青の教室 蒼真の15 第4章 影の正体

青の教室 蒼真の15 第4章 影の正体

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学び
第4章 影の正体

二月の風は、冬の名残をしっかりと抱えたまま吹いていた。
 空は薄い青で、雲がゆっくりと流れている。

蒼真は、青の教室へ向かう道を歩きながら、
 胸の奥に重たい石のようなものを感じていた。

(……昨日のこと、まだ引きずってる)

昨日、母と大きな言い合いになった。

「蓮くんは関学を受けるんでしょ?
  あなたももっと上を目指しなさいよ」

「無理だって言ってるだろ!」

「無理って言う前に努力しなさい!」

その言葉が、
 胸の奥に深く刺さったままだった。

(努力してないわけじゃない……
  でも、蓮みたいにはできない)

その事実が、
 蒼真を苦しめていた。


***

青の教室のドアを開けると、
 暖かい空気がふわりと流れてきた。

「こんにちは、蒼真」

友彦が、
 いつもの静かな声で迎えてくれた。

その声を聞いた瞬間、
 胸の奥の石が少しだけ軽くなる。

「……こんにちは」

席に座ると、
 紗月が静かにノートを開いていた。

「蒼真くん、今日……ちょっと疲れてる?」

紗月は、
 蒼真の“揺れ”をすぐに見抜いた。

「まあ……ちょっとな」

「うん。
  なんか、そんな顔してる」

紗月は、
 それ以上聞かなかった。

その“聞かない優しさ”が、
 蒼真にはありがたかった。


***

数学のプリントを解いていると、
 蓮が教室に入ってきた。

「おー、蒼真。
  昨日の練習、めっちゃ良かったやん」

「……そうか?」

「うん。
  監督も言ってたで。
  “蒼真、最近動きが軽い”って」

蓮は、
 悪気なく言っている。

でも、
 その言葉が胸に刺さった。

(俺は……蓮に褒められて嬉しいのか?
  それとも悔しいのか?)

自分でも分からなかった。

蓮は、
 友彦から渡された過去問を開き、
 すぐに集中モードに入った。

(すげえな……)

蒼真は、
 胸の奥がざわつくのを感じた。

(なんで……あいつは迷わないんだ)

その“迷わなさ”が、
 蒼真には眩しすぎた。


***

英語の時間。
 蒼真は、
 昨日の続きのプリントを開いた。

短い文。
 短い単語。

でも、
 今日は胸の奥のざわつきが強かった。

(読める気がしない……)

プリントの文字が、
 ゆらゆらと揺れて見える。

そのとき、
 友彦が静かに声をかけた。

「蒼真。
  今日は、英語じゃなくて……話をしようか」

「……え?」

「ちょっと、こっちへ」

友彦は、
 教室の隅にある小さな机を指した。

蒼真は、
 胸の奥がぎゅっと縮むのを感じた。

(怒られるのか……?)

でも、
 友彦の表情は柔らかかった。


***

「蒼真。
  昨日、家で何かあった?」

その一言で、
 胸の奥の石が音を立てて崩れた。

「……なんで分かるんですか」

「分かるよ。
  蒼真の“影”が、いつもより濃いから」

影――
 その言葉に、
 胸の奥がふっと揺れた。

「母さんと……言い合いになって。
  蓮みたいにできないって言われて……
  俺だって頑張ってるのに……」

言葉が、
 勝手にこぼれ落ちた。

友彦は、
 静かにうなずいた。

「蒼真。
  影ってね、
  “悪いもの”じゃないんだよ」

「……え?」

「影は、
  光があるからできる。
  そして、影があるから、
  自分の“形”が分かるんだ」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

「蓮くんは蓮くんの影がある。
  蒼真には蒼真の影がある。
  どっちが上とか下とかじゃない」

「でも……俺は蓮に勝てない」

「勝つ必要なんてないよ」

友彦は、
 静かに言った。

「蒼真は、
  “蒼真の道”を歩けばいい」

その言葉は、
 胸の奥にすっと染み込んだ。

(俺の……道)

そんなものがあるとは、
 思っていなかった。


***

席に戻ると、
 紗月が心配そうに見ていた。

「蒼真くん……大丈夫?」

「……まあ、なんとか」

「うん。
  なんか、
  さっきより顔が軽くなった気がする」

紗月は、
 蒼真の“影の変化”を見抜いていた。

「蒼真くんの影、
  今日……ちょっとだけ薄くなったよ」

その言葉に、
 胸の奥がふっと温かくなった。

(影が……薄くなった)

自分でも、
 そう感じていた。


***

帰り道。
 空は薄い金色に染まっていた。

蒼真は、
 胸の奥の石が少しだけ軽くなっているのを感じた。

(影って……悪いものじゃないのか)

影があるから、
 自分の形が分かる。

影があるから、
 光が分かる。

そのことを、
 初めて理解した気がした。

風が頬を撫でた。

(俺の影……俺の道……)

その言葉が、
 胸の奥で静かに響いていた。

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