日曜日のお昼をすぎた頃。
保育プランナー事務所の会議室にはゆっくりとした空気が流れていた。
ガラス窓から入る光が長い木目テーブルの上をやわらかく照らしている。
テーブルの中央にはコンビニのカフェラテ、開けかけのお菓子袋、小さな育児雑誌。
その横には、なつが持ってきたメモ帳。付箋が何枚も飛び出していて、すでに“育児準備ノート”になっていた。
隣のプレイルームからは、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
カラカラ転がるおもちゃの音。誰かが積み木を崩したらしい「あー!」という声。
そのたびに、ゆきが自然とそちらを見る。
保育園で働くクセなのか、子どもの声への反応が早い。
「今日は“保育園で使ってる・買ってみたい・使ってみたい”会ね」
ベージュのジャケット姿のあさひとジャケットを着たヨルも紙コップを片手に持っている。
その隣でふみとハルが座っている。
「SNSで見ると全部必要に見えます」
なつがスマホを開きながら、少し興奮気味だった。
「私たち、最近ずっと調べてて…」
アキもすぐ横で頷く。
「まだ生まれてないのに離乳食グッズまで見てます」
「早い早い」
みき先生が笑った。
でもその顔は少しうれしそうだった。
「楽しみなのがすごい伝わってきますね」
ゆき先生がやさしく言う。
「生まれてから調べる余裕、意外とないから」
その言葉になつが真剣に頷いた。
「で、今気になってるのがこれ」
アキがスマホをテーブルの中央に置く。
”電子レンジ消毒ケース”
「これ便利ですよね」
みき先生がすぐ反応する。
「保育園でも似たタイプ使ってますね」
なつが驚く。
「保育園でも使うんですか?」
「使うよ」
ゆきが椅子を少し引きながら説明する。
「哺乳瓶の消毒をレンジできるし」
ふみが笑う。
「消毒忘れて、使わなきゃって時もレンジで5分で使えるから助かる」
その流れでなつがもう一枚画像を見せた。
”冷凍ストック用シリコンカップ”。
「これ離乳食用です」
みきが思わず笑う。
「いや、ほんと早い」
「でも気になるんです!」
なつは嬉しそうに、
「作り置きできるって便利そうで」
ふみが頷く。
「小分けに冷凍できるから、量の調整もしやすいやつなんだ」
あさひも加わる。
「“今日もう無理…”って日を救ってくれる。それにこれ、二重密閉なんだよね」
全員が笑ったたり、頷いた。
「我が家で使っていたのはこれこれ」
ハルが今度は自分のスマホを見せる。
”食洗機対応ベビーマグ”
「ストローと直飲み両対応のやつ、全部のパーツが食洗機でも洗えたからよかったよね」
ふみがハルに語るように続ける。
「両方にとってが付いてるから、両手で持てるから安心」
「あの小さい両手で持ってる姿、すごく可愛いですよね」
なつはポッとした優しい表情を浮かべた。
「わかる。両手で持って必死に飲んでる姿」
会議室に笑いが広がった。
その時、隣のプレイルームから「ドンッ」という音。
全員が一瞬そちらを見る。
「大丈夫ー?」
ハルが声をかけると小さな男の子がマットの上で笑って手を振った。
その床には厚めの”プレイマット”。
あさひがその様子を見ながら言う。
「あれもほんと助かった」
「プレイマット?」
アキが聞く。
「うん。
転ぶし、投げるし、飛ぶし」
「あと音」
ハルが付け足す。
「下の階への安心感が違う」
そこから話は“家の危険”へ変わっていった。
「子どもが動き始めると急にソワソワするよ」
ふみが笑いながら言う。
「コード引っ張る、扉開ける、角に突っ込む、危険な場所に入る」
「あるある」
みきがすごい勢いで共感する。
なつが2人を見てメモ帳を取り出し、何度も頷く。
「そんなにですか?」
「そんなに」
全員が頷いた。
そしてあさひが続けた。
「例えばコード」
「コード?」
「うん」
ヨルが机の下を指差す。
「スマホ充電コード、加湿器、テレビ裏。
全部、子どもからすると“引っ張りたいヒモ”」
「怖っ」
ハルが苦笑する。
「そのための”コンセントガード”だったり」
あさひが続けて、角や扉を指差した。
「他にもいろんなところに危険が潜んでるんだよね。扉も角、入っちゃいけない場所に入ってくる」
ゆきが頷く。
「保育園でも使ってますね」
みきも続ける。
「オモチャ棚とか、扉とか。
子どもって“大人が想像しない動き”するから」
そして、ゆきが写真を見せた。
壁や柱に取り付けられたクッション。
・扉の部分には何やら付いている”キャビネットロック”
・スチール製の枠が見える”ベビーゲート”
・いろいろな家具や壁に弾力性のある柔らかそうな素材のものがついている”コーナーガード”
「ここまでやるんですね」
アキが驚く。
「やる」
みきが画面を目をやりながら話した。
「保育園では柱すら危険になるから」
ヨルがタブレットを開く。
「だから最近はこういうセットもありますね」
表示されていたのは、
”安全クッションよちよちBOX Aセット”
・キャビネットロック
・コーナーガード
・マルチロック
がまとまった安全セット。
「最初からまとめて入ってるんだ」
アキが感心する。
「“気づいてなかった危険”に後から気づくこと多いんだよね」
その空気の中、ふみが思い出したように言った。
「そうだ、うち一回ヒヤッとした」
「何?」
「指」
全員が静かに聞く。
「扉閉まる瞬間に子どもが手入れそうになって」
なつが思わず口元を押さえた。
「ギリギリ間に合ったんだけど、あれはホント怖かった」
それを聞いたヨルはタブレットをスクロールして
”ドアストッパー”
”ゆびストッパー”
を見せた。
「指を挟まないためにも、これをつけておくと安心です」
ふみはがっくりしたようなトーンで、
「もっと早く知りたかった」
気づけば、最初は“便利グッズ会”だった空気が少し変わっていた。
みんな“何を買うか”だけじゃなく、
“どうやって安心を増やすか”を話している。
隣のプレイルームではまた子どもたちの笑い声が聞こえる。
なつがその声を聞きながら小さく言った。
「なんか…怖いことも多いけど、やっぱり楽しみ」
その言葉に会議室の空気がふっとやわらかくなる。
ヨルの声にみんなが顔を向ける。
「育児グッズって“不安を消す道具”じゃなくて、
“安心して笑う時間を増やす道具”なんだと思う」
窓から入る午後の光がテーブルの上を静かに照らしていた。