「自分には、これといった強みがないんです」後輩からこんな言葉を聞いたことはありませんか。
自分の強みを知ることは、単に自信を持つためだけではないと思います。自分がどんな場面で力を発揮できるのかが分かれば、仕事への向き合い方や、これから挑戦したいことも変わってくるはずです。だからこそ、後輩には自分の良さを知り、それを生かしながら、生き生きと働いてほしいと思っています。
ただ、強みは必ずしも、本人が「得意です」と語ることの中にあるとは限りません。
先日の1on1で、そんなことを考える出来事がありました。今回は、その対話を振り返りながら、後輩の強みを見つけるために大切にしたい3つの視点について書いてみます。
「それは誰でもできることなので」
ある日の1on1で、後輩に「仕事の中で、自分が貢献できたと感じたのはどんなとき?」と聞いてみました。すると、あるプロジェクトでの出来事を話してくれました。現場から寄せられる問い合わせや困りごとが、少しずつ積み重なっていたとのこと。
後輩は、それらを一度整理すれば、どこに問題が集中しているのかが分かり、今後の改善にもつなげられるのではないかと考えました。そこで、自ら情報を集めて傾向を分析し、改善すべきことの優先順位を整理したそうです。
誰かから細かく指示されたわけではありません。本人が必要性を感じ、自分から動いたのです。私は、いい仕事だなと思いました。ところが、後輩はこう続けました。「でも、それは自分だからできた、とかではないと思います」
理由を聞くと、「普通に当たり前にやるべきことだと思っているので」と。確かに、情報を集めて整理するという作業自体は、ほかの人にもできたかもしれません。でも、その必要性を自分で判断し、行動に移したことにも価値があるはずです。
なぜ、自分が自然にできていることを、本人は強みとして捉えられないのだろう。私は、そこが少し気になりました。
「誰でもできる」を、すぐには否定しない
後輩は、ほかの人が担当していても、同じようにできたはずだと話していました。ここで「そんなことないよ。十分すごいことだよ」と伝えることもできたと思います。でも、本人は本当にそう思っているのであれば、私が否定しても、なかなか本人もすぐには納得できないかもしれません。そこで、こんなことを聞いてみました。
「確かに、同じ作業をほかの人ができたかもしれないね。でも、今回それをやった方がいいと最初に気づいたのは、あなたなんだよね?」すると、後輩は「そうですね」と答えました。
ここで考えたかったのは、「ほかの人にもできたかもしれない」という想像と、「実際に自分が必要性を感じて動いた」という事実を、少し分けてみることでした。ほかの人でもできたかもしれない。でも、実際に気づいて行動したのは本人です。
その実際に気づいて行動したという事実までを、小さく扱う必要はないのではないかと思いました。
一つの仕事にも、いろいろな得意がある
その後も話を続けていると、後輩がこんなことを口にしました。「確かに、”貢献”というものを、ざっくり捉えすぎていたかもしれません」この言葉が印象に残りました。
例えば、今回の仕事を「情報を整理して分析した」と表現すると、一つの作業に見えます。でも、そこには、あらゆる情報が雑多に積み重なっている状況に問題意識を持つこと、整理する必要性を判断すること、実際に分析して改善につなげることなど、さまざまな行動が含まれています。
そして、それぞれの行動に求められる力は少しずつ違います。これは、ほかの仕事でも同じだと思います。
例えば「会議を進行する」という仕事。参加者の反応を見ながら話す順番を変えるのが得意な人もいれば、意見がまとまらないときに共通点を見つけるのが得意な人もいます。
あるいは「資料を作る」という仕事でも、必要な情報を集めるのが得意な人、伝える順番を考えるのが得意な人、読み手が疑問に思いそうなところを予測するのが得意な人がいます。同じ仕事をしていても、その人らしさが表れる場面は違うのだと思いました。
今回の後輩の場合は、周囲がまだ手をつけていないことの必要性を感じ取り、自分から動けるところに良さがあるように思いました。
そのことを話していると、後輩も「確かに、誰かに言われる前に自分で気づいて動けたのは、良かったところかもしれません」と、自分の仕事を少し違う角度から捉え始めていました。
別々の経験に、同じ強みが表れていた
そこで、ほかにも似たような経験がないか聞いてみました。すると、後輩は別のプロジェクトでの話をしてくれました。
仕事を進める中で、「このままだとうまくいかなくなりそうだ」と感じたとき、問題が大きくなる前に周囲へ相談したり、仕事を依頼したりできるようになってきたというのです。これも、単に相談や依頼が上手になったという話ではなさそうでした。周囲の状況を見て、対応が必要だと感じ取り、早めに行動している。先ほどの話と共通するものがあるように感じました。
一つの仕事だけを見ると、「たまたまできたこと」「誰でもできること」と思えるかもしれません。でも、違う仕事でも似たような判断や行動を繰り返すことができているとしたら、そこにはその人らしい強みが表れているのかもしれません。後輩と話しながら、そんなことを考えていました。
自分にとっての「当たり前」は、誰かにとっての「得意」かもしれない
今回の1on1を通じて、人は、自分が自然にできることほど、ほかの人も同じようにできると思ってしまうのではないかということに、あらためて気づくことができました。
例えば、人の表情の変化にすぐ気づく人は、それが特別なことだとは思っていないかもしれません。複雑な話を自然と整理できる人も、「話を聞いていれば分かること」と感じているかもしれません。なぜなら、本人にとっては、意識しなくてもできてしまうことだからです。
でも、同じ場面にいても、同じことに気づいたり、同じように判断したりできるとは限りません。むしろ、本人が苦労せずにできていることだからこそ、周囲との違いに気づきにくいこともあるのだと思います。
自分にとって当たり前であることと、誰にとっても当たり前であることは、必ずしも同じではありません。だからこそ、本人が「特別なことはしていない」と話すときこそ、その行動をもう少し詳しく聞いてみる価値があるのではないでしょうか。
強みが見つからないのは、仕事を大きく捉えすぎているからかもしれない
もう一つ、今回の対話から考えたことがあります。それは、強みが見つからない理由は、能力の有無だけでなく、自分の仕事をどのくらい細かく捉えているかにもあるのではないか、ということです。
「資料を作るのが得意ですか?」そう聞かれると、あまり自信がない人でも、「相手がどこで疑問を持ちそうか、考えるのは得意ですか?」と聞かれれば、答えが変わるかもしれません。
「会議を進行するのが得意ですか?」という質問には首をかしげる人も、「意見が食い違っているときに、それぞれが何を大切にしているのかを整理するのは得意ですか?」と聞かれれば、自分の良さに気づけるかもしれません。仕事の名前だけでは見えてこないものが、その中にある具体的な行動に目を向けることで見えてくる。
だから私は、相手の強みを見つけるとき、特に次の3つの視点を意識して対話していきたいと思っています。
1.本人が「当たり前」と思っている行動こそ、もう少し詳しく聞いてみる
2.仕事を分解して、本人ならではの判断や行動を探す
3.別々の経験に共通する、その人らしい行動を探す
本人が自然に繰り返している行動の中には、まだ言葉になっていない得意が隠れていることがあると思います。
まだ知らない、後輩の良さを見つけるうれしさ
今回の1on1では、後輩がこれまで当たり前だと思っていた行動に、少しずつ名前がついていきました。それは、新しい強みを見つけただけではなく、これまで本人が積み重ねてきた仕事の価値を、あらためて確かめる時間だったように思います。
自分の良さを少しずつ言葉にできるようになるにつれて、後輩の表情も明るくなっていきました。そして、実は私自身も、とてもうれしい気持ちになっていました。
これまでも一緒に仕事をしてきた後輩なのに、話を聞いてみると、まだ知らなかった良いところが見えてくる。「ああ、この人にはこんな良さもあったんだ」そう思える瞬間が、私は好きなのだと思います。
強みは、本人が「すごい」と思っていることだけでなく、「当たり前」と思って繰り返していることの中にこそある。
そして、その強みが見えてくると、これまでの仕事の意味も、これから挑戦できることも、少し違って見えてくるのかもしれません。後輩自身がまだ気づいていない良さを、これからも一緒に見つけていきたいと思います。