別れの朝編

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あの日は、朝からとても寒い日でした。
いつものように、二人に見送ってもらい、仕事へ向かいました。

午後に差しかかったころ、スマホが震えました。
息子からの着信です。

めずらしいな、何か買ってきてほしい物でもあるのかな――
そう思って折り返すと、
「パパ、救急車で運ばれた。今、ICU。意識はあるから、大丈夫だと思う。」

心臓が一瞬止まりました。
即タクシーを拾い、病院へ。

焦ってはいたけれど、私はどこかで油断していました。
「大丈夫、また何日か入院して帰ってくる。」
「復帰が少し遅くなるだけ。」
そう信じて疑いませんでした。

ICUには慣れたもので、看護師さんたちとも顔なじみ。
案の定、主人は少しばつの悪そうな顔をして言いました。

「ごめん。来てもらって。」

先生からは「高熱なので念のためICUで管理します」と説明がありました。
「心臓に血栓らしきものもあるので、熱が下がったら処置を検討します。」と。

当時はインフルエンザが流行中で、ICUに長く滞在することはできませんでした。
「明後日また来てください。」と言われ、
主人も「大したことなかったよ」と笑っていました。

「んじゃ、帰るね。明後日。」
そう言って病室を出たとき、私は少しだけ胸がざわつきました。

――あぁ、いけないな。
何があるかわからないのに、ちゃんと顔を見て言葉を残せばよかった。
次は、ちゃんとしよう。

でも、その“次”は、もう永遠に来ることはありませんでした。

翌日。
LINEでやりとりをしていました。

「ごはん、食べれた?」
「熱は下がった?」

「絶食になってる。手術するかもしれないから。」
「熱は下がったよ。退屈だよ。明日、早めに来てね。」

そんなやり取りをして、夜の10時。
「手術は明日かな? ご飯食べれた?」と送ったLINE。
既読はつきませんでした。

“ゲームでもしてるのかな”と思いながら、
夜が更けても既読はつかないまま。

朝の4時――。
スマホが鳴り響きました。

画面には「病院」の表示。

「奥様、ご主人の容体が急変しました。至急、病院に来てください。」

夢だと思いました。
でも違いました。

息子を起こし、タクシーに飛び乗りました。
その時もまだ、「きっとまた乗り越えられる」と信じていました。

ICUに着くと、
一昨日とはまったく違う光景。
主人の体には、いくつもの機械が繋がれていました。

先生の言葉――「脳梗塞です。」
意識が戻ることはない、という宣告。

血をサラサラにする薬を飲んでいたため、
脳出血を止めることができない。

何を言われても、耳に入っていなかったと思います。
私はまだ信じていたのです。
「きっと、また帰ってくる」と。

延命措置の話になりました。
息子が先に口を開きました。

「無理に延ばすのはやめてください。
パパはもう、十分に頑張りました。
これ以上しんどい思いはさせたくないです。」

その言葉に、私はただ泣きました。
息子の方が、ずっと大人でした。

ICUに戻り、主人に話しかけました。
「聞こえてるよね?」
「また、漫才やらなきゃね。」

意識はなくても、耳は聞こえていると言われたから。
息子と二人で泣き笑いしながら、
いつものように掛け合いをしました。

そして――
モニターの波が、静かにフラットになりました。

ああ、逝ってしまった。

なんで、一昨日ちゃんと顔を見て「またね」と言わなかったのだろう。
なんで、もっと「ありがとう」を言わなかったのだろう。

それが、私の人生の最大の後悔です。


今、このブログを読んでくださっているあなたへ。

もし、あなたに大切な人がいるなら――
どんなに喧嘩をしていても、
どんなに腹が立っていても、
その日、家を出るときは顔を見て、言葉を交わしてください。

「いってきます。」
「またね。」
それだけでいいんです。

あなたには、私と同じ後悔をしてほしくありません。

とても長くなってしまいました。
次回こそ、ようやく――
ココナラにたどり着いた、私の“再出発”のお話をさせてください。
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