「……今日こそ読むぞって、開いたのになぁ。」
はじめに
こんにちは!Sou です。
IT 企業で働くかたわら、相談者のお悩みに合わせた本を処方するサービス「処方選書カルテ」を副業として運営中です。
冒頭のひとり言に、心当たりはないでしょうか。
この連載は、よくあるお悩みに、実際に運営しているサービスと同じプロセスで本気のカルテを書く「公開処方箋」です。
相談者は架空、プロセスは本物。あなたの悩みと重なったら、このカルテはあなたのものです(詳しい建て付けは第 1 回をどうぞ)。
今回のご相談
連載 2 回目の相談者は、ミサキさん(20 代・人材サービス会社の法人営業)です。
※ 架空の相談者であり、実在の人物ではありません
学生の頃は本を読むのが好きだったのに、働き始めてから、まったく読めなくなりました。仕事のために「読まなきゃ」と本を買うのに、開くと数ページで眠くなるか、気づいたらスマホを触っています。
時間がないわけではないはずなのに、積読ばかりが増えて、自己嫌悪して、また「今度こそ」と買ってしまう。この繰り返しです。
この前は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』まで買ったのに、「まさに私のことだ」と苦しくなって、半分で止まっています。本が読めない人のための本すら読み切れない私って、何なんだろうって。
「……積読の山が目に浮かんだ」という方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
よくある悩みに見えて、その正体は「読み方」や「意志の強さ」とは別のところにあります。
カルテでは、悩みの本質を言語化するところから始めます。
診立て ー 読書に乗った 3 つの「重り」
紙上ヒアリングを通じて見えてきた悩みの本質を、カルテでは 3 つに言語化しました。
1. 読書が「楽しみ」から「宿題」にすり替わっている
2. 「最後まで読み切って、初めて 1 冊」という厳しすぎる採点表
3. 意志がいちばん弱っている時間に、スマホの隣で戦っている
1. 読書が「楽しみ」から「宿題」にすり替わっている
転機は、新人時代に尊敬する部長から言われた一言でした。
「営業は引き出しが命だから、月 2 冊は本を読め」
以来、買う本はビジネス書に変わり、小説を読まなくなりました。
「理想の読書生活」を尋ねたときのことです。
「通勤でビジネス書、寝る前にベッドで小説」と答えた直後、ミサキさんはハッとしました。
「あ、いま言いながら気づいたんですけど、理想のイメージの中に普通に小説が入ってますね、私」。
ここに、ひとつ目の重りがあります。
「本が読めない」のではなく、「役に立つ読書しか自分に許していない」のです。
「小説を読む時間があるなら、仕事の本を読むべきじゃない?」
そんな気持ちが、いちばん好きだった楽しみを禁止し、本を「もう一つの仕事」に変えていました。
2. 「最後まで読み切って、初めて 1 冊」という厳しすぎる採点表
学生の頃は「読み切ろうとか考えたこともなかった」のに、今は半分で止まった本を「挫折」と数えています。
昨年買った 15 冊で読み切れたのは 1 冊。積読は 21 冊になりました。
象徴的なのが、相談文の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』です。
「わかる、わかる」と読み進めるうち、だんだんページをめくるのが怖くなったそうです。
本が読めない人のための本すら、「読み切れるか、挫折か」の採点対象になっていました。
採点表を持ち込んだ瞬間から、本を開くことは「また失敗するかもしれない行為」に変わります。
積読の山は、「失敗の在庫」に見えてくるのです。
3. 意志がいちばん弱っている時間に、スマホの隣で戦っている
ある金曜の夜、ミサキさんは「今日こそ読むぞ」とソファで本を開きました。
しかし 3 ページで通知に手が伸び、気づけば 90 分、SNS を眺めていたそうです。
月 10 冊の感想を上げる同期の読書アカウントに、いいねを押しながらモヤモヤする ー 。
冒頭のひとり言は、この夜のものです。
読書アプリも朝読書も、数日で挫折してきました。
でも、それは根気の問題なのでしょうか。
意志が枯れた時間帯に、スマホの隣で本を開く。
現代で、いちばん分の悪い戦場です。
根気の問題ではなく、戦場の設計の問題なのです。
この 3 つは、バラバラの問題ではありません。
・「読まなきゃ」で開くから、本が仕事の続きになる。
・疲れた夜にスマホの隣で開くから、3 ページで止まる。
・止まった本を「挫折」と数えるから、開くのが怖くなる。
・それでも本を買う気持ちは消えないから、積読だけが増えていく ー 。
読む力が消えたのではなく、読書の上に重りが乗っているだけなのです。
この重りをひとつずつ降ろすために、カルテでは次の 3 冊を処方しました。
処方選書 ー この 3 冊
📖 1冊目 『本の読み方 スロー・リーディングの実践』 ー 悩み② 「採点表」を破り捨てる本
1 冊目は、『マチネの終わりに』などで知られる小説家・平野啓一郎さんの読書論です。
「速読コンプレックス」からの解放を掲げ、一冊をゆっくり味わう読み方を勧めています。
この本が繰り返し伝えることは、シンプルです。
読書は何よりも楽しみであり、慌てることはないのである。
誤読を恐れなくていい。疲れたら途中でやめていい。
書く側のプロが、「速く・たくさん・最後まで」の「正解」を気持ちよく壊してくれます。
テクニックを 100 個集めるより、小説家本人の「ゆっくりでいい」という保証のほうが、いまのミサキさんには効く。
頑張る読書を続けてきた人への、「頑張らない読み方」の免許証です。
📖 2冊目 『スマホ脳』 ー 悩み③ 読めない夜の「種明かし」をする本
2 冊目は、精神科医アンデシュ・ハンセンさんが、スマホと脳の関係を解き明かした世界的ベストセラーの新書です。
「通知が来ているかも」という期待だけで、脳はドーパミンを出して手を伸ばさせる。
3 ページで止まった、あの金曜の夜の「種明かし」が書かれています。
スマホのアプリは、世界最高の頭脳が脳の反応を研究し尽くして設計したものです。
負けるのは意志が弱いからではなく、相手が強すぎるから。
この一冊で、「私はダメだ」が「そういう仕組みだったのか」に変わります。責めるべきは意志ではなく、整えるべきは環境。打つ手が、具体的になります。
同期の投稿にざわつく気持ちにも、SNS と自尊心の章が答えをくれるはずです。
📖 3冊目 『成瀬は天下を取りにいく』 ー 悩み① 「役に立つか」を忘れて読む本
3 冊目は、2024 年本屋大賞受賞作、宮島未奈さんの連作短編集です。
主人公は、「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」と宣言し、閉店間際の百貨店に通う中学生・成瀬あかり。
正直に言うと、この一冊だけは処方というより「遊び」です。
仕事に役立てようとしないでください。線も引かないでください。
大学の行き帰り、続きが気になって駅のホームでもページをめくっていた。
あの頃の読み方を思い出すために、この一冊を選びました。
連作短編なので「今日は 1 話だけ」ができて、1 話ごとに小さな「読めた」が積み上がります。
伊坂幸太郎さんを愛読していたミサキさんなら、成瀬の疾走に巻き込まれるはずです。
読み終えたとき、きっと気づきます。
「そういえば、頑張って読まなかったな」と。
その気づきこそが、今回の処方のいちばん大事な効き目です。
服薬指導 ー 読む順番
カルテでは、読む順番まで含めて処方します。
今回は「『スロー・リーディング』→『スマホ脳』→『成瀬』」の順です。
順番には、理由があります。
ミサキさんは、「方法」ならすでに試してきた人です。
今回は読書術を足すのではなく、読書に乗った重りをひとつずつ降ろす順番にしました。
「土台 → 視野 → 行動」と、重りを降ろす順に進みます。
Step 1: 『本の読み方 スロー・リーディングの実践』で、読書の「採点表」を捨てる
1 日数ページで構いません。むしろ、それ自体がスロー・リーディングの実践になります。
「ちゃんと読まなきゃ」が緩むと、積読の山の見え方も変わってきます。
Step 2: 『スマホ脳』で、読めない夜の「戦場」を整える
自分を責める代わりに、環境をひとつだけ変えてみてください。
通知をすべて切る、寝るときはスマホを別の部屋で充電する。どちらかで十分です。
Step 3: 『成瀬は天下を取りにいく』で、楽しみのためだけに 1 話読む
採点表を捨て、戦場を整えたあとなら、きっと「気づいたら 2 話目」になるはずです。
そのときミサキさんは、もう読書を頑張っていません。
読み方のヒントも、ひとつだけ。
3 ページで止まった夜を、「失敗」と呼ぶのをやめてみませんか。
今日から、3 ページ読めた日は「読書した日」です。
経過観察 ー 最初の一歩
カルテの結びに、私はこう書こうと思いました。
だから、焦らなくて大丈夫です。
月に 2〜3 冊読める自分には、急いでならなくていい。
まずは金曜の夜、スマホを隣の部屋に置いて、成瀬の 1 話だけ。それで十分です。3 ページで眠くなったら、それは 3 ページ分の読書です。
ミサキさんは、架空の相談者です。
でもこの結びは、冒頭のひとり言に覚えのあった、すべての人に宛てたつもりです。
もし今日、一歩だけ踏み出すなら。
今夜、寝るときのスマホを別の部屋で充電して、積読の山から続きが気になりそうな 1 冊を、3 ページだけ。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました!
今回の公開処方箋は、架空の相談者をもとに作成したものです。
有料版の「処方選書カルテ」では、数問のアンケートとDMでのヒアリングを通して、あなたの悩みや読書習慣を整理します。
そのうえで、
・今、向き合いたい課題
・あなたに合う 3 冊とその選書理由
・おすすめの読む順番
・最初の一歩
を、専用のPDFカルテにまとめてお届けします。
▼ 自分専用の 3 冊を選んでもらう
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