第11話「再会の温度」
記事
占い
蒼と最後に会ってから、一ヶ月が過ぎていた。
電話は続いていた。
メッセージも途切れてはいない。
でも、会っていない時間は
やはり別の重さを持つ。
声だけの関係は、
どこか夢のようでもあり、
どこか現実より遠い。
澪はその距離を、
否定せずに受け入れていた。
それでも、
ふとした瞬間に思う。
「もし会ったら、
私たちはどう感じるんだろう」
その日、蒼から連絡が来た。
「来週、そっち行ける」
それだけのメッセージ。
でも、澪の胸は
静かに大きく揺れた。
一ヶ月ぶり。
距離ができてから
初めての再会だった。
再会の日。
澪は駅の改札の前に立っていた。
夕方の人混み。
電車の音。
アナウンス。
全部がいつも通りなのに、
澪の心臓だけが少し速い。
恋の再会は、
いつだって少し怖い。
会った瞬間、
何かが変わっているかもしれないから。
距離は、
人の心も変える。
電車が到着する。
人の流れが動く。
その中に、
蒼がいた。
澪は一瞬、
呼吸を忘れた。
蒼は前と同じようで、
少しだけ違っていた。
髪が少し伸びている。
顔が少し痩せている。
でも、
目は同じだった。
蒼も澪を見つけた。
人混みの中で、
目が合う。
その瞬間、
二人とも少しだけ笑った。
言葉はまだない。
でも、
その笑顔だけで
一ヶ月の距離が少し縮む。
蒼が近づいてくる。
「久しぶり」
澪は笑った。
「久しぶり」
それだけ。
でも、
その二つの言葉には
たくさんの時間が詰まっていた。
二人は駅を出て、
静かな川沿いの道を歩いた。
あの夜と同じ場所。
風の匂いも、
水の音も、
少し懐かしい。
蒼が言った。
「なんか、不思議」
澪は聞いた。
「なにが?」
蒼は笑う。
「一ヶ月ぶりなのに、
昨日会ったみたい」
澪は少し考えた。
そして言った。
「たぶん、
ちゃんと話してたからだと思う」
蒼は頷いた。
「沈黙しなかったからか」
澪は笑った。
「そう」
二人は橋の近くで立ち止まった。
街の灯りが川に映っている。
夜がゆっくり深くなっていく。
蒼が澪の方を向いた。
少し真剣な顔。
「澪」
澪も蒼を見る。
蒼はゆっくり言った。
「距離できて思った」
「うん」
「俺、
澪のこと好きだなって」
澪の胸が少し跳ねる。
告白ではない。
でも、
それは告白より
ずっと静かな本音だった。
蒼は続ける。
「前はさ」
「近くにいるのが当たり前で」
「ちゃんと考えてなかった」
澪は黙って聞く。
蒼は言った。
「でも距離できて、
澪の声聞くたびに安心して」
「会えない時間が長いほど、
なんか…大事になっていった」
澪の目が少し潤む。
恋は、
近くにいると見えないことがある。
距離ができて
初めて分かる気持ちもある。
澪は静かに言った。
「私も」
蒼が聞く。
「なに?」
澪は少し笑った。
「好きだなって思った」
蒼が笑った。
その笑いは、
前よりずっと柔らかい。
蒼は少し近づいた。
澪との距離は
ほんの一歩。
蒼が言う。
「抱きしめてもいい?」
澪は少し驚いた。
でも、
すぐに頷いた。
蒼はゆっくり
澪を抱き寄せた。
強くない。
でも、
確かな抱きしめ方。
澪の頬が
蒼の肩に触れる。
その瞬間、
澪は気づいた。
恋は、
近さじゃない。
安心だ。
蒼の胸の鼓動が聞こえる。
澪の鼓動も少し速い。
でも、
その速さは不安じゃなかった。
夜風が二人の間を通り過ぎる。
蒼が小さく言った。
「澪」
「うん」
「遠くても続けよう」
澪は答えた。
「うん」
その約束は、
大きな誓いではない。
でも、
静かな覚悟だった。
二人は少し離れて、
また歩き始めた。
恋は、
劇的な瞬間で変わることもある。
でも本当は、
小さな確認の積み重ねで
形になっていく。
澪は思う。
この恋は
前よりずっと静かだ。
でも、
前よりずっと本当だ。
そして、
この物語はもうすぐ終わる。
次に訪れるのは、
二人の未来を決める選択。
遠距離のまま進むのか。
それとも、
距離を越えるのか。
その答えは、
次の再会で決まる。
第11話 おわり。