前回、以下の記事を投稿しました。
投稿してからほかの方のブログとか拝見したんですが(遅い)、あんまりがっつり書いている人は少なめ......?
文章書くのは好きな方なので私はがっつり書きます。
さて、私はとある国立大学で心理学を専攻している学生相手に統計を教える非常勤講師をそこそこの年数やっているのですが、毎年「大学受験で数学から逃げられると思ったのに......!」と絶望する学生を多く見ています。かわいそうですね。
多分ココナラを見ている人は大学生~社会人の方が多いと思うので、この投稿が高校生の進路選択に寄与することはないと思うのですが、それはそれとして学生の「どうして......!」という絶望に一定の説明を提供してみようかな、という趣旨の投稿となります。
あと単純に、「心理学で研究ってなにしてるの?」という方も多いと思うので、そうした方に向けて「こういうことしてるよ!」というのを知ってもらえると嬉しい、という感じですね。
・心理学にもいろいろあるよ
一口に「心理学」と言っても、実はその中には様々な分野が存在しています。さすがに細かい話は割愛しますが、ざっくり分けると、人間や動物の認知・感情・行動などの基本的な仕組みを明らかにしようとする「基礎心理学」と、心理学の知見を臨床・教育・産業などの具体的な問題に応用しようとする「応用心理学」があります。この説明も専門の方からするとざっくりしすぎですが。
私は渡り鳥的に基礎も応用もかじっていたのですが、一応の専門としては臨床心理学(カウンセリングとかですね)になります。この場合は、応用心理学の中の臨床心理学を専門としていましたよ、ということになるわけですね。
上記の通り心理学にもいろいろな領域があるので、実は心理学と言ってもすべての領域で一様に同じ程度の統計知識が要求されているわけではありません。例えば私の専門である臨床心理学では「うつ病に効果のあるカウンセリングの方式」などが研究の対象となるので、必要となる統計知識としては医学系に近しい形となります。例えば分散分析などがよく用いられています。
一方で、例えば基礎心理学の中で人や動物の「認知」を研究する認知心理学では、反応時間や正答率などが研究対象となることがあります。こうしたデータは、単純に平均値を比較するだけでなく、反応の速さや正確さがどのような条件で変化するのかを、統計モデルを用いて調べることも多いです。
さらに、「質的研究」と呼ばれるような、例えば何らかの体験の当事者の記述や言語的・文脈的な情報(いわゆるナラティブですね)を研究する方式では、もちろんその研究法の知識は必要となるのですが、統計的分析が必要とされないということもあります。この場合でも先行研究の調査などに統計知識はあるに越したことはないのですが、統計が「必須」であるかというとそうではないこともあるわけですね。
長々書きましたが、要は心理学にもいろいろな領域があり、領域によって求められる統計知識には差異がある、ということです。なので十把一絡げに「心理学で求められる統計!」と銘打つのははばかられるのですが、一応ある程度共通する要素もあるかな、ということで、以下でなぜ心理学の多くの領域で統計が必要になっているのか、というのを語りたいと思います。
・心理学では「個体差」が鬼門
心理学でなぜ統計が必要なのか、というのを考えるときに重要な概念は「個体差」という概念です。心理学ではほとんどの場合、人や動物などの生き物を対象として実験などを行います。当たり前ですが、人や動物にはその個体(個人)ごとに違いがあり、「まったく同じ個体」というのは存在しません。例えば一卵性双生児は遺伝的には非常に均質になるわけですが、それぞれが生活する中で受け取る刺激には必ず差があるため、ほとんど同じ環境で育った一卵性双生児でさえも「同じ個体」ではないわけです。
個体が違えば、そこには差異が生まれます。同じ情報に触れた時でも、あなたと私では受け取り方が異なってきます。このあたりは、SNSが盛んな現代では理解しやすいのではないでしょうか。同じ投稿を目にした時でも、その投稿に対する反応は十人十色ですよね。
また、同じ人間でも「常に同じ」というわけではありません。人は成長したり、老化したりします。同じ自分でも学生の頃の自分と、社会人になりたての自分、社会人としての地位が確立された自分ではそれぞれ違うはずですよね。これを細かに見ていけば、「今」この瞬間の自分と、少し前や少し後の自分もまた異なってくるはずです。極端に、かつちょっと小難しく言ってしまうと、「観測された瞬間と同一の個体は、その個体自身も含めてこの世界に存在しない」ということになります。
上記のように人や動物には個体差があり、極端に考えるならその個体自身も含めて同じ個体は存在しません。ですが、心理学では「人間」「日本人」「○○大学の学生」など、なんらかの集団に対してなにがしかの「特徴」を知りたいと考えています。みんな違うのに、同じところが知りたいんですね。困りました。
さらに厄介なことに、個体差だけでなく、同じ人でも体調や気分、測定するタイミングなどによって結果が変わります。つまり、心理学で得られるデータには、知りたい効果や関係性以外にも、さまざまな要因によるばらつきが含まれているわけです。
ここでこれら問題を解決......とまではいきませんが、ある程度の妥当性をもってこの「特徴」を記述する方法に、統計という考え方が入ってくるわけです。もちろん個体はそれぞれ違うわけですが、「だいたいこのくらいの人が多い」というのは言えます。日本人男性であれば、だいたい身長160cm ~ 180cmくらいの人が多い、というような感じです。もちろん日本人男性でも160cm未満の人、180cmより高い人というのもいるのですが、おおよそその範囲内に収まりますよ、ということですね。
心理学の研究も多くは上記の身長の例のような形で、「なかには違う人ももちろんいるけど、多くの人にこうした特徴があてはまりますよ」というのを探しているわけです。以下でもう少し具体的に見ていきましょう。
私は臨床心理学が専門なので、例としてうつ病の人に対するカウンセリングの効果を知りたい、というような文脈を考えてみます。カウンセリングも、お医者さんが処方してくれるお薬も、人によってその後の変化は異なります。劇的に改善する人もいれば、ほとんど変化しない人、むしろ悪化してしまう人もいます。そのため、「平均的にみると症状は改善しているのか?」という視点が必要になってきます。
ただし、カウンセリングを受けた人の症状が改善したとしても、それがカウンセリングによるものなのか、時間が経てば自然に改善したのかはわかりません。そこで、例えばカウンセリングを受ける群と受けない群を比較して、平均的な改善の程度にどれくらいの違いがあるのかを調べます。もちろん、もともとの症状の重さなど、群間の条件を適切にそろえることも重要です。
このように、個人ごとの変化には違いがあっても、適切に計画された研究で集団間の違いを調べることで、カウンセリングの平均的な効果を推定できるわけです。
上記のように、心理学で効果や関係性の強さなどを見ようとすると、個体差の影響から「ある集団における平均的な効果・関係性の強さ」に注目する必要が出てきます。つまり、ある程度の数の人を集めて、データを収集し、その効果の大きさや関係性の強さについて検証する必要が出てくるんですね。読んでいてわかると思いますが、これは統計に求められる手続きそのものとなっています。なお、統計的手法によっては、この個体差というものを直接扱うことのできる、つまり個体差を制御したうえで集団に対する効果・関連を見る手法も存在しています。
「人間は自由の刑に処されている」と述べたサルトルという哲学者がいましたが、私たちが個人ごとに自由に行動し、個体差を獲得する権利を有しているからこそ、心理学の学生は統計から逃げられないわけですね。こう言うと統計の学習がまさしく刑罰のようですが、統計を教える教員としてはなるべく楽しく学習してもらえるように心がけたいものです。
・最後に
心理学と統計、ある程度実態を知っている人には親和性の高い組み合わせであると感じる一方で、そうではない人にはよくわからない組み合わせだったのではないでしょうか。「人の心が読めると思ったのに統計やらされた」という人がいるかいないかはわかりませんが、ちょっとでも心理学における統計の必要性の理解の一助となれたら良いなと考えています。
途中にも書きましたが、私は心理学の学生相手に統計講義を継続的におこなっておりますし、本業では非専門家のクライエントに対してデータ分析全般の説明を担当しています。初学者にわかりやすく伝えるスキルはそれなりかな、と自負しておりますので、「研究の統計手法考えて実施を手伝ってほしい......!」という方や、「大学の講義の内容解説してほしい......!」という方、「仕事で必要になったけどよくわからん......!」という方などいらっしゃれば、下記出品など検討していただけると幸いです。