趣味で執筆している二次創作パラレル本格刑事ミステリー『神戸尊の事件簿』。もともとは、2020年にサービスを終了したmixiページで発表していましたが、現在はライブドアブログで連載しています。
埼玉と東京境界ネタを思いついたので、せっかくなんで『埼玉県民は埼玉の良い部分を知らな過ぎるので、都民がその魅力を語る』シリーズに入れようという企画です。
#埼玉県民は埼玉の良い部分を知らなすぎるので都民がその魅力を語る
都県境にアヒルは流れる――東京と埼玉の境界探訪
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行政区域の境界の境目というものには妙な魅力があるものだ。
特に埼玉県と東京都の境はその境界に変化があり興味深い。
ただの道が境になっている場合もあれば、小さな川や大きな自然公園の緑道が境にもなっている。
霞川 金子橋
中にはその「境界」という一見何でもない場所に、思いがけない絶景も存在するのだから、非常に侮れない存在でもあるのだ。
例えばこの場所。
まるで清流が流れるような雰囲気を醸し出すが。
武蔵野台地の端にあたる急斜面、いわゆる崖線が続いている。傾斜が急で建物を建てにくかったことが功を奏し、昔ながらの樹木や雑木林、湧水が湧き出る自然がそのまま残された、実は練馬区と和光市の境にある橋からの風景なのである。
白子川 芝屋橋
それは、都県境ゆえに生じた「開発のすき間」と、いくつもの偶然が重なった産物である。
東京都練馬区と埼玉県和光市の境界付近には、大規模な再開発や区画整理の手が直接入りにくかった側面がある。
さらに近年では、この貴重な水辺と崖地の緑を保全・再生する取り組みが進められた。そのため、都会の喧騒からぽっかり取り残されたような静けさと、清流を思わせる風景が保たれているのだ。
石垣と張り出した木々。そして周囲を広い敷地の建物で囲まれているため、なんとなく東京(厳密には埼玉)に見えない風景を作り出しているのである。
さらに白子川を少し上流へ進むと、埼玉県和光市が練馬区側へ数十メートルほど細長く入り込んだ場所がある。
ちょうど境になっている橋から見る川沿いの桜並木の風景は、越後山の地名のある崖の上にある緑地から覆いかぶさる緑とあいまり、これもなかなかの絶景と言える。
埼玉県和光市/東京都練馬区 越後山
そしてやはりここは、狭い範囲に埼玉県が食いこむ場所として地形マニアには有名な場所のようだ。
さて、こうした境界となると気になる職業と言えば警察官である。
当然ながら、境界を一歩越えれば、東京側は警視庁、埼玉側は埼玉県警の管轄となる。
そのため、西大泉町のような狭い範囲の東京都の飛び地も、ここの管轄はもちろん警視庁なのである。
もっとも、道路や鉄道施設などでは、境界線と実際の担当区域が単純に一致するとは限らない。
埼玉県新座市の中の東京都の飛び地 練馬区西大泉町
そのため現実には、ドラマやマンガのように境界を挟んで警察官同士がにらみ合うようなことはない。
まず通報を受けた側や現場に近い警察官が必要な措置を取り、その後、発生場所や道路・施設ごとの取り決めに従って担当が調整される。
つまり、道路の真ん中で境界が区切られている場合は、きっかり真ん中で管轄が変わるわけではなく、道路によって管轄が割り当てられている。
埼玉県所沢市/東京都東大和市 多摩湖外周道路
「多摩湖外周道路の北側って真ん中が都県境っすけど、埼玉県警管轄なんすよね?」
「うん。隣が西武園ゆうえんちだからね」
「・・・。それ、適当に言ってません?」
「え?だって西武はライオンズだから埼玉じゃん」
「でも西武園駅は東京にあるんすけど」
「そういうイレギュラーも土地の関係上あるんだよ。西武線秋津駅に埼玉県が食い込んでいるみたいにさ。なのに埼玉県にある北口は住所的には東京都清瀬市なんだよ。おもしろいよね」
「つまり、駅構内の埼玉県側で何か起きても、管轄は警視庁って事っすね」
「そういうこと!駅や線路みたいに県境をまたぐ施設は、あらかじめ担当が決められている場合があるんだよ」
相変わらずこの男の言っている事は、警部になってもいつもどこか抜けているようで、しかしきっちり論理的に着地するため油断がならない。
しかも警視庁本部の神戸尊ならばまだしも、自分は中野区の所轄署の中根署所属であり、なんで自分がこんなことをさせられているのだ?
と、甲斐享は何とも言えない気分でこの場を見守っている。
そもそも何故こんな東京と埼玉の境界談義になったのかにも理由がある。
都県境になっている川に、大量のアヒルのおもちゃが投棄された。
いわゆるバズりを狙った迷惑動画の一種である。
川に身を乗り出すのは危険行為だが、それでも一羽ずつ流して回収すれば可愛い動画だが、大量投棄はただの迷惑行為だ。それをたも網で掬って仲間と当たりはずれを競うゲームをする予定だったそうだ。
しかもこの犯人は一羽にだけ当たりとして、宝箱に見立てた箱に当たりの景品を入れており、それを開ける鍵をアヒルに付けたらしい。
が、誤って自宅の鍵をつけてしまったらしい。
「なんでオレ達がこんな事しなきゃいけないんすかぁ」
「白子川と新河岸川の合流点は東京側にあるし、投棄場所も合流地点から7kmほど上流の下中里橋からで、どちらも東京なんだよ。それにどちらにしろこのアヒルさんは回収しないといけないんだから、ついでに鍵も探せて一石二鳥でしょ?」
「それ一石二鳥って言うんすか?」
「あ!ポテトチップスの湖池屋本社って、会社の中を埼玉県と東京都の境が通ってるんだ。面白いね!」
「うわ!誤魔化しやがったよこの警部」
「ついでに湖池屋本社はロビーが東京側にあるから、住所的には板橋区成増になるよ」
と、スマートフォンで地図を確認しながら尊は答えるが。
そうなのだ。少なくとも投棄場所と最終的な回収地点は、実に運の悪いことに東京側なのである。
しかしいくら平常時の川の流れは遅いとはいえ、警視庁からは少々遠いところに何故彼らがいるのかと言うと。
尊はその日、愛車の保管場所として使っている板橋の別邸に立ち寄っていた。そこは、かつて軍属だった先祖が使用していた建物でもある。そのため現場に比較的近く、特命係へ応援要請が回ってきたのだ。
そして享はその日はちょうど光が丘団地の光が丘公園におり、尊に見つかってしまったというわけだ。
もちろん尊は、享を見つけるなり中根署へ連絡を入れ、応援勤務として扱えるよう堀江の了承を取りつけている。
平常時の小さな川の流れるスピードはだいたい時速1km~1.5kmらしいので、約7km上流から流されたアヒルの群れは、合流地点まで約6時間をかけてゆっくりと流れてくる事になる。
とはいえ中には流れに乗って早く着く物もあるので、水面までの高低差が大きく、交通量も多い成増橋を避け、それよりも200mほど上流にある歩道橋に網を張り、たも網で各橋の上から掬い上げるためにアヒルの群れを追いかける事になる。
まさにアヒルたちは先に述べた絶景ポイントを通りながら、下流へと進んでいくのだ。
とはいえ事件的には非常にくだらないために、わざわざ多くの人員を割くことが出来ず、所轄から出された数名と、たまたま近くにいた神戸尊、甲斐享の2名だけで対応することになってしまった。
しかし曲がりなりにも尊は警部である。
そんなわけでこの非常にくだらない事件は神戸が全体を統括し、所轄警察官が橋上の安全確保に当たり、享と学生たちが実際の回収を進めることになった。
そして尊と享の横には今回この事件を引き起こした大学生3人組が、しょんぼりと自分たちで用意した、7mまで伸ばせるたも網を持ちながら、うなだれている。
彼らもまさにこの東京と埼玉の境を流れる川でありながら、古い橋が残り、なんとなく田舎の川を思わせる風景の中を、大量のアヒルが流れているのは画になる。と考えたようだ。
しかし自分たちのミスで警察を呼ぶことになったのだから、それはそれは恥ずかしかろう。
「さて、ここから徐々に掬っていくよ!」
「あの、網を張った橋まで待ってそこで一気に掬った方が早いのでは?」
「そう思うでしょ?でもね。君たちが大量に流しちゃったもんだから、それをやると網をすり抜けるのも出てきてね。もしその中に家の鍵のついたアヒルがいたらどうする?」
「うわ!それは困るっす!」
「だから上流で少しずつ数を減らしていった方が賢明なんだよ」
「鍵がおもりになって姿勢が安定してるから、岸に寄らずに本流へ乗りやすいってことっすよね?」
「お!分かってるね!甲斐君。そう。必ず速くなるわけじゃないけど、ほかより先に下流へ来ている可能性は高いね」
そうしてアヒル回収用の大きなビニール袋を持った享が、これまで尊や上司の堀江から叩き込まれた知識を披露する。
が、ダークスーツにカラーシャツの一見職業不詳の尊の姿に、大学生の一人がこれまで疑問に思っていたであろうことを口にする。
「えっと、茶髪の方の刑事さん、この人、文系じゃないんですか?」
「ああ。この人こう見えて理系だから。時々オレも言ってること分からない」
尊の指示に従い橋の上に立つと、向こうから黄色いアヒルの群れが迫りくる、圧巻の光景が広がるのだ。
「こう見るとアヒルなのにすごい迫力っすね」
「はいはい!掬って掬って」
そうして尊の合図とともに、バシャバシャと網でアヒルが掬われていく。
とはいえ一気にアヒルの数が減るはずもなく、掬い終わったと思ったら残ったアヒルを次の橋で。という繰り返しが行われる。
網を入れたことで水面が乱れ、渦や返しの流れに巻かれて、一時的に上流側へ押し戻されるアヒルもいる。
そして中には、途中で引っかかる物もあるので、そこは後から回収すればよい。
「あ!逃げた!」
「じゃあ次」
一時的に押し戻されたアヒルも、やがて再び本流に乗って流れてくる。
先ほど取り逃がした物が、不意に速度を上げて迫ってくることもあるため、これまた厄介である。
白子川 下中里橋
尊と享が臨場したのは、下中里橋から絶景スポットを通りすぎたものの、投棄現場から1.5kmほど下った妙に昔の雰囲気の残る小源治橋からなので、網の設置された歩道橋まで3kmほどの追跡作業となる。
白子川 小源治橋
しかし東武東上線の高架下を超えると橋が多いので、回収作業は容易となる。
そしてそのラッキーゾーンを抜けたら網の待つ歩道橋に至るわけだ。
回収した大量のアヒルで、2袋目の大きなビニール袋もすでに満杯となり、今は3袋目を用意している。
川に流れているアヒルの数は現在は1/3以下になっている。
動画で小銭を稼げると考えての計画だったため、アヒルも12cmほどの大きさで、たも網も軽量ながら丈夫な物を用意しており、かなりの金額をつぎ込んでいる。
当然ながらこの件で、せっかくバイトで稼いだ金はパーになる。
まあ、次からはこの大量のアヒルとたも網で、迷惑にならない動画を作る事を期待するまでである。
「あーーーー!!見つけました!!!」
と、ラッキーゾーンの最下流の橋で学生が声を上げる。
たも網の中から取り出したアヒルの裏には、養生テープでしっかりと貼られた鍵があった。
尊の予想通り鍵がおもりになっており、安定しているため草などの障害物に引っかかることなく、流れに乗るのが早かったようだ。
あとは残りのアヒルを掬いあげて、取り切れなかったアヒルは網で回収して終わりである。
「良かった。でもこのアヒルは全部回収しないといけないから、まだ終わりじゃないよ」
「「「はーーい」」」
鍵が見つかった事に安心したのか、この後の動きは実にスムーズだった。
せっせとアヒルは掬い上げられ、残りは下流の網だけで受け止められる数にまで減り、草や石に引っかかっているアヒルも梯子がある場所から近かったり、橋の近くであったため無事に全ての回収を終えることができた。
「はーーい。おつかれさま!ミッション終了。思ったよりも早く終わって良かった」
そうして5時間のアヒル回収作業は無事終了となり、所轄の警官たちは引っかかったアヒルの回収で泥で少々汚れたが、スムーズに終わった事にほっとして尊と享に一礼をする。
そして今回騒ぎを引き起こした学生たちは、3人身を寄せて縮こまっていた。
「あの・・・。これって俺たち何かの罪になるんでしょうか?」
スムーズに終わったものの大変な作業に懲りたのか、3人とも眉を下げているのを見、尊と享は顔を見合わせてくすりと笑った。
「んーーー。放置したら不法投棄になる可能性もあるね。事情はきちんと聞かせてもらうけど、全部回収して反省もしているから、今回は厳重注意になるだろうね。ただはじめから全部回収するつもりだったとしても、公共の川にこれだけの物を無断で流した時点で、何も問題がないとは言えないからね」
「そそ。今度は迷惑かける動画撮るんじゃねえぞ」
「ああ。そうだよ!今回散々川に物を流すとどう流れるのか見て、どのような波紋が来るのか見たんだから論文書けないかな?川にごみを捨てるとどうなるのか的な。あ!でもそれやったら君たちのやった事、色んなところにバレるからダメか」
「まあ、そんだけ無意味な動画っつう事だな」
自分たちに雰囲気の近い享に言われた一言からなのか、3人は再び深々と頭を下げて「ごめんなさい」と、謝罪する。
しかし次に頭を上げて視界に入った尊の姿にびくりと3人は肩をすくめた。
「分かればよろしい。ちなみに、今度また同じことをしたら、今回と同じ厳重注意で済むとは限らないからね。その意味、大学生なら分かるよね」
おそらくは尊に目を合わせなかったからであろう。
先ほどまでのゆるふわな白神戸から何気に黒神戸を出した尊に、享は苦笑を浮かべるしかない。
まあこうした連中は、忘れればまた同じ事をやりかねないのが事実である。
そうして大した影響を残すこともなく、アヒル大量投棄事件は幕を閉じたのだった。
▽
アヒル確保の網を設置した成増からほど近い場所にあり、今回警官を出した高島平署に寄り、担当となった生活安全課に報告を出した尊は、これから警視庁に戻るのだが。
そういえば。と、ふと一つ引っかかる事があった。
思えば事件そのものは解決したのに、先ほどから享が付き歩いているのだ。
そうして結局、尊の愛車の助手席にまで乗り込んでくる事になる。
いつもの事だが、今日も享を送っていく羽目になってしまった。
「そういえば甲斐君、非番だからどこにいてもいいけどさ、なんで一人で光が丘公園なんかにいたの?」
「あ!ええっとすね・・・。なんか悦子の奴、鳥の聞きなしっていうんすか?ホーホケキョとか天辺かけたかとかいうの。鳥の鳴き声を言葉に変換したやつ。それになんかハマっちゃって」
「そうなんだ。そういえばあそこって、鳥の観察できるところあったね。で、分かったの?」
「分かんないす!だからこうして付き歩いてんす。なんかいいアイデアないすかね?」
「いやそれって普通にネットで調べればいいんじゃない?」
どうやら今日も、中野区中根署周辺は平和なようだ。
『神戸尊の事件簿』境界シリーズ テーマ
The Nate Sparks Big BandーNyan Cat
おしまい
『神戸尊の事件簿』とは。
『相棒』の二代目相棒・神戸尊を主人公とした、パラレル設定の二次創作刑事ミステリーシリーズです。
本シリーズでは、ロンドンへ渡った杉下右京が、中国返還後の香港へ無断で渡航。在香港日本国総領事館で起きた事件を、現地で捜査権限を持たないまま独断で捜査した結果、国家公務員としての重大な規律違反と外交上の問題を引き起こし、日本へ帰国できなくなっています。
これは、公式エピソードから派生させ、右京の行動がもたらす法的・外交的影響を、より重く扱ったパラレル世界です。
右京に代わって特命係を守ったのが神戸尊です。
神戸のもとで違法捜査を行わなくなった特命係は、廃止する理由を失い、のちに警視庁刑事部の正式な部署となりました。神戸自身も警部へ昇任し、特命係長に就任しています。
二次創作ではありますが、ドラマ版と同様、事件捜査と人物心理を中心とした本格刑事ミステリーとして執筆しています。
また、ストーリーの都合上、甲斐享のいる中根署は目黒区ではなく中野区になっています。
また、作中のキャラクターイラストは、すべて自作(マウス画)です。
執筆だけでなく、挿絵やバナーイラストもマウス描画で自作して掲載しています。
神戸尊(かんべ・たける)
このシリーズの主人公。
普段は細身のダークスーツにカラーシャツが特徴の美男子。
日本へ帰国できなくなった杉下右京に代わり、当初は特命係長代理を務めていた。2014年に特命係が警視庁刑事部の正式な部署となったことに伴い、警部へ昇任して係長に就任。
感受性が強く、死体を苦手としている一方、捜査では適正手続きを重視する。違法捜査を避けながら、グレーゾーンぎりぎりを攻める正攻法を得意とする。
普段は明るく人懐っこい性格で、優しく泣き虫な「白神戸」だが、犯人と対峙すると、冷静に逃げ道を塞ぐ「黒神戸」へ変わる。どちらも演技ではなく、本人がもともと持っている一面である。剣道と射撃にも長ける。
甲斐享(かい・とおる)
警視庁中根署の刑事。茶髪のツンツン頭と、少々不良めいた雰囲気が特徴。
この世界では杉下右京と出会っておらず、堀江邦之の部下として中根署に勤務している。交番勤務時代に関わった事件をきっかけに神戸尊と知り合い、記憶喪失に陥った事件を経て親交を深めた。
現在の神戸は堀江の相談相手でもあり、享にとって二人は「お節介な父親と兄」のような存在となっている。本部と所轄に所属が分かれているものの、神戸と享はたびたびバディとして捜査に当たる。
右京と出会っていないため、原作における「ダークナイト」化は回避されている。ただし、その行動へ至り得る危うさは残っており、神戸や堀江をはじめとする周囲の人間が注意深く見守っている。
ライブドアブログ『新:神戸尊の事件簿@mixiページ』では、本作のような短編のほか、長編ミステリーや他作品とのクロスオーバーなど、さまざまな作品を掲載しています。
ご興味がありましたら、併せてご覧ください。