「冷たい物は胃腸に悪い」
薬膳や中医学ではよく言われることですが、現代医学的にはどう考えられているのでしょうか。
前回は、毎晩、冷蔵庫から出した豆腐をほぼ1丁食べていた方が、豆腐をやめて数日後に、
・電熱腹巻きなしでも過ごせる
・下痢しにくくなった
・ガスがほとんど出なくなった
・腹部膨満が軽くなった
・お腹が以前より温かく感じる
という変化を経験した例を紹介しました。
一方で、手足の末端冷えは残っていました。
今回は、この経過を冷たい飲食物に関する研究と照らし合わせて考えてみます。
## 冷たい物を入れると、胃の中は実際に冷える
冷たい飲み物を摂った直後、一時的に胃内温度が下がることは確認されています。
健康な人が12℃の飲料を飲んだ研究では、胃内温度が約36.5℃から約23℃まで低下し、その後5分ほどで30℃以上に戻りました。
つまり、冷たい物が胃の中に入っても、身体は比較的速やかに温めます。
健康な人が時々冷たい物を口にする程度なら、これだけで長期間「胃が冷え続ける」とは考えにくいでしょう。
ただし、これは「冷たい物の影響がまったくない」という意味でもありません。
## 胃の動きには一時的な変化が起こる
4℃、37℃、50℃の飲料を比較した研究では、4℃の飲料は37℃の飲料より、飲んだ直後の胃排出が遅くなりました。
また、健康な若い男性が2℃の水を500mL飲んだ研究では、37℃や60℃の水を飲んだ場合より胃の収縮が抑えられ、その後の食事量も少なくなりました。
一方、別の研究では、冷たい液体でも胃排出に大きな差がなかったという結果もあります。
研究結果は完全には一致していませんが、少なくとも「温度によって胃の動きが一時的に変化する可能性」はあるようです。
## 胃腸が敏感な人では反応が違う
さらに興味深いのが、過敏性腸症候群の人を対象にした研究です。
4℃の水を220mL飲んだところ、健康な人よりも腸の感覚が敏感になりやすく、特に下痢型の人では腹痛・腹部不快感・膨満・下痢などの症状との関連が見られました。
つまり、同じ冷たい物でも、
・胃腸が丈夫な人
・胃腸が弱っている人
・下痢や腹満が起こりやすい人
では、受ける影響が同じとは限りません。
「冷たい物は全員に悪い」のではなく、現在の胃腸の状態によって処理できる範囲が違う、と考える方が自然です。
## 冷たい豆腐1丁は、冷水1杯と同じではない
今回の例では、冷蔵状態の豆腐を毎晩ほぼ1丁食べていました。
仮に1丁400gとすると、かなりまとまった量です。
ただし、豆腐は水ではなく、タンパク質や脂質を含む半固形物です。そのため、冷水400mLの研究結果をそのまま豆腐に当てはめることはできません。
それでも、
・冷蔵庫から出してそのまま食べる
・一度に約400g摂る
・ほぼ毎晩繰り返す
・すでに腹部の冷え、下痢、ガス、膨満がある
という条件が重なれば、胃腸にとって無視できない刺激になっていた可能性はあります。
薬膳では豆腐は「涼性」、資料によっては「寒性」に分類されます。
食品そのものの性質に加えて、実際の温度も冷たく、量も多かったことになります。
## なぜお腹だけ先に改善したのか
豆腐をやめた後も、生卵2個は継続していました。
それにもかかわらず、腹部の冷え・下痢・ガス・膨満が短期間でまとめて軽くなっています。
この経過だけで「豆腐が原因だった」と断定はできません。
同じ時期に、
・昼のご飯を戻した
・筋トレを再開した
・運動量が少し増えた
・漢方薬が切れて一時中断していた
という変化もあったからです。
それでも、電熱腹巻きが必要だった状態から、数日で腹巻きなしでも過ごせるようになった変化は小さくありません。
少なくとも、毎晩の冷たい豆腐が腹部症状を維持する一因だったという仮説には、かなり近づいたと考えられます。
## 手足の冷えが残った理由
一方、手足の末端冷えには大きな変化がなく、電熱靴下は継続していました。
この方の手足の冷えは、強い精神的ストレスを受けた時期から始まっています。
精神的ストレスによって交感神経が働くと、手指など末端の血管が収縮し、皮膚血流が低下することがあります。
そのため、
・腹部症状
冷たい食事、消化状態、食事量などの影響が比較的大きい
・手足の末端冷え
ストレス、自律神経、血流、活動量などの影響が残っている
というように、冷えの成り立ちが分かれていた可能性があります。
中医学的に表現するなら、腹部には「脾胃の虚寒」、手足にはストレスによる気の巡りや「四逆」の要素が残っている、と見ることもできます。
## 冷えを一つの原因で説明しない
今回の実践例から分かるのは、身体の冷えをすべて同じものとして扱わない方がよい、ということです。
お腹が温まっても手足が冷たいなら、改善していないのではありません。
原因の一部が外れたために、残っている別の問題が見えやすくなったとも考えられます。
食事を見直す場合は、いきなりすべてを変えるのではなく、
・疑わしい食品を一つ休む
・冷え、腹満、ガス、便通を記録する
・改善後に再び少量試して反応を見る
・ほかの条件も変えた場合は記録しておく
という方法が役立ちます。
「一般的に健康によい食品か」だけではなく、
「今の自分の胃腸が、どのくらいの量と温度なら処理できるのか」
を見ることが大切です。
豆腐は栄養価が高く、安価で便利な食品です。
しかし、どれほど健康的な食品でも、体調・量・温度・頻度が合わなければ、負担になることがあります。
温める漢方を増やす前に、毎日繰り返している食事の中に、冷えを維持している条件がないか確認する。
今回の例は、その大切さをよく示していると思います。
※本記事は個人が特定されないよう内容を再構成した実践例です。特定の食品が病気の原因であると断定するものではありません。症状が強い場合や長く続く場合は、医療機関へご相談ください。