抽象的なオーダーのままデザインしてはいけない
クライアントとの打ち合わせで、
「高級感のあるデザインにしてください」
「信頼感を出したいです」
「親しみやすい感じがいいです」
「いい感じにお願いします」
と言われたことはないでしょうか。
そこで「高級感のあるWebサイト」と検索し、黒や金、明朝体を使った参考デザインを集める。
そして、自分が考える「高級感」でデザインを作る。
しかし、完成したものを見せると、
「少しイメージと違います」
「もっと柔らかい感じがいいです」
「高級すぎて、敷居が高く見えます」
と言われてしまう。
これは、デザインスキルだけの問題ではありません。
クライアントが言った「高級感」を、完成した答えとして受け取ってしまったことに原因があります。
あるクリニックから、Webサイトリニューアルの相談を受けた
先日、あるクリニックから、Webサイトリニューアルの相談を受けました。
驚いたのは、クリニックの先生自らAIを使い、マーケティング分析をされていたことです。
競合の特徴も調べ、現在のWebサイトの何が問題なのかも把握されていました。
誰に向けて、何を伝えたいのか。
どのような強みを訴求したいのか。
伝えるべき内容は、ほぼ整理されていました。
それでも、Webサイトを思うように改善できずにいました。
足りなかったのは、マーケティング分析ではありません。
整理した内容を、デザインとしてどう表現するか。
ここが、最も大きな課題でした。
クライアントやマーケターは、事業の方向性や伝えたい内容を理解していても、それをデザインの言葉で説明できるとは限りません。
どの情報を大きく見せるのか。
どのような写真を選ぶのか。
どんな色や書体を使うのか。
どのような世界観で伝えるのか。
競合とどう差別化するのか。
こうした判断には、デザインの専門性が必要です。
クライアントは、デザインの専門家ではない
クライアントは、自社の事業や商品、顧客について、デザイナーより深く理解しています。
頭の中には、伝えたいことや目指したい方向があります。
しかし、それを写真、色、書体、余白、レイアウトなどのデザイン要素を使って説明できるとは限りません。
そこで、自分の希望を伝えるために使われるのが、
「高級感」
「信頼感」
「親しみやすさ」
といった、伝えやすい言葉です。
また、「デザイナーなら、いいように考えてくれるだろう」という期待から、細かな説明をせずに任せることもあります。
だからこそデザイナーは、その言葉をそのまま形にしてはいけません。
「高級感」にも、いろいろある
ひとことで高級感といっても、表現は一つではありません。
ホテルのような、重厚で落ち着いた高級感。
美容ブランドのような、華やかで洗練された高級感。
医療機関のような、清潔で誠実な高級感。
余白を大きく使った、静かでミニマルな高級感。
先進的なサービスを感じさせる、シャープな高級感。
どれも「高級感」と表現できますが、与える印象はまったく違います。
さらに、求める高級感は、ターゲットや目的によって変わります。
憧れを持ってもらいたいのか。
信頼してもらいたいのか。
価格に見合う価値を伝えたいのか。
競合より上質に見せたいのか。
目的を確認せずに、一般的な高級感として黒や金を使えば、クライアントが求めていたものとは違うデザインになる可能性があります。
たとえば、本当に必要なのが「安心して相談できる上質さ」なら、重厚な黒と金のデザインでは、かえって敷居が高く見えるかもしれません。
確認すべきは、「なぜ高級感なのか」
クライアントから「高級感を出したい」と言われたとき、確認すべきなのは、好きな色や参考サイトだけではありません。
なぜ高級感が必要なのか
誰に、どのように感じてほしいのか
現在は、どのように見られているのか
競合と何を差別化したいのか
高級感を出すことで、失いたくない印象は何か
見た人に、どんな行動をしてほしいのか
まで聞く必要があります。
「高級感がほしい」という言葉は、表面的な要望です。
その奥には、
「価格に見合う信頼性を伝えたい」
「競合より専門性が高いことを示したい」
「これまでの安っぽい印象を変えたい」
「少し特別なサービスだと感じてほしい」
といった、本当の目的があります。
デザイナーが理解すべきなのは、高級感という言葉そのものではありません。
なぜ、その言葉が出てきたのかという背景です。
言葉だけで確認しても、ズレはなくならない
ただし、
「どのような高級感ですか?」
と質問するだけでは、クライアントも答えられないことがあります。
頭の中にあるイメージを、言葉だけで正確に説明するのは難しいからです。
そこで重要になるのが、デザインの方向性を可視化することです。
競合サイトを並べて比較する
参考デザインを印象別に分類する
ムードボードを作る
方向性の異なるビジュアルを見せる
写真、色、書体の組み合わせを提示する
たとえば、
「重厚で格式のある方向」
「親しみやすさを残した上質な方向」
「明るく洗練された方向」
を見せれば、クライアントも、
「こちらの方が近いです」
「これは少し敷居が高く見えます」
「もう少し柔らかさを残したいです」
と答えやすくなります。
デザイナーがビジュアルを用意することで、曖昧だった言葉の意味を共有できます。
可視化は、デザイン制作の前に行う
方向性の確認は、デザインを完成させてから行うものではありません。
制作前に行うことが重要です。
認識が曖昧なまま作り込み、完成してから「イメージと違う」と言われれば、大きな修正が発生します。
しかし、最初に複数の方向を可視化し、
「どの位置を目指すのか」
「競合と何を変えるのか」
「どんな印象は避けるのか」
を共有しておけば、デザインの判断基準ができます。
可視化は、クライアントの好みを聞くだけの工程ではありません。
目的に合った表現を一緒に見つけ、競合と差別化できる方向を決めるための重要な工程です。
クライアントの言葉は、答えではなくヒント
「高級感のあるデザインで」と言われたとき、それは完成した答えではありません。
クライアントが伝えたいことを探るためのヒントです。
言われたとおりに高級感をつくるのではなく、
なぜ、その要望が出てきたのか。
誰に、何を伝えたいのか。
どの高級感が目的に合っているのか。
を考える。
そして、その考えを可視化し、クライアントと確認する。
デザイナーの役割は、依頼された言葉をそのまま見た目にすることではありません。
言葉の背景にある意図をくみ取り、ターゲットに伝わり、競合と差別化できる表現へ変換することです。
依頼された背景を考えず、そのままデザインしていませんか?
指示どおりに作るだけなら、デザイナーの役割は制作担当者で終わります。
一方で、
「なぜ、この表現が必要なのか」
「本当に伝えるべきことは何か」
「どの方向なら、目的を実現できるのか」
まで考えて提案できれば、クライアントと一緒に課題を解決するパートナーになれます。
「高級感で」と言われて、一般的な高級感を作る人ではなく、「なぜ高級感なのか」から考えられる人になる。
これが、これから選ばれるデザイナーに必要な力だと、わたくしは考えています。
今回ご紹介したクリニックの相談でも、言葉だけで方向性を決めるのではなく、複数のデザインを可視化しながら、目指す位置を一緒に確認しました。
同じ「上質なデザイン」でも、どのように違いを整理し、クライアントと認識を合わせたのか。
この具体的な進め方については、別の記事で詳しくご紹介します。
わたくしのメンタリングでは、デザインの作り方だけでなく、クライアントへのヒアリング、要望の整理、方向性の可視化、提案の言語化まで一緒に学びます。
「言われたものを作るだけの状態から抜け出したい」
「クライアントへ何を質問すればよいかわからない」
「根拠を持ってデザインを提案できるようになりたい」
という方は、一度お話を聞かせてください。
無料相談では、現在のスキルや仕事の状況を伺い、次に何を身につければよいのかを具体的に整理します。