博物館で、学芸員として6年間働いていました。資料を探して古い文献を読み、分からないことがあればさらに調べる。集めた情報を整理して、展示や文章として誰かに伝わる形にする仕事をずっとしてきました。
博物館を辞めたとき、私は結構本気で思っていました。
「これまで身につけてきたことって、博物館の外で何の役に立つんだろう?」
デザインの仕事をしてみたり、動画を編集してみたり。できることを探しながら、フリーランスとして仕事を始めました。
「こういうこと、誰かに頼めたらいいのに」
大学院で歴史学を学び、学芸員として働く中で研究を支援する仕事についてもぼんやり考えていました。
研究を進めるには、先行研究の調査や史料の確認など、とにかく時間がかかります。もちろん、研究の核心にかかわる部分は研究する本人が考えなければなりません。でも、研究に必要な作業には本人以外でもできるものがたくさんあります。
専門知識を持った人が調べれば、自分一人で探すよりも深く精度の高い情報までたどり着けることもあります。
参考文献を整えたり、集めたデータを伝わる図表やグラフにしたりする。研究成果をきちんと人に届けられる形にする作業もあります。
研究する人が「考えること」に、できるだけ力を使えるようにする。時間をかけて生み出した研究が、良い形で世に出るところまで手伝う。調査から発表まで支援するサービスがあったらいいのにと、以前から考えていました。
最初の「調べる仕事」
ココナラで初めて「調べること」に関わる依頼を受けました。ある歴史系の卒業論文について、参考文献や一次史料を探してほしいというご相談でした。
すでに集められている文献や論文の下書きを確認し、関連する研究論文を探しました。一次史料の所在や入手方法も調べ、見つけた資料が研究に本当に使えるものなのかを考えていく。
作業を進めるうちに、ふと思いました。
「あれ。これ、私がずっとやってきたことじゃない?」
博物館で当たり前のようにやってきたことや、大学院で身につけてきた経験。自分では、大学院や博物館の中でしか使えないと思っていました。
でも、場所を変えれば誰かを助ける仕事になる。しかも、かつて自分自身が「こんなサービスがあったらいいのに」と思っていた仕事でした。
たぶん、最初の依頼が今の私の仕事の始まりだったのだと思います。
「調べる」だけではなかった
最初は、文献や史料を探す仕事から始まりました。でも依頼を受けるうちに、研究する人の困りごとは資料探しだけではないと分かってきました。
参考文献を論文の形式に合わせて整えたい。分析結果を伝わるグラフにしたり、複雑な研究内容を一目で分かる図にしたりしたい。提出や投稿の前に、文章や体裁に抜けがないか確認したいという相談もありました。
資料探し以外の仕事でも、身につけてきた経験が役に立ちました。大学院や学芸員として培った調査の力。学生時代から続けてきた、デザインや図版作成の経験。
もともとパソコンが好きで、新しいツールを試すことも好きでした。現在はAIも使い、調査やデザインの経験と組み合わせて仕事をしています。
研究で何を伝えたいのかを整理して、読み手が理解しやすい形にする。博物館で展示を作っていたときにも、ずっと考えてきたことです。
膨大な情報の中から何を残し、どんな順番なら伝わるか。文章で説明するのか、図にするのか。
「正しく調べること」と「分かる形で伝えること」が、少しずつ自分の仕事になっていきました。
「またお願いします」が、仕事になった実感だった
続けていくうちに、学生さんだけでなく研究や専門的な仕事をしている方からの相談も増えていきました。
特に多かったのが、論文を投稿する前の仕上げに関する仕事です。学会誌や専門誌には、それぞれ細かな投稿規定があります。
本文の文字サイズや見出しの形式、脚注や参考文献の書き方。図表の大きさや配置、要旨やキーワードの文字数。
投稿規定と原稿を照らし合わせて形式を整えたり、図版を作り直したりする仕事もするようになりました。
論文の仕上げに関する仕事では、何度もリピートしていただくことが増えました。同じ方から二度、三度と声をかけていただく。
「今回もお願いします」と原稿を預けていただけるのが、とてもうれしかったです。
繰り返し依頼をいただく中で、少しずつ実感するようになりました。
「これは、本当に必要とされている仕事なんだ」
専門家だから何でも自分でやらなければならないわけではありません。研究の問いを立てることや、史料を読み解くこと。分析や考察を通じて、新しい知見を生み出すこと。専門家には、本人にしかできないことがあります。
文献探しや原稿の仕上げを引き受け、専門知識やデザインの経験も使う。研究がより良い形で世に出る手助けができると思っています。
大学院生や学芸員だったころ、私は何度も思っていました。
「こういうこと、誰かに頼めたらいいのに」
研究に必要な作業を誰かに頼みたいという悩みは、私だけのものではなかったようです。
博物館を辞めた、その先で
博物館を辞めたときは、知識や経験をどこで使えばいいのか分からない時期がありました。今は、大学院や博物館で身につけた知識や経験を誰かのために使えることがうれしいです。
文献を探すことも、図やグラフにして分かりやすく伝えることも。大学院や博物館で積み重ねてきた経験を、今は誰かの研究を進めるために使っています。
「またお願いします」と声をかけてもらえるたびに、仕事を続けていてよかったなと思います。
研究には時間がかかります。だからこそ、全部を一人で抱え込まなくてもいい。研究する本人にしかできないことに、少しでも多くの時間と力を使ってもらいたいと思っています。
これからも「調べること」と「分かる形で伝えること」を使って、研究する人を支えていきたいです。
博物館を辞めた私が、いま「調べること」を仕事にしている。昔の自分が知ったら、たぶん少し驚くと思います。
でもきっと、うれしくも思うはずです。