論文要旨と就活用研究概要は何が違うのか
理系院生が就職活動で研究概要を書くとき、論文要旨や学会要旨をそのまま短くしたような文章になっていることがあります。
もちろん、論文要旨を書く力は大切です。
研究の背景、目的、方法、結果を限られた文字数で伝える力は、研究者・技術者にとって必要な力です。
ただし、就職活動で使う研究概要は、論文要旨と同じ目的の文章ではありません。
論文要旨は、主に専門家に対して研究成果を正確に伝える文章です。
一方、就活用の研究概要は、企業の面接官に対して、
・どのような課題に取り組んだのか
・本人がどこを考え、どこを担当したのか
・どのように研究を進めたのか
・その経験が会社の仕事にどう活きるのか
を伝えるための文章です。
この違いを意識せずに書くと、研究としては正しくても、企業の技術面接では伝わりにくくなることがあります。
1. 論文要旨は「研究成果」を伝える文章
論文要旨では、研究の新規性や結果の正確さが重視されます。
例えば、
・この研究で何を明らかにしたのか
・従来研究と何が違うのか
・どのような方法を使ったのか
・どのような結果が得られたのか
・その結果にどのような学術的意味があるのか
といった内容が中心になります。
読み手も、ある程度その分野を知っている専門家であることが多いです。
そのため、論文要旨では専門用語を使っても問題ない場合が多く、細かい測定条件、解析手法、材料名、モデル名なども自然に入ります。
研究室や学会の文脈では、それで十分に伝わることがあります。
2. 就活用研究概要は「本人の考え方」も見られる文章
一方、就職活動で使う研究概要では、研究成果そのものに加えて、本人の考え方や関与度が見られます。
企業の技術面接では、面接官が必ずしもその研究テーマの専門家とは限りません。
物理系の研究を、電気電子系、機械系、材料系、情報系の技術者が聞くこともあります。
また、研究所だけでなく、事業部、開発、評価、品質、製造寄りの技術者が面接に入ることもあります。
その場合、面接官が知りたいのは、論文の細部だけではありません。
むしろ、
・本人は何を考えたのか
・どこを自分で進めたのか
・どこで苦労したのか
・結果をどう解釈したのか
・会社に入ってから技術課題に向き合えそうか
が見られます。
つまり、就活用研究概要は「研究成果の説明」であると同時に、「自分という技術者候補の説明」でもあります。
3. 論文要旨では「自分の貢献」が見えにくいことがある
論文要旨では、研究グループ全体の成果として書かれることが多くあります。
そのため、
「私はどこを担当したのか」
「自分で考えた工夫はどこか」
「先輩や指導教員の蓄積と、自分の担当範囲はどう違うのか」
が見えにくくなることがあります。
しかし、企業の技術面接ではここをかなり見ます。
大学院の研究は、研究室のテーマ、装置、先輩の蓄積、共同研究先などの上に成り立っています。
それ自体は普通のことです。
だからこそ、すべてを自分一人でやったように見せる必要はありません。
むしろ、
・研究全体の中で自分が担当した範囲
・自分で考えて変えた条件
・自分で行った実験や解析
・うまくいかなかった時に試したこと
・結果を見て自分が考えたこと
をはっきり言える方が、面接官には伝わります。
企業の開発現場でも、成果は一人では出ません。
研究所、事業部、製造、品質、営業、顧客対応など、いろいろな人が関わります。
その中で、自分の役割を理解して動けるかどうかは、企業側から見るとかなり大事です。
4. 論文要旨は専門家向け、就活用研究概要は入口が必要
論文要旨では、読み手が専門家であることを前提にできます。
しかし、就活用研究概要では、最初の入口を作る必要があります。
例えば、いきなり専門的な材料名、装置名、測定条件から入ると、面接官は話を追いにくくなります。
就活用では、最初に一言で、
「この研究は、〇〇の性能向上を目的として、△△という方法を検討したものです」
のように置くと伝わりやすくなります。
専門性を下げるという意味ではありません。
専門的な話に入る前に、相手が話を追えるようにするということです。
企業の技術説明でも同じです。
顧客や事業部に説明するとき、最初から細かい原理や条件を話しても伝わらないことがあります。
まず「何の課題に対する技術なのか」「何に効くのか」を伝えたうえで、必要に応じて技術の細部に入ります。
就活用の研究概要でも、この順番はかなり有効です。
5. 論文要旨は結果中心、就活用研究概要はプロセスも見られる
論文要旨では、最終的に得られた結果が中心になります。
一方、就活用研究概要では、その結果に至るまでのプロセスも見られます。
企業の研究開発では、最初からうまくいくことばかりではありません。
実験が再現しない。
条件を変えると結果が大きく変わる。
装置の状態に左右される。
期待した性能が出ない。
原因が一つに決まらない。
こういうことは普通にあります。
そのため、企業の面接官は、
・うまくいかなかった時に何を疑ったか
・どのように原因を切り分けたか
・条件をどう変えたか
・次に何を試したか
・結果から何を学んだか
も見ています。
論文要旨では、失敗や試行錯誤はほとんど書かれないことが多いです。
しかし、就活用研究概要や技術面接では、そこに本人の考える力が出ます。
「良い結果が出ました」だけでなく、
「なぜそう考えたのか」
「どこで苦労したのか」
「どう改善したのか」
まで話せると、会社側にはかなり伝わり方が変わります。
6. 論文要旨では会社の仕事との接続は書かれない
論文要旨では、通常、応募企業の仕事との関係は書きません。
しかし、就活用研究概要では、自分の研究経験を会社の仕事にどうつなげるかも意識した方がよいです。
ここで大切なのは、「研究テーマが応募先の事業と完全に一致しているか」だけではありません。
完全に同じテーマでなくても、
・実験計画を立てた経験
・測定や解析で原因を切り分けた経験
・材料、デバイス、装置、シミュレーションを扱った経験
・複雑な現象をモデル化しようとした経験
・専門外の人に説明した経験
は、企業の研究開発や技術職で活きる可能性があります。
例えば、
「私の研究テーマは御社の製品と完全に同じではありませんが、測定条件を変えながら原因を切り分けた経験は、評価解析や開発業務でも活かせると考えています」
のように言えると、研究と会社の仕事がつながって見えます。
企業側は、学生が自分の研究をどう理解し、入社後の仕事にどう接続しようとしているかも見ています。
7. 論文になる成果と、企業で価値を持つ技術は少し違う
大学や研究室では、学会発表や論文につながる成果が大きな意味を持ちます。
これは当然です。
研究の新規性を示し、学術的に価値を伝えるためには、論文や学会発表が重要です。
ただし、企業では少し見方が変わります。
特に、電気電子、半導体、デバイス、計測、装置開発などの分野では、成果を論文として外部に公開することが必ずしも目的ではありません。
技術の中身をそのまま公開すると、情報流出や競争力の低下につながる場合があります。
そのため、企業では、
・論文として公開する成果
・特許として出す成果
・ノウハウとして外に出さない成果
・製品化して初めて価値が出る成果
が分かれます。
就活用研究概要でここまで詳しく書く必要はありません。
ただ、企業の面接官は、研究成果を「論文になるか」だけでなく、「技術としてどこに価値があるか」という見方でも聞いていることがあります。
例えば、
・どこが従来技術と違うのか
・どの条件で使えるのか
・再現性はあるのか
・実用化するなら何が課題になるのか
・守るべき技術要素はどこにありそうか
といった話ができると、企業研究開発の目線にかなり近づきます。
8. 就活用研究概要では「面接で話せること」が大事
就活用研究概要は、提出して終わりの文章ではありません。
面接では、その内容について質問されます。
そのため、文章としてきれいでも、本人が自分の言葉で説明できないと苦しくなります。
特に、次のような部分は聞かれやすいです。
・なぜそのテーマを選んだのか
・どこが新しいのか
・自分は何を担当したのか
・一番苦労した点は何か
・なぜその方法を選んだのか
・結果をどう解釈したのか
・会社の仕事にどう活かせると思うか
論文要旨は、限られた文字数で研究成果を正確に伝える文章です。
一方、就活用研究概要は、その後の面接で話すための土台になります。
書いた内容を自分で説明できるか。
質問されたときに、自分の経験として話せるか。
ここまで意識しておくと、技術面接でかなり話しやすくなります。
9. まとめ
論文要旨と就活用研究概要は、似ているようで目的が違います。
論文要旨は、専門家に研究成果を正確に伝える文章です。
一方、就活用研究概要は、企業の面接官に対して、研究内容だけでなく、本人の考え方、担当範囲、工夫、会社の仕事へのつながりを伝える文章です。
論文要旨では、
・研究の新規性
・方法
・結果
・学術的な意味
が中心になります。
就活用研究概要では、それに加えて、
・自分の貢献
・考えたこと
・苦労したこと
・改善したこと
・専門外の相手への伝わり方
・企業の仕事との接続
が見られます。
研究として正しい文章と、会社側に伝わる文章は、完全には同じではありません。
特に、物理・工学・電気電子・材料・半導体・光学・計測・デバイス・応用物理系の研究では、専門性が高い分、論文要旨のままでは伝わりにくくなることがあります。
本サービスでは、企業研究開発に約20年携わり、基礎研究だけでなく、事業部での開発、製品化、顧客向けの技術説明にも関わってきた旧帝大博士号取得者が、専門監修者として研究概要・ES・技術面接用の説明文を確認します。
研究として正しいかだけでなく、会社側に伝わるか、技術職・開発職の面接で本人が説明しやすいか、という点も重視しています。
研究概要・ES・技術面接用の説明文について、「会社側に伝わる形になっているか」を確認したい方は、サービスページからご相談ください。