棚卸しの日。リストを持って棚の前に立ち、数える。帳簿には32個とあるのに、実際に並んでいるのは29個。3個足りない。数え直しても29個で、奥に紛れているわけでもない。隣の棚も見たが、同じ商品はそこにはなかった。
誰かが「たぶんサンプルで持ち出した分です」と言う。伝票を探すが出てこない。30分ほど粘って見つからず、結局は帳簿の数字を29に直して次の商品へ進む。その日のうちに終わらせないといけないのだから、この判断自体は責められない。
ただ、上書きした瞬間に差の原因を追う材料はなくなる。そして翌期も同じ商品で同じくらいの差が出て、また同じように直す。棚卸しが「合わせる作業」になってしまうと、差はいつまでも減らない。当方も業務の現場で、この繰り返しを何度も見てきました。
「合わない」の中身は、いくつかに分かれる
差が出たときに最初にやるのは数え直しだが、二度数えて同じ数なら、原因は棚ではなく記録の側にある。そして記録側の原因には、性質の違うものが混ざっている。まとめて「棚卸差異」と一語で呼んでしまうと、どれに手を打てばいいのかが決まらない。
よく出てくるのは四つ。伝票が切られないまま動いた分。同じ商品が二つに分かれて登録されている分。伝票の日付とモノが動いた日のずれ。そして、在庫数を直接書き換えてきたために、そもそも遡れなくなっている状態。四つは原因が別なので、打つ手も別になる。
伝票が切られないまま動く在庫
毎回のように差が出る商品を並べてみると、たいてい共通点がある。数がよく動く商品ではなく、売る以外の出口を持っている商品のほうが合わなくなるのだ。動きの多さより、経路の種類のほうが効く。だから探すときは、動きの多い順ではなく、出口の多い順に見るほうが早い。
営業がサンプルとして客先に持って行く。破損に気づいた人がその場で棚から外す。事務所や現場で使う。返品されたものを棚に戻す。「1個だけだから」と手渡しで出す。どれも売上が立たないので、伝票を切る流れにそもそも乗らない。
打つ手は「伝票を切りましょう」という呼びかけではない。それで直るなら、とうに直っている。記録する手間を、選ぶだけの動作まで小さくするのが先です。出庫の理由を、販売・サンプル・不良・社内使用・返品から選ぶ。数量と合わせて二回の操作で終わるなら、切らない理由のほうが減る。
理由の欄があると、差が出たときの見え方が変わる。3個の差に対して、今月のサンプル出庫が2件並んでいれば、探す先が絞れる。差がゼロになるわけではないが、内訳で見当がつく状態にはなります。
たぶんサンプルで出した分だと思います。伝票は、切っていないはずです。
同じ商品が、別の商品として増えていく
棚を見ても分からない差がもう一つある。台帳の中で、同じ商品が二行になっている場合だ。数えた側は正しく、記録の側で商品が二つに割れている。棚には一種類しか置かれていないのに、帳簿の上では二か所に残高がある状態になる。
原因はたいてい、商品を名前で管理していることにある。「Tシャツ 白 M」と「Tシャツ(白)M」は、人が見れば同じものだが、記録の上では別物になる。片方で入庫し、もう片方から出庫すると、一方が減らずに増え続け、もう一方は理屈に合わないマイナスになる。
防ぐには、商品を指す「コード」と、人が読む「表示名」を分けて持つ。動きの記録はコードで結び、画面には表示名を出す。表示名を直しても、過去の記録は同じ商品を指したまま動かない。色やサイズの違いは、名前に足すのではなく、コードの側で最初に別の商品として決めておきます。
伝票の日付と、モノが動いた日
見かけ上の差もある。31日の夕方に出荷してトラックに積んだのに、伝票の起票は翌月1日になった。棚卸しは31日の夜。実物は減っているのに、帳簿はまだ減っていない。翌日には解消してしまうので、後から原因を探しても何も見つからない。
逆もある。入荷の予定を先に入力しておいて、実際の到着は数日後になる。帳簿の上では増えているが、棚は空のままだ。どちらも記録が間違っているのではなく、記録した日とモノが動いた日が違うだけ。
だから記録には日付を二つ持たせる。モノが動いた日と、入力した日。棚卸しと突き合わせるのは前者で、入力の遅れを見たいときは二つの差を見る。締め日の前後3日ぶんだけを抜き出して並べると、差の一部はここで説明がつくことが多い。
在庫数を書き換えると、遡る材料が消える
Excelの在庫表でよく見るのは、商品ごとに一行あって、在庫数のセルに数字が入っている形だ。入荷したら足して上書きし、出荷したら引いて上書きする。開いてすぐ今の数が分かるので、軽くて速い。作り始めた人の判断としては、これで正しい。
ただ、この作りは差が出たときに何も残さない。そこにある32という数字が、どういう積み重ねで32になったのかは、どこにも書かれていないからだ。上書きは、前の数字を消す操作でもある。遡れるのは、たまたま誰かが控えを取っていた分だけになる。
直し方は一つしかない。在庫数を持たないことです。入庫と出庫を一行ずつ記録して、在庫数はその足し引きで出す。行数は増えるが、足し引きをするのは機械のほうで、人が数えるのは棚の実物だけでいい。
この形にすると、差が出たときに、その商品の一か月ぶんの動きをそのまま並べられる。29個になるまでの経路が見えるので、どこで食い違ったのかを探せる。探せなければ、原因は毎回「たぶん」で終わります。
棚卸しは「合わせる」ではなく「記録する」
その上で、棚卸しの結果も一本の記録として入れる。在庫数のセルを29に書き換えるのではなく、「棚卸調整 マイナス3個」という行を足す。入庫でも出庫でもない、三つ目の種類として持たせる形です。見た目は地味だが、ここが一番違いの出るところだ。
結果として在庫数は29になるが、手元に残るものが違う。いつ・いくつ・どちらの向きに調整したかが行として残り、前の数字も消えない。翌期に同じ商品でまた差が出たとき、前回の調整と並べて見られる。毎回ここで調整が入る商品は、記録されない出口を持っている商品だ。
この作りには、もう一つ後から効いてくるものがある。増減の記録が残っていれば、先月末の時点の在庫を、後からでも出せることだ。上書きの表は今の数字しか持っていないので、過去には戻れない。
「どの時点の在庫か」を言えるかどうかは、集計の細かさより先に効く。決算や税務で問われるのも、その日の在庫がいくつだったかであって、今日の数ではない。差を追えることと、過去を出せることは、同じ作りの裏表になっています。
当方は元金融系のシステムエンジニアで、残高を持たずに増減の記録から計算する作りは、そこで身につけたものだ。ココナラでは、Excelや紙で回している在庫・受発注の管理を、買い切りのWebアプリにする仕事を受けている(サーバーは依頼者さま名義でご契約いただくので、当方へお支払いいただく月額はない)。どこで数が合わなくなるかさえ分かれば形にできるので、まずはココナラのメッセージからご相談ください。