「朝を望まない夜」

「朝を望まない夜」

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娘は、夜になると少し元気になる。

治療中だから、本当は昼夜のリズムを整えたほうがいい。
頭ではわかっている。医師からもそう言われている。

でも、現実はそんなに単純じゃない。

娘は言う。

寝たら明日になるじゃん。
明日になっても楽しいことないもん。
だから寝たくない。
寝るために薬で時間を飛ばすのも嫌。
でも、寝れないのも苦しい。
夜は元気になるから、何か出来る感じなの。

これは、今の娘が吐き出した精一杯の本音。

そうでない人には、理解されにくい感覚かもしれない。

「明日が来るのが怖い」
「起きているのも苦しい」
「でも眠るのも怖い」

どこにも楽な場所がない。

私は母親で、治療の専門家ではない。
彼女にとって正しい対応が何か、自信なんてどこにもない。
ネットを探せば、
こうすれば、ああすれば、という情報はいくらでも出てくる。

でも、目の前にいるのは、
理論ではなく、今まさに苦しんでいる一人の人間。

だから私は、まず否定せずに聞くことにしている。

そうだよね。
そう感じてるんだね。

矛盾していてもいい。
ぐちゃぐちゃでもいい。

「そう思っている」という事実だけを、そのまま受け取る。

正解かどうかは脇に置いて、
今はただ、吐き出せる場所でいようと思った。

一通り話を聞いたあと、少し時間を置いてから、こう伝えた。

どうしたって明日はくる。
明日のことは、明日考えればいい。
今は寝る時間だね、とりあえず布団に入ろう。

希望を語ったわけでもなく、
前向きな言葉をかけたわけでもない。

ただ、時間を小さく区切ってみただけ。

全部を考えなくていい。
人生を考えなくていい。
明日のことすら、考えなくていい。

今は「寝る」ための一歩だけ。

それが正解かどうかは、私にもわからない。

でも娘は、ほんの少し頷いて、
何となく次の行動に一歩を踏み出した。

劇的な変化ではなく
その瞬間の
小さな、小さな一歩。

今はそれで十分だと思ってる。


日々は、小さな関わりの積み重ね。
その中で、ふとよぎるのは、
急に彼女が消えてしまうかもしれないという、恐怖。

朝、部屋のドアを開けるとき、
もしかしたら、という思いが
いつも頭をかすめる。

そして、それを静かに払拭してくれる寝息。

そんな緊張と安堵を繰り返しながら、
毎日は過ぎていく。

これは治療法でも、正解でもない。

ただ、一人の母親として、
その時その場で彼女を目の前にして
選んだ関わり方だ。

正解よりも、
「今、この子が動けるサイズ」を一緒に探す。


それしかできない夜もある。
それでも、
吐き出せる関係があることが、
今は何より大切なのだと思っている。


あなたは今、
大切な人の前で、
どんな「小さな一歩」を差し出していますか。

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