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学び
青の教室 蒼真の15 第5章 秋の手前で
記事
学び
木村センセ
2026/03/12 17:22
第5章 秋の手前で
九月の初め。
夏の熱気がまだ少し残っているのに、
朝の風だけは確かに秋の気配を含んでいた。
蒼真は、青の教室へ向かう道を歩きながら、
胸の奥に小さなざわめきを感じていた。
(今日……返ってくる)
2学期最初の実力テスト。
英語の答案が返却される日だった。
(平均……いけたかな)
期待と不安が、
胸の奥で静かに揺れていた。
***
青の教室のドアを開けると、
蓮がすでに席に座っていた。
「おー蒼真。
今日、英語返ってきたやろ?」
「……まあな」
「どうやった?」
蒼真は、
胸の奥がざわつくのを感じた。
(言いたくない……でも、言いたい)
「……平均、越えた」
蓮の目が大きく開いた。
「マジか!
すげえやん!」
その声は、
本気で喜んでいる声だった。
蒼真は、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
(蓮……こういうとこ、ずるいよな)
悔しいのに、
嬉しい。
勝てないのに、
嫌いになれない。
そんな存在だった。
***
「蒼真くん、見せて」
紗月が、
静かに答案を覗き込んだ。
「……すごい。
本当に、がんばったんだね」
その声は、
蓮の声とは違う温度を持っていた。
蓮の声は“光”で、
紗月の声は“風”だった。
胸の奥をそっと撫でるような、
静かな風。
「……まあ、先生のプリントのおかげだよ」
「ううん。
蒼真くんが、逃げなかったからだよ」
紗月は、
蒼真の“影の変化”を見抜いていた。
***
その日の英語の時間。
友彦は、
蒼真の答案を見て静かにうなずいた。
「よくやったね、蒼真」
その一言は、
褒め言葉ではなく、
“事実の確認”だった。
「これはね、
蒼真が“英語の怖さ”を越えた証拠だよ」
「……怖さを、越えた?」
「うん。
怖いまま進んだんだ。
それが一番強い」
蒼真は、
胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。
(怖いまま……進んだ)
それは、
自分でも気づいていなかったことだった。
***
一方、蓮は――
「先生、関学の過去問、
この長文の構造がちょっと分からんくて」
「ここはね、“逆接”が鍵なんだよ」
「なるほど!」
蓮は、
難しい問題にも迷わず飛び込んでいく。
(すげえな……)
蒼真は、
胸の奥がざわつくのを感じた。
(俺とは……違う)
でも、
その“違い”が、
以前ほど痛くなかった。
(俺には俺の速さがある)
その言葉が、
胸の奥で静かに響いていた。
***
休憩時間。
蓮が蒼真のところへ来た。
「蒼真。
お前、英語平均越えたんやろ?」
「……まあな」
「ほんまにすげえって。
俺、英語は得意やけど……
“怖さ越える”ってのは、
俺にはできへんことやと思う」
蒼真は、
胸の奥がふっと揺れるのを感じた。
(蓮……そんなふうに思ってたのか)
蓮は続けた。
「俺、関学受けるって決めたけど……
正直、怖いで」
「え?」
「だって、
落ちたらサッカーの道も変わるし。
でも……
怖いまま進むしかないやん」
蒼真は、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
(蓮も……怖いんだ)
蓮は、
完璧じゃなかった。
ただ、
“怖さを隠すのが上手い”だけだった。
(俺と……同じなんだ)
その気づきが、
胸の奥の影を少しだけ薄くした。
***
帰り道。
夕暮れの空は、
淡い金色に染まっていた。
紗月が、
少し後ろを歩いていた。
「蒼真くん」
呼ばれて振り返ると、
紗月は静かに微笑んだ。
「今日の蒼真くん……
なんか、光ってたよ」
「光ってた……?」
「うん。
“怖さを越えた人の光”って感じ」
蒼真は、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
(光……か)
そんなものが、
自分にあるとは思っていなかった。
紗月は、
夕暮れの空を見上げながら言った。
「秋の手前ってね、
影と光がいちばん混ざる季節なんだって」
「へえ……」
「蒼真くんの15歳、
今ちょうどその季節にいる気がする」
その言葉は、
秋風のように胸に落ちた。
(影と光が混ざる季節……)
蒼真は、
胸の奥のざわめきを抱えながら、
ゆっくり歩き出した。
(俺の15歳……
まだ、これからだ)
夕暮れの空が、
静かにひらいていくように見えた。
#中3物語
#木村センセ
#自由
#塾
青の教室 蒼真の15 第4章 影の正体
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