう⾵に作ってくれ』と指⽰されるのが我慢ならない」というワガママな⼈間なんです。クライアントワークで自分の美学と違う修正を求められ ると、やっぱりストレスを感じてしまうことがありました。
でも、⾯⽩いもので、完全に⾃分⼀⼈で閉じこもって作るのがすべてかというと、そうでもないことに気づいたんです。その最も良い例が『ほしぐま』なんですよね。
ーー『ほしぐま』が、まさにそのバランスの好例なんですね。
にじたろう:『ほしぐま』は企業の⽅と⼀緒に企画を⽴てているので、僕の「毒」や「ふざけたい気持ち」は抑えなきゃいけない。でも、先⽅から「こういうハートフルなエピソードはどうですか?」と投げかけられた時に、「じゃあ、そのテーマを僕なりにどう料理すれば⼀番魅⼒的に表現できるだろう?」と、⾃分の中で新しい化学反応が起きるんです。
他者からのきっかけがあるからこそ、⾃分⼀⼈の頭からは出てこなかった豊かな物語が紡ぎ出される。自分の衝動と、ビジネスとしての枠組みが、高い次元で調和していると思います。
アニメやデザイン制作のほかに、子どもの描いた絵やぬり絵をアニメ化して上映する「コドモーション」という活動をやっていますが、それも同じです。
その時に使うのは「他⼈の描いたキャラクター」なんですが、「この子が描いた生き物を、こんな風に面白おかしく動かしたら、描いた本人はきっと驚いて喜んでくれるだろう!」と想像すると、ものすごくワクワクして熱中できる。⾃分の我儘な衝動を爆発させる場所と、誰かの想いを受け⽌めて技術で応える場所。その両⽅があるからこそ、⻑くクリエイターを続けてこられたのだと思います。
最後の挑戦ーー絵本という舞台で放つ、渾⾝の「毒とユーモア」
ーー現在、最も情熱を注いでいる「絵本作家」への挑戦について聞かせてください。なぜ今、絵本なのでしょうか?
にじたろう:「にじたろう」として活動を始めた当初から、実は誰にも⾒せずに絵本を描いてはいたんです。でも、コンペに出すわけでもなく、ずっと引き出しの奥に眠らせていました。だけど、クリエイターとしての残りの⼈⽣を考えた時、「もう⼀度、本気で勝負したい。これが最後の挑戦だ」という強い思いが湧き上がってきたんです。
それで 1 年半ほど前から、有名な絵本作家の⽅が主催する本格的な絵本講座に通い始めまし た。そこで⼀から構成や演出を学び直し、本気で仕上げた作品を絵本業界で登⻯⾨として知られる「ピンポイントギャラリー」のコンペに応募したところ、入賞することができ自信がつきました。
ーーその⼊賞作は、どのようなお話なんですか?
にじたろう:まさに、僕の⼤好きな「毒とユーモア」が全開の作品です(笑)。絵柄は、ティム・バートン監督の映画のような、少しダークで影のあるモノクロ調に少しだけ⾊が乗っているような世界観です。
⼩さくて愛らしい主⼈公のモンスターが、途中で出会う恐ろしい巨⼤モンスターたちに「襲われないように」機転を利かせて、「僕がとびきり美味しいレストランに案内してあげるよ!」と先導していくんです。モンスターたちは⼤喜びでついていく。オチを⾔ってしまうとつまらないので⾔いませんが、かなりブラックな内容です。
ーーやっぱり、ブラックな毒のある話が好きなんですね。
にじたろう:そうですね(笑) でも、子どもってこういう少し怖くて、残酷で、クスッと笑えるお話も好きだと思うんですよ。⽣き物の本能やいたずら⼼が詰まった物語。僕の中にいる「⼩ 2 男⼦」が「これ、⾯⽩いじゃん!」と太⿎判を押してくれた作品です。
まだ商業出版という高い壁の前に試行錯誤している段階ですが、僕自身は「世の子どもたちに届けられる日がきっと来る!」と信じています。
ーー最後に、にじたろうさんがクリエイターとして⽬指す未来について教えてください。
にじたろう:アニメーションであれ、絵本であれ、僕がやりたいことは最初からずっと変わりません。「家族愛」や「ユーモア」、時には「ちょっとした毒」を、魅力的なキャラクターの姿を借りて形にすること。そして、それを受け取った誰かーーあるいは⾃分の中にいる⼩さな男の⼦が、⽬を輝かせて笑ってくれること。
そのためなら、どんなに制作が大変でも頑張り続けることができます。絵本作家として書店に僕の本が並び、子どもたちが楽しんでくれる日を目指して、これからも自分の衝動に正直に、愛と毒の詰まった世界を描き続けていきたいですね。
2026.8.24