「先週出した稟議、どうなりましたか」と部下に聞かれて、答えられない。自分のところは通してある。その先が分からない。総務に聞けば「部長に上げました」と返り、部長に聞けば「まだ回ってきていない」と返る。紙は物理的にどこかにあるはずなのに、現在地を知っている人がいない。
探し当てると、たいてい誰かの書類入れの下から出てくる。出張で三日空けていた、届いたことに気づいていなかった、押すのを後回しにしていた。理由はどれも普通のことで、止めているつもりの人は一人もいない。それでも一枚の紙が二週間動かない、ということが起きる。
この状態への答えは「電子化」だとすぐ出る。ただ、紙の経路をそのまま画面に置き換えても、止まる場所は変わらない。順番を間違えると、道具を入れたのに催促の電話が減らない、という結果になる。今回は、道具を入れる前に決めておくことを書く。決めておけば、紙のままでも滞留は減らせる。
止まっているのか、まだ見ていないだけなのか
滞留と聞くと、誰かが判断を保留している姿を思い浮かべる。実際に多いのは、届いたことに気づいていない形のほうだ。机に置かれた紙は、その日のうちに他の紙の下になる。メールで回していても、受信箱の下に沈むという点では同じである。
だから最初に効くのは、承認を速くすることではない。いま誰のところにあるかが、申請した本人から見えることだ。見えるようになると、催促の電話が要らなくなる。あと何人かが分かるし、自分のところで二日空いていることは、置いている本人からも見える。
見える形は、必ずしもシステムでなくてよい。申請書に受け取った日と次へ渡した日を書く欄を作り、一覧をホワイトボードに貼るだけでも現在地は分かる。そこまでやってから道具の話に進んでも遅くない。
「止めていたわけではないんです。回ってきていることに、気づいていなかった」
承認は本当に何段いるのか
現在地が見えるようになると、次は段数が気になってくる。四人の承認が要る申請は、四回ぶんの「気づかれるまでの待ち」を通る。ひとりが半日置くだけで、それだけで二日が消える。速さを決めているのは処理の時間ではなく、待ちの回数のほうだ。
だから道具より先に、段を数え直す。前の人と同じ観点で見ている段は重なっている。金額の大小に関わらず全部を同じ経路に通しているなら、少額のものは短くできる。過去に一度も差し戻していない段は、形式として残っているだけの可能性がある。
段を一つ減らす効果は、仕組みを入れる効果より大きいことが多い。仕組みを入れても、承認者が四人なら待ちは四回のままだからだ。ただし段の増減は決裁の規程に関わるので、先に総務や規程の担当者と話しておく。
不在と期限を、先に決める
経路が正しく回っているときは、たいてい何も起きない。業務が止まるのは例外のほうだ。承認者が出張、休暇、体調不良、異動。この扱いを決めていないと、その一人のところで全部が積み上がる。
代理は「誰が代わるか」だけでは足りない。「いつから代理に回るか」まで決める。本人の不在申告を待つ形にすると、急に休んだ日に機能しない。届いてから二営業日で自動的に次へ回す、という決め方のほうが実務では止まりにくい。
期限切れも同じだ。決めた日数を過ぎた申請をどうするか。自動で承認済みにするのは、金額の決裁が絡む場合には向かない。現実的なのは、期限を過ぎたものを一覧の先頭に出して、申請者と承認者の両方から見えるようにすることだ。取り下げるときの扱いも、同じときに決めておく。
差し戻しの理由が残らないと、二度戻る
差し戻しの理由は、たいてい口頭で伝わる。「これ、金額の内訳を付けて」と電話が来て、直して出し直す。その場では解決している。ただ、理由そのものはどこにも残らない。
半年後に別の人が同じ申請を出して、同じ理由で戻る。三人目も戻る。原因が申請書の様式のほうにあっても、誰も気づけない。理由が申請に紐づいて残っていれば、それは次に出す人への説明書になるし、よく出る差し戻しが見えれば、直すべきは様式のほうだと分かる。
残す粒度は、誰が・いつ・どの段で・なぜ戻したか。この四つで足りる。後から誰も確かめられない状態を作らない、というだけの話なので、紙のままでも差し戻し用の欄を一つ足せば始められる。
押印が要る書類と、要らない書類を分ける
全部を一度に電子にしようとすると、たいてい途中で止まる。書類の中に押印が要るものが混ざっているからだ。社外に出すもの、規程で押印が定められているもの、原本を保存する義務があるもの。ここを含めた瞬間に規程の改定や取引先との合意が要る。全体が、いちばん重い一枚に引きずられる。
だから先に仕分ける。社内で完結していて、押印が慣習でしか続いていないもの——休暇届、備品の購入依頼、経費の事前申請。件数でいえば、日々流れている紙の大半はこちら側にある。ここだけ先に手を付ければ、日々の待ち時間はかなり減らせます。
判断がつかない書類は、無理に決めずに紙のまま残す。法令や規程が絡むものの扱いは、社内の担当部署か専門家にご確認ください。ここで悩んで全体が止まるより、動かせるところから動かしたほうがいい。
急ぎの経路を、一本だけ用意する
最後にこれを入れておかないと、作った経路のほうが使われなくなる。今日中に発注しないと間に合わない、という日はいずれ来る。そのとき正規の経路が三日かかるなら、人は電話で承認を取り、書類は後から作る。
一度そうすると、次も同じ道を通る。仕組みの外を通った申請は記録が残らないので、あとから何がどう決まったのかを追えない。塞ごうとしても、急いでいる人のほうが強い。
だから急ぎ用の短い経路を、正規のものとして一本だけ引く。金額の上限を決めて、通った後に本来の承認者へ通知が回る形にする。抜け道を無くすのではなく、記録の残る抜け道を用意するという考え方だ。二本以上作るとどれを通ればよいか分からなくなるので、一本に絞る。
当方は元金融系のシステムエンジニアで、Excel・紙で回している業務を月額0円の買い切りWebアプリにする仕事をしている。経路をそのまま画面にするより、段を減らして仕分けを済ませてからのほうが安く早く収まることが多いので、どこまで残すか決めかねている段階でも構いません。ココナラのメッセージからご相談ください。