「今度、何か弾いてよ!」
「ギターが趣味なんです」なんて話をすると、
「じゃあ、今度何か弾いて聴かせてよ!」
「忘年会で一曲やってよ!」なんて言われることがあります。そう言われると、ちょっと嬉しかったりもしますよね。
せっかく練習しているんだから、誰かに聴いてもらいたい。褒めてもらえたら、なお嬉しい。その気持ちはよく分かります。
でも、ちょっと考えてみてください。人に聴かせる予定がなかったら、ギターを練習する意味はないんでしょうか?
たった一人の観客は、自分自身
休日に、お気に入りの曲を流しながらギターを弾いてみる。
憧れのギタリストになりきって、ちょっと難しいフレーズに挑戦してみる。「あ、今のちょっといい感じだったな」なんて、一人で満足する。
誰かに聴かせる予定もなければ、ましてや演奏動画をSNSに投稿しようなんて気もない。
でも、気がつけば何時間も経っていたりするんです。それって、十分に楽しくて、価値のある時間だと思いませんか?
実際、僕のレッスンにも、バンドを組んでいるわけでもなく、発表会に出たいわけでもないという生徒さんがたくさんいらっしゃいます。
「好きなバンドの曲を流しながら、一緒にギターを弾けるようになりたいんです」ただ、それだけ。
でも、僕はその「ただ、それだけ」が、とても素敵なことだと思っています。
僕も最初は、そんなギター少年でした
今でこそ人前で演奏することが仕事になっていますが、僕がギターを始めた頃は、ステージに立つことなんて考えていませんでした。
当時、音楽雑誌の付録なんかによく付いていた「歌本」って覚えていますか?歌詞の上に、GとかCとかAmとか、簡単なコードネームが書いてある、あれです。僕も最初は、そんな歌本を見ながら、
「この曲、弾けるかな?」なんて、ギターを抱えていました。
ラジオやテレビから流れてくるお気に入りの曲に合わせて、覚えたばかりのコードを鳴らしてみる。当然、音源と同じようには弾けません。でも、なんとなく曲に合わせてギターを鳴らせているだけで、嬉しかったんですよね。
それがいつの間にか、時間を忘れて夢中になれる趣味になっていきました。
ギターを弾いている間は、少しだけ自由だった
今振り返ると、あの時間は僕にとって、単なる楽器の練習ではなかったように思います。
当時は当時で、将来への不安もありました。学校のことや友達のこと、これから自分はどうなるんだろうという、何となくモヤモヤした気持ち。そんなものを抱えていた時期でもありました。
でも、部屋で一人ギターを弾いている間は、そういうことを少し忘れられたんです。
好きな曲に夢中になっていると、いつの間にか気持ちが軽くなっている。別に誰かに褒められたわけでもないし、何か目標を達成したわけでもありません。
ただ、ギターを弾いていただけ。
でも、あの時間があったことは、僕にとってとても大きかったんだと思います。
誰もがステージを目指す必要はない
僕は今でもライブが大好きです。ステージに立って、お客さんの反応を感じながら演奏する。あの楽しさは、何ものにも代えがたいものがあります。
でも、だからといって、ギターを弾く人みんながステージを目指す必要はないと思っています。
誰かに聴いてもらうことが目的でもいい。
誰にも聴かせず、自分だけで楽しむことが目的でもいい。
どちらが上という話ではありません。
人からの称賛や褒め言葉がなくても、夢中になれる。誰かと競争しなくても、充実した時間を過ごせる。趣味って、本来そういうものなんじゃないでしょうか。
自分のためだけに使う時間があってもいい。
自分だけが満足できる音楽があってもいい。
それって、何だか贅沢なことのようにも思えます。
ギターは、自分の心の声かもしれない
レッスンでは、当然ながら演奏技術を教えます。コードの押さえ方やリズムの取り方、音の出し方。昨日まで弾けなかったフレーズが弾けるようになれば、僕も嬉しいです。でも、それ以上に大切にしたいことがあります。
それは、ギターを弾くことで、その人の気持ちにどんな変化が生まれているのかということです。
仕事で疲れて帰ってきても、ギターを抱えると少し元気になれる。何となく気分が晴れない日でも、好きな曲を弾いているうちに楽しくなってくる。
そんな時間が日常の中にあるだけで、毎日の過ごし方が少し変わるかもしれません。
僕は、生徒さんが鳴らすギターの音には、その人自身の気持ちが表れているように感じることがあります。
嬉しいとき、悩んでいるとき。
何かに夢中になっているとき。
同じ曲を弾いていても、そこにはその人らしさがにじみ出てくるんです。
だから僕は、演奏を単に技術的な良し悪しだけで判断したくありません。その人が今、どんな気持ちでギターを弾いているのか。その音に、できるだけ耳を傾けていたいと思っています。
生徒さんが教えてくれたこと
長くギターを教えていると、上達することが必ずしも生徒さんにとって一番の目的ではないんだと、何度も気づかされます。
新しい曲が弾けるようになることも、もちろん大切です。
でも、それと同じくらい、ギターを弾く時間そのものを楽しんでもらいたい。そして、その時間が日々の暮らしの中で、どんな意味を持つようになっていくのか。
僕は、そんな変化を見逃したくないんです。
レッスンを始めた頃より、難しい曲が弾けるようになった。それも素晴らしい成長です。
でも、「最近、ギターを弾くのが楽しみなんですよ」
そんな言葉を聞けたときも、同じくらい嬉しくなります。
誰かに聴かせるためじゃなくていい。
上手いと思われるためじゃなくていい。
ただ、自分が楽しいから弾く。自分の心が、少しだけ軽くなるから弾く。
それで十分なんです。誰にも聴かせないギターだって、ちゃんと音楽なんですから。
そして僕は、そんな一人ひとりの「自分のための音楽」を大切にできる講師でありたいと思っています。