裁量で勝てるポイントが見えているのに、それをそのままEAに落とし込めば簡単に再現できる。最初はそう思いがちだ。だが実際に作り始めると、そこで初めて気づく。難しいのは売買ロジックそのものよりも、「自分が何を見て判断していたのか」を正確に言語化することだ。
裁量トレードでは、トレーダーは無意識に大量の情報を処理している。ローソク足の形、直前の勢い、時間帯、伸び切った感覚、嫌な動き、入るには薄い場所、見送るべき空気。こうしたものは頭の中では自然に処理できる。しかしEAは違う。曖昧さを理解しない。条件が書かれていなければ存在しないのと同じだ。
つまり、裁量を自動売買化する作業は、単なるプログラミングではない。自分の判断を分解し、定義し、例外まで含めて仕様に落とす作業になる。ここが最初の壁だ。
しかも厄介なのは、条件を定義したら終わりではないことだ。むしろ本番はその後に始まる。実装して、バックテストして、想定と違う動きを見て、「この条件が足りなかった」「ここは除外しないとダメだった」と修正する。この繰り返しになる。
裁量トレードでは一回の判断で済んでいたものが、EAでは無数の枝分かれになる。
エントリー条件は何か。
エントリーしない条件は何か。
損切りは固定か、状況で変えるのか。
利確はどこか。
追加ポジションはあるのか。
時間帯で挙動を変えるのか。
指標時は止めるのか。
異常値やスプレッド拡大時はどうするのか。
こうした細かい部分を一つずつ決めないと、EAは平気で「そこじゃないだろ」という場所でエントリーする。
そしてもう一つ難しいのが、修正作業そのものだ。EAは一箇所直せば終わる世界ではない。ある条件を追加すれば、別の場面でエントリーしなくなる。フィルターを強くすれば精度は上がるが、チャンスは減る。逆に条件を緩めればエントリーは増えるが、ゴミトレードも増える。つまり修正は改善であると同時に、副作用の管理でもある。
さらに最近はAIを使ってEAを作る人も増えている。これは確かに強力だ。実装速度はかなり上がるし、コードのたたき台を作るには非常に便利だ。ただし、ここにも別の難しさがある。AIは曖昧な指示を受けると、それっぽく補完してしまう。すると、少しずつ自分の理想からズレたEAが出来上がる。
これが怖い。
作っている途中では前進しているように見える。
コードも増える。機能も増える。
だが気づけば、「自分が欲しかったもの」ではなく、「AIが文章から推測したもの」になっている。
だからEA開発では、AIに丸投げするほど危ない。必要なのは、コードを書かせることより先に、仕様を固定することだ。毎回「今の仕様はこれ」と言語化し、どこを変えてどこは変えないのかを明確にする。この管理ができないと、修正のたびに別物になる。
結局、裁量トレードを自動売買化する難しさは、勝てる手法を持っているかどうかだけでは決まらない。むしろ重要なのは、その手法をどこまで分解して、ブレずに定義し続けられるかだ。
裁量では一瞬の感覚で済むことが、EAでは数十個の条件になる。
一回の修正で済むと思ったものが、何度も検証し直す作業になる。
AIを使えば楽になると思ったものが、逆に仕様管理の甘さを露呈させることもある。
自動売買ソフト作りは、「勝てるロジックを見つける作業」というより、「自分の頭の中にあるロジックを壊さずに言語化し続ける作業」に近い。
だから難しい。
そして、ここを越えられる人だけが、本当に使えるEAにたどり着けるのだと思う。