ご依頼を受けてオリジナル曲の制作や編曲をしていると、時々おもしろい言葉や表現に出会う事があります。
以前、とある楽曲の修正依頼について
「スケールアウトしてそうな箇所がいくつかあるので見直して欲しい」
というお話をいただいたことがありました。
実際に音楽をされている方でしたので、この様な表現に非常に驚きました。
「スケールアウトしてそう」
「スケールアウト」という言葉は使用する事もありますが…
してそう…とは?笑
そして、最終的に出てきた言葉が、
「スケールギリギリなので、気持ちよくハマる音にして下さい」
でした。
……スケールギリギリ。
初めて聞いた表現でした。笑
その後、音楽仲間に聞いたりネットで検索をかけてみましたがその様な表現は僕には見付ける事が出来ませんでした。笑
もちろん、その言葉から「なんとなくこういうことを言いたいのかな?」と推測することはできます。
しかし、音楽制作においてこうした独特な表現や、意味を十分に共有できていないまま専門用語のような言葉を使うことは、避けた方が良いかもしれません。
なぜなら、制作者とご依頼者様の頭の中に浮かんでいる音が同じとは限らないからです。
確かに、音楽の要望は「言葉にする」のが非常に難しいです。
例えば、
「もっと気持ちよく決まる音にしてほしい」
「少しスケールアウトしている気がする」
「スケールギリギリは避けて欲しい」
と言われたとします。
これだけ聞いて、具体的に、
「では、この音を半音上げましょう」
「このコードをこう変更しましょう」
と、一意に答えられるでしょうか。
実際にはかなり難しい場合が多いかと思います。
「気持ちよく」という感覚も人それぞれですし、「スケールアウトしている気がする」という言葉も、何を指しているのかによって対応が変わります。
コードなのか。
メロディなのか。
特定の音なのか。
それとも、そもそも音楽理論的な問題ではなく、単純に「耳で聴いたときに違和感がある」ということなのか。
ここが分からないまま修正をすると、制作者側も「恐らくこういうことかな?」と推測することになります。
推測が間違ったまま進んでいくと、確実にゴールに到達する事は出来ません。
※ちなみに、本当に音楽に精通している方からの修正依頼は非常に具体的で、どの小節のどの部分の音がどうなっているので、この音にして欲しい。とお伝えいただけるのですぐに対応が出来ます。
少なくとも、僕がこれまでご一緒した経験のある方々は、「スケールアウトしている気がする」という感覚だけで終わらせず、具体的にどの部分に、どのような違和感があるのかまで伝えてくださることが多いです。
何かを伝える時に無理に難しい言葉を使う必要は全くなく、
ここで大切なのは、
「正しい音楽用語を使いましょう」
という話ではありません。
むしろ逆です。
音楽理論に詳しくないのであれば、無理に専門用語を使わなくてもいいと思っています。
上記の様なケースは、場合に寄っては制作者側に非常にマイナスな印象を与えてしまう事もあるので、音楽を多少嗜んでいる程度であれば無理に気取った言葉遣いをする必要はありません。
例えば、
「この音がちょっと耳に引っかかるのですが、何か他の旋律はご提案いただけますか?」
「ここだけ少し不安な感じがします。イメージはもう少しハッピーなムードなので、その様な雰囲気に変更は可能でしょうか?」
「自分でもうまく説明できないのですが、なんとなく自身の想像とのギャップで違和感を感じております。もう少しだけ落ち着いたムードにする事は可能でしょうか?」
これだけでも、かなり大きなヒントになります。
作曲家にとって大切なのは、用語の正確さよりも、その人が何を感じているのかだからです。
「上手く説明できなくてすみません」
と言われることもありますが、僕は全く悪い気はしません。
むしろ、
「上手く言えないけど、こういう感じにしたい」
という言葉の中に、制作のヒントがたくさん隠れていることがあります。必死に楽曲を良くしようとお伝えいただいている雰囲気も伝わります。
また稀にいらっしゃるのが、依頼をしつつも自称音楽人を名乗る方を側に置き、その方の意見を鵜呑みにしてしまいそのままコピペをして送ってしまうパターンです。
一例をご紹介いたします。
⚫︎MIXについて
・最適な表現がゴチャゴチャなのでこれ以上表現が難しいですが、ドラムのみにしろ全体にしろ混ざりが良くない印象です。かといって分離もよく無いのでそれぞれしっかりと抜けて聴こえているわけでもないです。ベースの所にも書きましたが、それぞれのチューニング又は音色による問題かもしれません。分離はある程度良くした方がいいですが、もう少しまとまりがあるといい気がします。
あくまで一部分の抜粋ですが、こちらの文章を読んだ制作者はどの様な気持ちになるでしょうか?
少なくとも、『よし!頑張って修正するぞ!』とはなりにくいのではないでしょうか。
つまり、こちらの方がしてしまった行為は、第三者として、自身の好みと違う部分を羅列し、一切の料金を負担することなく、結果として制作者の意欲を削いでしまったという事です。
こちらは果たしてご依頼者様の為になっていると言えるでしょうか?
一番不利益を被ったのは、ご依頼者様なのではないかと思います。
大切な楽曲だからこそ、誰かに相談したくなる
自分にとって大切な楽曲だからこそ、
「これって変じゃないかな?」
「こういう音楽で合ってるかな?」
と、誰かに相談したくなることがありますよね。
自分だけでは判断できないから、音楽に詳しい友人や知人に意見を聞く。
それ自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、より良い作品を作ろうとしているからこその行動だと思います。
もし、その方の意見を聞いた結果、
「その人が思い描いている音楽を、作ってもらいたい!」
と思ったのであれば、最初からその方に依頼をするのが最善の選択肢です。
楽曲の方向性について最終的に責任を持つのは、作品を作るご本人様なので
完成図を描くのに最適な方と制作をする事が間違いなく最善ルートになります。
どんなに良い楽曲でも良い歌詞でも、自身が投影されていない楽曲に魅力は生まれるでしょうか?
魂を込めた渾身の楽曲の制作の手助けをさせていただけるのが僕であれば非常に光栄ですが、
ポートフォリオなどをご覧いただいた結果、違うと感じたのであれば無理にご依頼をいただく必要はございません。
是非、同じ方向を向いて経過を楽しみながら制作が出来ればと思っております。
「こういう曲にしたい」
「この曲みたいな雰囲気が好き」
「ここはもっと切なくしたい」
「この音はなんとなく怖く感じる」
「自分でも理由は分からないけど、こっちの方が好き」
それで十分です。
むしろ、そういう言葉を聞きながら、
「なるほど。じゃあ、こういう方向かな?」
と一緒に探していくのが、オリジナル曲制作の面白さだと思っています。
「正しい言葉」より「自分の言葉」
音楽は、専門用語や専門知識だけで作られているわけではありません。
作曲家はコードやスケール、音色、アレンジなど、技術的な言葉を使って制作します。
でも、依頼者が必ずしもそれを理解している必要はありません。
「なんか好き」
「ここは嫌い」
「もっと泣ける感じ」
「ここだけ少し違和感がある」
そんな感覚的な言葉でも、十分に制作の材料になります。
だから、
「こんなことを言ったら恥ずかしいかな?」
と思わなくても大丈夫です。
「こういう音をイメージしています」
と、自分の感じていることを少しだけ添えてもらえると、作り手はもっとあなたの世界に近づいていけます。
一緒に「正解」を探したい
オリジナル曲には、既存曲のような「唯一の正解」はありません。
だからこそ、
「作曲家が正しいと思う音」
と
「ご依頼者様が好きだと思う音」
の間を、一緒に探していくことが大切だと思っています。
難しい音楽用語を覚える必要もありません。
完璧な指示書を作る必要もありません。
第三者の言葉を鵜呑みにするのではなく、あなたが何を感じて、何を目指しているのか。
それを教えてください。
僕は、その言葉を音楽に変えるのが仕事です。
そしてもし、
「自分でもまだ上手く説明できない」
というところからのご相談でも大丈夫です。
一緒に話しながら、あなたの中にある「こんな曲にしたい」を、少しずつ音にしていきましょう。
オリジナル曲制作のご相談もお気軽にどうぞ。