【施設長様へ】災害時の引き渡し、「渡さない」と決められますか?

【施設長様へ】災害時の引き渡し、「渡さない」と決められますか?

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皆様、こんにちは。スマート危機管理コンサルティングの久保です。
「保護者が迎えに来たのだから、すぐに引き渡すべきだ。」
そう思っていませんか?
私は消防職員として約40年間、さらに行政の危機管理部門でも勤務し、学校や保育所の避難計画にも数多く目を通してきました。
そして、引き渡しほど現場が迷う場面はないと感じています。
今回は、「渡さない」という判断も公式に認められている、という点を中心に整理します。

災害が起きたとき、迎えに来た保護者に、子どもをすぐに渡してよいかどうか、瞬時に判断できるでしょうか。連絡がつかない保護者を、いつまで、どこで、預かり続ければよいか、イメージできているでしょうか。

結論から申し上げます。引き渡しは、「渡すか渡さないか」を担当者一人の裁量で決めるものではありません。文部科学省のガイドラインには、「渡さない」という判断も、公式な選択肢として明記されています。

この記事では、①引き渡しが最大の難所である理由(3つの困りごと)、②「引き渡さない」判断が公式に認められていること、③引き渡しカードに書いておくべき具体的な項目、④保育所の場合(学校との違い)、という4つの視点で整理していきます。

なお、本連載をお読みの介護施設・医療機関の担当者の方にとっても、送迎中の被災や、ご家族への引き渡しをどう考えるかは、共通して備えておきたい論点だと思います。学校・保育所に限らない話として、あわせて読み進めていただければと思います。

「せっかく迎えに来てくれたのに、渡さないでいいのか」という迷いに、公的な資料がどう答えているかを、次の見出しから具体的に見ていきます。

■ 引き渡しが最大の難所である理由——3つの困りごと

学校・保育所の防災の中でも、「引き渡し」の場面は特に緊張を強いられます。困りごとは、大きく3つに整理できます。

1つ目は、保護者が迎えに来られないことです。交通機関が途絶し、勤務先から戻れないという状況は、災害時には珍しくありません。

2つ目は、連絡がつかないことです。保護者の安否や所在が分からないまま、学校・保育所として次の判断を下さなければならない場面が生じます。

3つ目は、目の前に来た人に渡してよいか、その場で判断できないことです。登録されていない人物が「迎えに来た」と名乗る場合や、危険が迫る中でそもそも引き渡してよいのかどうか、担当者は瞬時の判断を迫られます。

これらは、当日その場で初めて考えるべきことではありません。文部科学省のガイドラインは、登下校中に危機事態が発生した場合の対応、自宅で保護者が不在のときの対応、公共交通機関が途絶して迎えに来られない場合の対応について、あらかじめ各家庭で話し合っておくよう求めています。事前に家庭・園と話し合っておくべき事項として、制度上も位置づけられているのです。

この3つの困りごとのうち、特に③「渡してよいか判断できない」という迷いに、公式な資料がどう答えているのかを、次の見出しで詳しく見ていきます。

■ 「引き渡さない」という判断も、公式に認められています——文部科学省ガイドラインの3区分

学校には、学校保健安全法第29条に基づき、危機管理マニュアル(危険等発生時対処要領)の作成が義務づけられています。条文そのものに「引き渡し」という語は出てきませんが、文部科学省「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」が、このマニュアルに盛り込むべき事項として、引き渡しの基準を具体的に示しています。

このガイドラインのサンプル編には、震度・津波警報・警戒レベルなどの条件を組み合わせた、3区分の判断基準の記載例が示されています。架空の学校を想定した記載例ですが、判断ロジックの型として参考になります。

1つ目は、震度4以下で、津波警報等の発表がなく、警戒レベル3未満といった条件をすべて満たす場合です。この場合は「集団下校」とされています。

2つ目は、震度5弱以上の地震、あるいは警戒レベル4以上に該当する場合です。この場合は「保護者への引渡し」とされています。ただし、保護者同伴であっても、経路上の安全確保が確実にできないとみなされる場合は除かれます。

3つ目は、津波警報・大津波警報の発表、警戒レベル5(緊急安全確保)の発令、竜巻注意情報の発表等のいずれかに該当する場合です。この場合は「待機(宿泊)」とされています。

ここで、本記事の核となる一文をご紹介します。この③の対応欄には、「保護者が引渡しを求めて来校した場合も、危険性を説明し、待機等を勧める」と明記されています。つまり、保護者が実際に迎えに来ても、危険性を説明したうえで引き渡さず、学校に留まってもらうという判断が、公式な資料に明記されているのです。

この記載は、単発のものではありません。同ガイドラインの「家庭との連携」の章には、「引渡しに関して保護者と共有すべき留意事項(例)」として、次の3点が示されています。①通学路に危険箇所がある場合は、そこを避けて安全な経路で来校し引き渡しを受けること。②保護者自身の身の安全が確保できない場合には、迎え(引取り)に来ないこと。③学校に迎えに来た段階で周囲に危険が迫っている場合には、児童生徒等を引き渡さず、保護者とともに学校に留まる、もしくはともに避難すること。

これらはいずれも、「引き渡しカードを提出したのだから、迎えに来れば必ず渡してもらえる」というものではなく、その場の状況によっては渡さないという判断がありうることを、あらかじめ保護者と共有しておくべき事項として位置づけられています。

現場の担当者にとって、「せっかく迎えに来てくれたのに、渡さないでいいのか」という迷いは、最も苦しい場面の一つだと思います。保護者の心配する気持ちを目の前にして、「危険だから待ってください」と伝えることには、大きな心理的な抵抗があるはずです。

しかし、これは担当者個人が一人で抱え込むべき判断の重さではありません。「渡さない」という選択肢は、文部科学省のガイドラインという公式な資料に、判断基準・対応の記載例として明記されているものです。この裏付けを知っているかどうかで、実際にその場面に立ったときに担当者が立てる足場は、まったく違うものになるはずです。

なお、これはあくまでガイドラインのサンプル編に示された、架空の学校を想定した記載例です。実際の判断基準は、自校の立地や実情に応じて、教育委員会等の指導のもとで定めていく必要があります。この3区分の数値をそのまま自校に当てはめればよいというものではない、という点にはご注意ください。

■ 引き渡しカードに何を書いておくか——具体的な項目

文部科学省のガイドラインのサンプル編には、「引渡し事前登録カード」と「引渡し控えカード」という2種類の様式例が示されています。ここでは、その具体的な項目を紹介します。

引渡し事前登録カードには、次のような項目が挙げられています。児童の氏名・学年組、在学している兄弟姉妹。保護者の氏名・住所・電話番号。そして、引取り者の氏名・続柄・連絡先を、3名まで優先順位を付けて登録する欄です。さらに、集団下校でよいか、それとも登録した引取り者への引渡しを希望するかを、あらかじめ意思確認する欄。加えて、災害等により保護者の帰宅が困難になる場合に、学校に子どもを留めることを希望するかどうかを確認する欄も設けられています。

運用の原則も明確です。緊急時の引渡しは、このカードに記載された引取り者に対してのみ行うとされています。つまり、事前登録のない代理人には、原則として引き渡さないという建て付けになっています。

対になるのが、「引渡し控えカード」です。名刺大の大きさで、保護者が常に携帯できるようになっており、学校の連絡先・ウェブサイト・メールアドレスに加えて、前の見出しでご紹介した「危険が迫っている場合は迎えに来ない」といった留意事項が、裏面に印刷されています。

ここで一つ、正直にお伝えしておきたいことがあります。「登録された引取り者のみに引き渡す」という原則は示されているものの、実際に事前登録のない人が来た場合に、具体的にどう説明してお断りするのか、どのように本人確認を行うのかという手順までは、今回確認した公的資料には明記されていませんでした。この部分の実務的な運用は、各校・各園であらかじめ定めておく必要があります。

なお、引き渡しカードを使った訓練の年間計画への組み込み方については、本シリーズの別の回でも訓練設計の考え方を取り上げています。ここでは引き渡しそのものに絞ってお伝えしました。

■ 保育所の場合——学校とは異なる根拠法令と、毎月1回の訓練義務

ここまで学校を中心に見てきましたが、保育所は根拠となる法令も、訓練の頻度も異なります。混同しないよう、整理しておきます。

学校は、学校保健安全法第29条と、文部科学省のガイドラインに基づいて危機管理マニュアルを整備します。一方、保育所は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第6条に基づき、非常災害対策計画を立てる努力義務と、避難・消火訓練を実施する義務を負っています。この第6条第2項では、避難及び消火の訓練を、少なくとも毎月1回は行わなければならないと定められています。学校の訓練の枠組みとは別の規定ですので、「学校も毎月1回」と一緒くたにしないよう注意が必要です。

引き渡しについては、厚生労働省(現在はこども家庭庁が公開)の「保育所保育指針解説」に、具体的な記載があります。指針本文には、「災害の発生時に、保護者等への連絡及び子どもの引渡しを円滑に行うため、日頃から保護者との密接な連携に努め、連絡体制や引渡し方法等について確認をしておくこと」と明記されています。

そして、本見出しの核となる記載がこちらです。解説文には、「保護者が迎えに来ることが困難な場合の保護者以外への引渡しのルールについても、氏名や連絡先、本人確認のための方法などをあらかじめ決めておくことが求められる」と明記されています。学校の引き渡しカードと同じ発想、つまり事前登録・優先順位・本人確認という考え方が、保育所にも制度として求められているということです。

ただし、学校のサンプル編のような具体的な様式そのものは、保育所保育指針解説には示されていません。考え方は共通していますが、様式をどう具体化するかは、各園に委ねられている部分が大きいと言えます。

なお、幼保連携型認定こども園については、保育所・幼稚園に準じた対応が求められると考えられますが、引き渡しに関する具体的な記載内容は、今回確認できていません。該当する制度をお使いの場合は、所管の窓口にもあわせてご確認いただくことをおすすめします。

■ まとめ

ここまで、①引き渡しが最大の難所である理由(3つの困りごと)、②「引き渡さない」という判断が文部科学省ガイドラインに公式に位置づけられていること、③引き渡しカードに書いておくべき具体的な項目、④保育所の場合の根拠法令・訓練頻度の違い、という4つの視点で整理してきました。

繰り返しになりますが、「引き渡すこと」だけが正解ではありません。危険が迫っている場合には引き渡さず、学校・保育所に留まってもらうという判断も、公式に認められた選択肢の一つです。

学校・保育所に限らず、送迎中の被災や、ご家族への引き渡しをどう考えるかは、施設種別を問わず、事前にルール化しておきたい共通の論点だと思います。

一つずつ、自校・自園の実情に照らして確認していただければ幸いです。

■ 参考文献・出典

- 文部科学省「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン 解説編(1)」(令和3年6月)
- 文部科学省「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン 解説編(2)」(令和3年6月)
- 文部科学省「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン サンプル編」(令和3年6月)
- 文部科学省(総合教育政策局)「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」全体構成ページ
- 学校保健安全法第29条
- 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第6条
- 厚生労働省(こども家庭庁公開)「保育所保育指針解説」第3章「4 災害への備え」(平成30年2月)

なお、幼保連携型認定こども園における引き渡しの具体的な記載内容、スクールバス・送迎中に被災した場合の引き渡し対応、事前登録のない代理人が来た場合の具体的な本人確認手順については、今回確認できた公的資料の範囲では明記が見当たりませんでした。断定を避け、確認できた範囲での記載にとどめています。

最後に

私は、
消防職員として約40年
行政の危機管理部門で約5年
の経験を活かし、医療・介護施設を中心に、

消防計画
BCP
避難確保計画

の見直しや統合、実効性向上のお手伝いをしています。

「引き渡しの基準が、職員のあいだで共有できているか自信がない」
そんな不安がありましたら、お気軽にご相談ください。
"提出するための計画"ではなく、"現場で使える計画" を一緒に作り上げましょう。

現在、スマート危機管理コンサルティングでは、【毎月限定5枠】で「既存計画の無料健康診断」を実施しております。
プロの目線で、貴施設の計画の以下のポイントを診断いたします。

初動の実効性: 夜間の少ない職員(出勤率3%程度を想定)でも、本当にそのマニュアル通りに動けるか?
属人化リスク: 作成担当者が辞めても、他の職員が理解して引き継げる内容(個人名ではなく役職名での記載など)になっているか?
監査対策: 感染症と自然災害の違いを明確に切り分け、行政の厳しい監査をクリアできる整合性が取れているか?

診断後、「どこをどう修正すべきか」の具体的なフィードバックをお渡しします。

もちろん、診断を受けたからといって、無理に有料サービスをおすすめすることはありません。「作ったまま放置されている計画」を、現場の命を守れる「生きた計画」 にするための第一歩として、ぜひこの無料健康診断をご活用ください。

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