このサンプル記事について
美容室を経営する男性オーナーへのインタビュー記事です。
(美容室経営 42歳・男性)
事前アンケートでは、「髪を切るだけの美容室にはしたくない」という思いを伺いました。
60分のインタビューでは、以前の仕事の仕方や、売上を意識していた時期、スタッフとの関わり、お客様との会話の中で感じてきたことなどをたどりながら、現在の美容室のあり方につながった考え方を深掘りしました。
その中で出てきた「店を変えただけでは、自分のやり方は変わらない」という言葉を軸に、ご本人の仕事への向き合い方がどのように変わってきたのかを一本の記事として構成しています。
※人物・店舗はサンプル用の架空設定です。実際のサービスと同じ「事前アンケート→質問設計→60分インタビュー→構成・執筆」の流れで制作しています。
「店を変えただけでは、自分のやり方は変わらない」――僕がたどり着いた、nicoのお客様との距離
■「選ばれる美容師」が、僕の目標だった
美容師になったきっかけは、そんなに立派なものではありません。
高校生の頃、髪型や服装に興味があった僕に、友達が言った「美容師とか向いてるんちゃう?」その言葉が頭に残って、美容師の道に進むことにしたのです。
仕事を始めてからは、技術が上達していくことが面白く、お客様から「いい感じです」「来てよかった」と直接言ってもらえることが嬉しかった。
気づけば、もう20年間美容師を続けています。
若い頃は、指名数や売上を必死で追っていました。
指名が増えれば、自分を選んでもらえていると思える。
売上が上がれば、美容師として認められている気がする。
自信がなかったからこそ、数字があることで安心していた部分もあったと思います。
当時の僕にとって「いい美容師」とは、指名が多くて、売上があって、お客様から人気のある人でした。
お客様が増えるにつれて、予約はどんどん詰まっていきました。
カットをして、カラーはアシスタントにお願いして、別のお客様のところへ行く。
当時はそれが普通だったのです。
ある日、長く担当していた女性のお客様が「最近、会社に行くのがちょっとしんどくて…」と話してくれました。
でも次のお客様が来ていて、僕は途中で席を離れなければなりません。
再びそのお客様のところに戻ったときには、話の続きにはもう戻りませんでした。
髪型はちゃんと仕上がっているし、お客様も普通に「ありがとう」と帰られた。仕事としては問題ありません。
それでも僕には、「もう少しあの話を聞きたかったな」そんな気持ちが残りました。
数字は上がっているのに、以前ほど「今日よかったな」と思えない。
そんな日が少しずつ増えていきました。
■自分の店なら、違うやり方ができると思っていた
店長になり、スタッフにも数字を求める立場になった頃から、「これは本当にお客様のためなのか、それとも店の数字のためなのか」と、自分でもわからなくなることがありました。
前の店が嫌だったわけではありません。
技術もカウンセリングも時間管理も、たくさん教えてもらいました。
ただ、「もっと一人ひとりとゆっくり向き合いたい」という気持ちが次第に強くなり、自分が大事にしたいことを、自分で責任を持って試してみたいと独立を決めたのです。
美容室「nico」を始めたのは7年前。
予約を詰め込みすぎない。
できるだけ途中で担当が入れ替わらない。
話したい人とは話し、静かに過ごしたい人には無理に話しかけない。
そういう店にしたいと思っていました。
しかし、開業したばかりの頃の僕は、結局、前の店でやってきたやり方をかなり持ち込んでいました。
予約の数を気にして、スタッフには「もう少し売上を意識して」と言う。
違う店をつくったつもりでも、自分自身の考え方は、そんなに変わっていなかったのです。
■「結局、売上を一番気にしているように見えます」
開業して1年半くらいの頃、営業後にスタッフと話していたときのこと。
その月の売上が思ったほど伸びておらず、僕は「次回予約や商品の提案をもう少し意識しよう」と話していました。
するとスタッフの一人が「直人さん、お客さんを大事にしたいってよく言うじゃないですか。でも、結局、売上を一番気にしてるように見えます」と言ったのです。
正直、ちょっとムッとしました(笑)
「店を続けるには売上いるやろ」と思いましたし、実際そう言ったと思います。
でも、家に帰ってからも、その言葉がずっと心に残っていました。
前の店とは違う店をつくりたいと思って独立したのに、スタッフから見れば、そんなに変わっていない。
自分が大事にしたいと思っていることと、実際にやっていることが違うんじゃないか。
独立したばかりの僕は不安でした。
家賃も必要。スタッフの給料も必要。お客様がどれだけ来てくれるかもわからない。
売上の数字が、そのまま「店を続けられるかどうか」に見えていました。
それに、前の店で十何年もやってきた方法しか知りませんでした。
違う店をつくりたいと思っても、具体的にどうすればいいかわからなくて、結局、知っているやり方に戻ってしまう。
店を変えただけでは、自分のやり方は変わらない。
スタッフの言葉で、そのことに気づかされたのです。
■売上を見ないのではなく、「売上だけで話を終わらせない」
そこから、まずは予約の取り方を変えました。
空きがあれば全部埋めるのではなく、少し余白を持たせる。施術に予定より時間がかかっても、次のお客様を待たせなくて済むくらいの余裕をつくるようにしました。
スタッフとも、売上の話をしなくなったわけではありません。
ただ、売上だけで話を終わらせない。
「最近、お客様どんな感じ?」「この方、前回どうだった?」「何かやりにくいことある?」次第にそんな話が増えていきました。
商品やメニューも、本当に必要なら提案する。
でも必要なければ言わなくていい。静かなお客様に無理に話しかけることもない。
「話すことがいい接客とは限らないよね」とスタッフにも話すようになりました。
全部が一気に変わったわけではありません。
今でも売上が悪ければ不安になります。
ただ、そんなときは「何のためにこの店を始めたんやったっけ」と考えるようになりました。
しばらくして、最初に指摘してくれたスタッフから「前より働きやすくなりました」と言われました。
そして、最近では他のスタッフからも、「この方、今日はあまり話したくなさそうでした」「前回これで困っていたから、今回はこうしました」と、お客様の話が出てくるようになったのです。
僕が本当にやりたかった美容室に、スタッフと一緒に少しずつ近づいていると感じています。
■「喋ってもいいし、喋らなくてもいいのが楽」
nicoには、美容室が少し苦手だという方も来てくださいます。
美容室が苦手な理由は人それぞれですが、「美容室でちゃんとしないといけない感じ」がしんどい人はいるんじゃないでしょうか。
希望をうまく説明できなくても構いません。
「なんとなく短くしたい」「朝を楽にしたい」。
それくらいでも十分です。そこから一緒に考えるのも、美容師の仕事だと思っています。
長く来てくださっているお客様から、こんなふうに言っていただいたことがあります。
「ここって、喋ってもいいし、喋らなくてもいいのが楽なんよね」その言葉を聞いたとき、僕がやりたかったことって、こういうことなのかもしれないと思いました。
僕は「何でも話してください」という美容室をつくりたいわけではありません。美容室なので、まず髪をちゃんときれいにする。それは絶対です。
そのうえで、話したい日は話せばいいし、静かに過ごしたい日は静かでいい。髪型が決まっていなければ、一緒に答えを探せばいい。
自分がどうしたいかより、お客様がどうしたいかを見る。
今の僕にとっての「いい美容師」は、そんなふうに、その人に合わせられる美容師です。
美容室に来たことで人生が変わるとか、そんな大きなことではなくていいんです。
帰るときに「髪、いい感じになったな」「今日来てよかったな」と思ってもらえる。
来たときより、少しだけ気分が軽くなって帰ってもらえる。nicoを、そんな時間を過ごせる店にしていきたいと思っています。
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