片目を瞑(つむ)りなさい

片目を瞑(つむ)りなさい

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コラム
私が大学を卒業し、現在の仕事に就いて間もない頃、当時の施設長から「片目を瞑りなさい」と言っていただいたことがあります。

当時、私が勤務していたのは養護老人ホーム。経済的に困窮されている方、今にも崩れそうな家から入所された方、認知症や精神疾患、知的障害を抱えた方、刑務所からの出所先として入所される方など——まさに高齢者福祉の“最後の砦”として、さまざまな背景を持つ方々が暮らしていました。

一つ屋根の下での集団生活ですから、日常的にトラブルが起こります。入所者同士の喧嘩、認知症の方の無断外出、散歩中に用水路へ落ちてしまうこともあれば、お部屋から驚くような金額の現金が見つかることもありました。

そんな毎日は、本当にドラマチックで、皆さんが自分らしく生活できる場であり、私にとっては多くのことを学ばせていただく貴重な時間でした。

しかし、こうした現場では、すべてに白黒をつけていては誰かが深く傷ついたり、職員が疲弊してしまったり、退所や退職を余儀なくされることも少なくありません。

そんな中でいただいた「片目を瞑りなさい」という言葉は、私にはこう聞こえたのでした。

「人に対して寛容でありなさい」  
「どんなことにも逃げ道を残してあげなさい」  
「もう片方の目は、しっかりと見守りなさい」

もちろん、集団生活の中でルールや規則は大切です。でも、私の心には「正しさ」よりも「人に対する思いやり」を大切にしたいという思いが、深く刻まれました。

その後、法人内での異動や職員の入れ替わり、世の中の移り変わりを経験する中で、「正しさ」を重視する方が圧倒的に多いのだと気づかされました。

「自分たちも、本当に困った時には優しさに救われると思うんだけどな」  
そんなことを思いながら、ふと、あの施設長の言葉を思い出すのです。


余談ですが「遊びは仕事を助けてくれる」と言って、さまざまな場に連れて行っていただいたのは——また別のお話。

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