〜「行き当たりばったり的 経営」から脱却するために〜
ファイナンシャル・プランナー(FP1級)として個人事業主や中小企業経営者の皆様の相談をお受けする中で、日々さまざまな事業のリアルに触れています。
私自身、もともと金融機関の融資係として数多くの決算書や合計残高試算表を分析してきた経験があります。そのため、数字の推移から「このままだと数か月後に資金繰りが厳しくなる」と予見できた際には、メインバンクへの事前相談や早期の借入対応をご提案し、危機を回避していただくことも少なくありません。
しかし、そうしたご相談の現場で強く感じることがあります。それは、明確な計画を持たず、「ただただ日々の商売を続けているだけ」のように感じる事業主様が多いように思います。
当然ながら、事業の業績が悪化すれば、経営者ご自身の家計も直撃を受けます。数名しかいない中小企業の場合、会社と個人は一心同体です。だからこそ、計画のない経営は非常に大きなリスクをはらんでいます。
「客が来なかった」は理由ではなく、単なる“事象”に過ぎない
業績が悪化した経営者の方に「なぜ利益が出なかったのでしょうか?」と尋ねると、よくこのような答えが返ってきます。
「たまたま今月はお客さんが来なかった」
「問い合わせの電話が鳴らなかった」
「不景気だから仕方がない」
「常連客の一人が入院してしまったから」
お気持ちは大変よく分かります。しかし、これらは利益が出なかった「事象(起きた出来事)」であって、経営上の「本当の理由」ではありません。なぜ客足が落ちたのか、なぜ特定の顧客に依存する構造になっていたのか、本質的な原因を突き止めなければ、同じ問題を何度も繰り返してしまいます。
経営計画書を作成し、毎月の経過を管理し、昨期と今期の決算書を正しく比較・整理してはじめて、業績の裏にある「本当の理由」が明確になります。
この整理ができていない事業は、厳しい言い方をすれば、計画的なビジネスではなく「ギャンブルに近いもの」と言わざるを得ません。
「時代の貯金」で勝てるフェーズは終わった
今から30年前の日本であれば、特別な戦略を持たなくても、真面目に商売を続けていればある程度うまくいく時代でした。過去からの固定客や高度経済成長の余韻、いわば「時代の貯金」だけで事業を維持することが可能だったのです。
しかし、現代のビジネス環境は激変しています。
急激な原価高騰、人件費の上昇、最低賃金の引き上げ、そして深刻な人手不足など、中小企業を取り巻く環境は「何もしなければ利益が残らない高コスト構造」へとシフトしています。地図もカーナビもなければ道に迷ってしまうように、自社の数字や現在地を見ずに戦い続けることは不可能です。
もはや過去の成功体験という「貯金」は底をつきました。これからの時代を生き抜くためには、「自社がどの市場でどう戦うのか」という戦略と戦術を明確に定め、計画的に事業を進めていく必要があります。
「対処療法」ではなく、根本からの「事業改革」を
利益が出なくなった、又は利益が少なくなった中小企業は、戦略のないまま「とにかく経費を削る」「場当たり的に営業を強める」といった戦術(対処療法)を取ることがあります。
しかし余程の放漫経営をしている企業でもなければ、ほとんど効果はありません。むしろ必要な維持経費を惜しんだことで、さらなる業績の悪化を招くことの方が多いです。
対処療法だけに頼っても、会社は根本からは変わりません。自社の事業構造(変動費・固定費・粗利益の関係)を正確に把握し、市場を踏まえて「勝ち方を変えていく」必要があります。
具体的には「販売地域」や「販売先」、「販売する商品やサービス」などで一定の強みを持つ点(可能性)を見極め、独自の強みを構築し、市場で自分が設定した価格が通用する『価格決定権』を持てるようにしていく…このような経営計画を通じた「根本療法(事業構造の改革)」こそが求められています。
経営計画書を作ることは、単に書類の枠を埋める作業ではありません。自社の未来を描き、リスクを予測し、大切な事業と従業員、そして経営者ご自身の生活を守るための「最強の指南書」を手に入れるプロセスです。
おわりに
経営計画のない商売は、暗闇の中をライトなしで走り続けるようなものです。最初は大きな計画でなくとも構いません。「自社の現状を正しく把握し、数か月後・数年後の目標と具体的な打ち手を紙に書く」ことから始めてみませんか。
数字と向き合い、計画的に事業を動かしていく楽しさと安心感を、ぜひ多くの経営者の方に実感していただきたいと思っています。FP1級として、そして金融現場を見てきた専門家として、挑戦を続ける経営者の皆様をこれからも全力でサポートしてまいります。