※実際の相談例をもとに、個人が特定されないよう背景や時系列の一部を変更・再構成しています。
前回は、温める方向の漢方薬を複数飲んでいるにもかかわらず、手足だけでなくお腹の冷えまで強くなっていた方について書きました。
夏でも電熱腹巻きが必要で、腹部膨満、ガス、下痢や便秘などの症状もありました。
処方されていた漢方の方向性には、大きな不自然さがありません。
そこで私は、薬が足りないのではなく、毎日の生活の中に胃腸を冷やす要因が残っているのではないかと考え、食事内容を詳しく聞いてみました。
食事を数字で管理していた
この方は、筋力トレーニングを行い、タンパク質・脂質・炭水化物の量も意識していました。
夕食を固定していた目的は、
・タンパク質を確保する
・食費を抑える
・脂質を調整する
・胃腸への負担を減らす
・食事管理を簡単にする
というものでした。
本人には「筋肉を作るストイックな食生活への憧れも少しありました」と笑って話せる余裕もありました。
考え方自体は合理的です。
食事管理では、毎日違う料理を細かく計算するより、ある程度献立を固定した方が続けやすくなります。
問題は、その固定した献立が現在の身体に合っていたかどうかです。
実際の一日の食事
一例として教えてもらった献立は、次のようなものでした。
朝は、ご飯、白身魚のあんかけ、ブロッコリー、味噌汁。
昼は、鶏つくね、ほうれん草の卵和え、しらたき炒め、千切りキャベツ、漬物、プロテイン。
夜は、ご飯を少量、豆腐、生卵2個、ポタージュ、追加の食物繊維。
朝食は、主食、主菜、副菜、汁物がそろっています。昼食も、おかずだけを見れば野菜とタンパク質が取れています。
しかし、よく見ると昼食にご飯がありません。
本人に確認すると、食後の強い眠気を避けるため、昼は意図的に炭水化物を抜いていました。
夜のご飯も少量です。タンパク質はプロテインや豆腐、卵で確保できていますが、活動や体温維持に使う総エネルギーは不足している可能性がありました。
筋肉という発熱設備はあっても、動かすための燃料が少ないような状態です。
毎晩、冷たい豆腐をほぼ1丁
さらに詳しく聞くと、夏は豆腐を冷蔵庫から出して、そのまま毎晩ほぼ1丁食べていました。
商品によって違いますが、1丁を300~400gとすると、冷たい食品としてはかなりの量です。
豆腐は水分の多い食品で、薬膳では一般に「涼性」または「寒性」に分類されます。熱を冷まし、身体を潤す方向の食品なので、熱がこもりやすい人や暑い季節には利用しやすい一方、胃腸の冷えが強い人が大量に食べ続ける場合は注意が必要です。
豆腐と一緒に食べていた卵も、2個とも冷蔵庫から出した生卵でした。
鶏卵全体は薬膳では基本的に「平性」であり、卵そのものを強く身体を冷やす食品と決めつけることはできません。
しかし、ここでは食品の性質だけでなく、実際の温度、量、食べる頻度を考える必要があります。
つまり夕食は、
・冷蔵庫から出した豆腐を300~400g
・冷たい生卵を2個
・ご飯は少量
・さらに食物繊維を追加
という構成でした。
これを時々食べていたのではなく、夏の間、ほぼ毎晩続けていたのです。
「胃腸に優しいつもり」が盲点になっていた
本人は豆腐を、安くて調理不要で、良質なタンパク質を取れる食品として選んでいました。
胃腸に負担をかけないための工夫でもありました。
そのため、まさか毎晩の豆腐が腹部症状に関係しているかもしれないとは、考えていなかったそうです。
ここで大切なのは、「豆腐は身体に悪い」と一般化しないことです。
健康な人が適量を食べることと、すでに腹部の冷えが強く、電熱腹巻きまで必要な人が、冷蔵庫から出した豆腐を毎晩1丁食べることは同じではありません。
食品の良し悪しではなく、
・誰が食べるのか
・現在どのような体調なのか
・どのくらいの量なのか
・温かいのか冷たいのか
・どのくらいの頻度で続けているのか
まで見なければ、本当に身体に合っているかは分かりません。
この方の場合、ストレスをきっかけに始まった手足の冷えに、昼の主食抜きによるエネルギー不足と、毎晩の冷たい豆腐を中心とした夕食が重なり、腹部の冷えや胃腸症状まで加わった可能性が考えられました。
そこで私は、豆腐を温めて食べるだけではなく、まず1~2週間ほど豆腐自体を休み、お腹の冷え、膨満、ガス、便通の変化を記録してみることを提案しました。
豆腐が唯一の原因と断定したわけではありません。
一度食生活から外して、身体がどう反応するかを確かめるためです。
次回は、冷たい飲食物が胃の動きに与える影響について、実際の研究も交えて整理します。
そして豆腐をやめて数日後、この方のお腹には予想以上にはっきりした変化が現れました。
※中医学的な見立ては、医療機関で行う診断とは異なります。体調不良が強い場合や長引く場合は、食事だけで判断せず医療機関へ相談してください。