会議。
インタビュー。
講義。
研修。
研究のインタビュー調査。
録音した音声をあとから確認するために、
「文字起こしをしておこう」
となることがあります。
最近はAIや文字起こしツールも増えて、
以前より簡単に音声を文章にできるようになりました。
でも、実際に文字起こしされた文章を見てみると、
「あれ?思ったより読みにくい……」
と感じることがあります。
例えば、
えー、では、まあ、今日の会議なんですけど、えっと、まず最初にですね、前回の、あの、会議で話した件についてなんですけど……
音声として聞いていると、
それほど違和感はありません。
でも、
文章になると、
かなり読みにくく感じます。
そこで出てくるのが、
「どこまで整えていいの?」
という問題です。
今回は、
文字起こしするときの、
「そのまま残す」と「読みやすく整える」
について考えてみます。
音声をそのまま文字にすると意外と読みにくい
私たちは普段、
文章のように話しているわけではありません。
話している途中で、
「えー」
「あのー」
「そのー」
「まあ」
といった言葉が入ります。
言い直すこともあります。
同じ内容を繰り返すこともあります。
途中で話題が変わることもあります。
例えば、
来週の研修についてですが、えー、来週というか、正確には再来週ですね、15日の研修なんですけど……
会話として聞けば、
それほど不自然ではありません。
でも、
これをそのまま文章にすると、
少し読みづらくなります。
だからといって全部きれいにすればよい?
では、
読みやすい文章へ、
どんどん直してしまえばよいのでしょうか。
実は、
そうとも限りません。
なぜなら、
文字起こしをする目的によって、必要な残し方が違う
からです。
ここが、
文字起こしをするときに大切なところだと思います。
① 音声をできるだけそのまま残したい場合
例えば、
インタビュー調査などで、
話された内容そのものを確認したい場合。
このようなときは、
話者の言葉をできるだけそのまま残す必要があることがあります。
例えば、
えっと、最初はやっぱり怖かったですね。あの、何ていうか、自分にできるのかなって。
これを、
最初は自分にできるのか不安を感じていた。
としてしまうと、
読みやすくはなります。
でも、
これはもう、
話した内容をそのまま文字にしたものではありません。
文章を作った人の解釈が入っています。
目的によっては、
ここまで変更してはいけない場合があります。
「言いよどみ」に意味がある場合もあります
「えー」
「あの」
「……」
言い直し。
沈黙。
こうした部分は、
通常の議事録では不要なことが多いと思います。
でも、
研究方法によっては、
話し方そのものが意味を持つ場合もあります。
そのため、
「読みにくいから削除する」
ではなく、
まず、
「何のために文字起こしをするのか」
を考える必要があります。
② 読みやすい記録として残したい場合
一方、
会議内容をあとから確認するための文字起こしなら、
少し事情が違います。
例えば、
えー、それでは、次回の会議なんですけど、まあ、来月ですね。来月の10日でどうでしょうか。
という発言。
内容を確認することが目的なら、
それでは、次回の会議は来月10日でどうでしょうか。
とした方が、
かなり読みやすくなります。
話の意味は大きく変えず、
不要な言葉だけを整理しています。
「ケバ取り」という方法があります
文字起こしでは、
「えー」
「あのー」
「まあ」
など、
意味を持たない言葉を取り除いて、
読みやすくする方法があります。
一般に、
ケバ取り
と呼ばれる方法です。
例えば、
音声
えー、今回の、まあ、調査結果なんですけど、あの、前回より良かったと思います。
整理後
今回の調査結果ですが、前回より良かったと思います。
かなり読みやすくなります。
ただし、
話している内容そのものは、
できるだけ変えません。
③ さらに読みやすい文章へ整える場合
用途によっては、
もう少し文章を整えることもあります。
例えば、
今回の結果なんですけど、前回より良くて、まあ参加者も増えているので、そこは良かったかなと思います。
これを、
今回は前回より結果が改善し、参加者も増加したため、良い結果だったと考えています。
とする。
読みやすくなりました。
ただし、
ここまでくると、
単なる文字起こしというより、
文章の整文
に近くなってきます。
整えすぎると「本人が言っていない文章」になる
ここは注意したいところです。
読みやすくしようとして、
文章をどんどん直していく。
すると、
最終的には、
話した本人が実際には使っていない表現
になることがあります。
例えば、
音声では、
まあ、たぶんそれが原因なんじゃないかなと思います。
と言っていたのに、
その原因は〇〇である。
としてしまう。
これでは、
ニュアンスが変わります。
「たぶん」
「~ではないか」
という不確実さがなくなり、
断定した文章になっています。
文字起こしでは「意味を変えない」が大切
文章を整える場合でも、
できるだけ守りたいのが、
発言の意味を変えないこと
です。
特に、
否定。
推測。
程度。
時期。
数値。
固有名詞。
などは注意が必要です。
例えば、
あまり問題ではないと思う。
と、
問題ではない。
では、
意味が少し違います。
「あまり」という程度の表現を削っただけでも、
発言者の意図が変わる可能性があります。
④ 議事録にするなら「全部残す」必要はない
文字起こしと議事録は、
似ていますが、
目的が少し違います。
文字起こしは、
話された内容を文章にすること。
議事録は、
会議で何が話され、何が決まったのかを記録すること。
そのため、
議事録では、
すべての発言をそのまま残す必要がない場合があります。
例えば、
30分間の会議を、
すべて文字にすると、
かなり長くなります。
でも、
会議で重要なのが、
決定事項
担当者
期限
今後の課題
なら、
そこを整理した方が、
あとから確認しやすくなります。
「全文文字起こし」と「要約」は別物
ここも、
混同しやすいところです。
例えば、
10分の音声を文字にしたものが、
3,000文字あったとします。
それを、
500文字にまとめる。
これは、
単なる文字起こしではなく、
要約
です。
要約では、
何を残して、
何を省くか、
という判断が入ります。
そのため、
元の発言を確認したい場合には、
要約だけでは足りないことがあります。
用途によって残し方を変える
例えば、
同じ会議音声でも、
目的によって成果物は変わります。
発言を確認したい
→ 全文文字起こし
読みやすく確認したい
→ ケバ取りした文字起こし
内容を短時間で把握したい
→ 要約
決定事項を共有したい
→ 議事録
つまり、
「音声を文字にしてください」
だけでは、
実は、
完成形がいくつも考えられます。
研究のインタビューでは特に注意
看護研究などで、
インタビュー内容を文字起こしする場合は、
一般的な会議の文字起こしとは、
少し考え方が違うことがあります。
研究では、
分析に必要な情報を残すこと
が重要です。
どの程度、
言いよどみを残すのか。
沈黙を記録するのか。
笑いなどを記載するのか。
言い直しを残すのか。
これは、
研究方法や分析方法によって変わります。
単純に、
「読みやすくすればよい」
とは限りません。
AI文字起こしでも最後の確認は必要
最近は、
AIによる文字起こしもかなり便利になっています。
音声を読み込ませると、
短時間で文章にしてくれます。
ただ、
AIが文字にしてくれたからといって、
そのまま完成とは限りません。
例えば、
人名。
施設名。
専門用語。
医療用語。
略語。
数字。
似た音の言葉。
こうしたものは、
誤って認識されることがあります。
医療・看護の音声は専門用語にも注意
例えば、
薬剤名。
疾患名。
術式。
医療機器。
看護用語。
こうした言葉は、
一般的な会話より、
誤認識が起こりやすい場合があります。
音声としては正しく話していても、
文字になったときに、
まったく別の漢字になっている。
ということもあります。
そのため、
特に専門的な内容では、
音声と文字を照らし合わせる確認
が大切になります。
話者が複数いる場合は「誰が話したか」も重要
会議やインタビューでは、
複数の人が話すことがあります。
内容だけ文字にしても、
誰の発言なのか分からなければ、
あとから確認しにくくなります。
例えば、
Aさん:
Bさん:
のように話者を分ける。
あるいは、
司会:
参加者:
のように役割で分ける。
これだけでも、
かなり読みやすくなります。
タイムスタンプが必要な場合もあります
長い音声では、
あとから、
「この発言を実際の音声で確認したい」
となることがあります。
そんなとき、
タイムスタンプがあると便利です。
例えば、
[00:15:32]
のように時間を入れておけば、
元の音声へ戻りやすくなります。
ただし、
すべての文章にタイムスタンプを付けると、
逆に読みにくくなることもあります。
ここでも、
何のために使うか
が大切です。
文字起こしを始める前に決めておきたいこと
音声を文字にする前に、
私は、
少なくとも次のことを決めておくとよいと思います。
① 何のために使う?
研究?
会議記録?
インタビュー記事?
講義の振り返り?
② どこまでそのまま残す?
「えー」「あのー」まで残す?
不要な言葉は削る?
③ 文章を整える?
話し言葉のまま?
読みやすい文章にする?
④ 誰が話したか必要?
話者を分ける?
⑤ タイムスタンプは必要?
元音声へ戻る可能性はある?
これだけでも、
完成形がかなり明確になります。
「正確さ」と「読みやすさ」は同じではありません
文字起こしでは、
正確に残したい
という目的と、
読みやすくしたい
という目的があります。
この2つは、
必ずしも同じではありません。
話した言葉を、
一言一句そのまま残せば、
音声には近くなります。
でも、
文章としては読みにくくなることがあります。
反対に、
きれいな文章へ整えれば、
読みやすくなります。
でも、
元の話し方からは離れていきます。
どちらが正しいというより、
用途によって適切なバランスが違う
のだと思います。
「文字起こししてほしい」だけでは完成形が決まらない
文字起こしを依頼するときも、
ここを決めておくと、
仕上がりのイメージが共有しやすくなります。
例えば、
「話した内容をそのまま残してほしい」
「えー、あのー、などは削除してほしい」
「読みやすい文章に整えてほしい」
「会議の決定事項だけ議事録にしてほしい」
「全文文字起こしと要約の両方がほしい」
同じ音声でも、
依頼内容によって、
完成する文章はかなり変わります。
私なら「何を残したいか」から考えます
文字起こしをするとき、
最初から、
「全部文字にしよう」
と考えるのではなく、
「この音声から何を残したい?」
と考えます。
発言そのもの?
話した内容?
重要なポイント?
決定事項?
研究データ?
目的が決まると、
必要な文字起こしの形も見えてきます。
まとめ
文字起こしというと、
「音声をそのまま文字にする作業」
と思われがちです。
もちろん、
それが必要な場合もあります。
でも、
実際には、
全文をそのまま残す。
不要な言葉を取り除く。
読みやすく整える。
要約する。
議事録にする。
など、
いくつかの方法があります。
大切なのは、
「どれが一番きれいな文章か」ではなく、「何のために使う文章なのか」
です。
研究で使うなら、
分析に必要な情報を残す。
会議内容を確認するなら、
読みやすさを考える。
決定事項を共有するなら、
議事録として整理する。
短時間で内容を把握するなら、
要約する。
つまり、
文字起こしは、全部そのまま残せばよいとは限りません。
まず目的を決めて、
その目的に合わせて、
どこまで残して、どこまで整えるか
を考える。
それだけでも、
文字起こしされた文章は、
かなり使いやすくなると思います。
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