青の教室 蒼真の15 第5章 秋の手前で

青の教室 蒼真の15 第5章 秋の手前で

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学び
第5章 秋の手前で

九月の初め。
 夏の熱気がまだ少し残っているのに、
 朝の風だけは確かに秋の気配を含んでいた。

蒼真は、青の教室へ向かう道を歩きながら、
 胸の奥に小さなざわめきを感じていた。

(今日……返ってくる)

2学期最初の実力テスト。
 英語の答案が返却される日だった。

(平均……いけたかな)

期待と不安が、
 胸の奥で静かに揺れていた。


***

青の教室のドアを開けると、
 蓮がすでに席に座っていた。

「おー蒼真。
  今日、英語返ってきたやろ?」

「……まあな」

「どうやった?」

蒼真は、
 胸の奥がざわつくのを感じた。

(言いたくない……でも、言いたい)

「……平均、越えた」

蓮の目が大きく開いた。

「マジか!
  すげえやん!」

その声は、
 本気で喜んでいる声だった。

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(蓮……こういうとこ、ずるいよな)

悔しいのに、
 嬉しい。

勝てないのに、
 嫌いになれない。

そんな存在だった。


***

「蒼真くん、見せて」

紗月が、
 静かに答案を覗き込んだ。

「……すごい。
  本当に、がんばったんだね」

その声は、
 蓮の声とは違う温度を持っていた。

蓮の声は“光”で、
 紗月の声は“風”だった。

胸の奥をそっと撫でるような、
 静かな風。

「……まあ、先生のプリントのおかげだよ」

「ううん。
  蒼真くんが、逃げなかったからだよ」

紗月は、
 蒼真の“影の変化”を見抜いていた。


***

その日の英語の時間。
 友彦は、
 蒼真の答案を見て静かにうなずいた。

「よくやったね、蒼真」

その一言は、
 褒め言葉ではなく、
 “事実の確認”だった。

「これはね、
  蒼真が“英語の怖さ”を越えた証拠だよ」

「……怖さを、越えた?」

「うん。
  怖いまま進んだんだ。
  それが一番強い」

蒼真は、
 胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。

(怖いまま……進んだ)

それは、
 自分でも気づいていなかったことだった。


***

一方、蓮は――

「先生、関学の過去問、
  この長文の構造がちょっと分からんくて」

「ここはね、“逆接”が鍵なんだよ」

「なるほど!」

蓮は、
 難しい問題にも迷わず飛び込んでいく。

(すげえな……)

蒼真は、
 胸の奥がざわつくのを感じた。

(俺とは……違う)

でも、
 その“違い”が、
 以前ほど痛くなかった。

(俺には俺の速さがある)

その言葉が、
 胸の奥で静かに響いていた。


***

休憩時間。
 蓮が蒼真のところへ来た。

「蒼真。
  お前、英語平均越えたんやろ?」

「……まあな」

「ほんまにすげえって。
  俺、英語は得意やけど……
  “怖さ越える”ってのは、
  俺にはできへんことやと思う」

蒼真は、
 胸の奥がふっと揺れるのを感じた。

(蓮……そんなふうに思ってたのか)

蓮は続けた。

「俺、関学受けるって決めたけど……
  正直、怖いで」

「え?」

「だって、
  落ちたらサッカーの道も変わるし。
  でも……
  怖いまま進むしかないやん」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(蓮も……怖いんだ)

蓮は、
 完璧じゃなかった。

ただ、
 “怖さを隠すのが上手い”だけだった。

(俺と……同じなんだ)

その気づきが、
 胸の奥の影を少しだけ薄くした。


***

帰り道。
 夕暮れの空は、
 淡い金色に染まっていた。

紗月が、
 少し後ろを歩いていた。

「蒼真くん」

呼ばれて振り返ると、
 紗月は静かに微笑んだ。

「今日の蒼真くん……
  なんか、光ってたよ」

「光ってた……?」

「うん。
  “怖さを越えた人の光”って感じ」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(光……か)

そんなものが、
 自分にあるとは思っていなかった。

紗月は、
 夕暮れの空を見上げながら言った。

「秋の手前ってね、
  影と光がいちばん混ざる季節なんだって」

「へえ……」

「蒼真くんの15歳、
  今ちょうどその季節にいる気がする」

その言葉は、
 秋風のように胸に落ちた。

(影と光が混ざる季節……)

蒼真は、
 胸の奥のざわめきを抱えながら、
 ゆっくり歩き出した。

(俺の15歳……
  まだ、これからだ)

夕暮れの空が、
 静かにひらいていくように見えた。

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