青の教室 蒼真の15 第2章 横文字の壁

青の教室 蒼真の15 第2章 横文字の壁

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学び
第2章 横文字の壁

冬休みの三日目。
 空は薄い青に変わり、
 冷たい風が頬を刺すように吹いていた。

蒼真は、青の教室へ向かう道を歩きながら、
 胸の奥に小さなざわめきを感じていた。

(今日は……英語、やるんだよな)

昨日、友彦が作ってくれた“英語アレルギー用プリント”は、
 思ったよりも読みやすかった。
 でも、あれは“最初の一歩”にすぎない。

次の一歩を踏み出すのが、
 怖かった。

(また、頭が真っ白になったらどうしよう)

そんな不安が、
 胸の奥で静かに渦を巻いていた。


***

青の教室のドアを開けると、
 暖かい空気と、
 紙の匂いが迎えてくれた。

「おはよう、蒼真」

友彦が、
 いつもの静かな声で言った。

その声を聞くと、
 胸のざわめきが少しだけ落ち着く。

「おはようございます」

席に座ると、
 紗月がすでにノートを開いていた。

「蒼真くん、今日も来たんだね」

紗月は、
 昨日より少しだけ柔らかい笑顔を見せた。

「うん……まあ、ね」

蒼真は、
 照れくさくて視線をそらした。

紗月は、
 蒼真の“揺れ”を見抜いているようだった。


***

数学のプリントを終えると、
 友彦が静かに言った。

「じゃあ、英語に行こうか」

その瞬間、
 胸の奥がぎゅっと縮んだ。

(来た……)

逃げたい気持ちと、
 向き合いたい気持ちが、
 胸の中でぶつかり合う。

友彦は、
 蒼真の表情を見て、
 少しだけ目を細めた。

「大丈夫。
  今日は“読む”じゃなくて、
  “感じる”ところから始めよう」

「……感じる?」

「うん。
  英語はね、
  “音”から入ると楽になることがあるんだ」

友彦は、
 机の上に新しいプリントを置いた。

昨日よりもさらに短い。
 単語が三つだけ。

 sun
 run
 one

「これ、読める?」

蒼真は、
 胸の奥がざわつくのを感じながら、
 ゆっくり口を開いた。

「……さん、らん、わん……?」

「そう。
  正解」

友彦は、
 大げさに褒めるわけでもなく、
 ただ静かにうなずいた。

そのうなずきが、
 蒼真の胸にすっと染み込んだ。

(読めた……)

たった三つの単語。
 でも、
 蒼真にとっては大きな一歩だった。


***

「じゃあ、次はこれ」

友彦が差し出したのは、
 短い英文だった。

 The sun is blue.

蒼真は、
 胸の奥がざわつくのを感じた。

(……無理かも)

でも、
 友彦は急かさなかった。

「ゆっくりでいいよ。
  “読む”じゃなくて、
  “音を感じる”だけでいい」

蒼真は、
 深呼吸をしてから、
 ゆっくり声に出した。

「……ざ、さん、いず、ぶるー……?」

「うん。
  いいね」

友彦は、
 静かに笑った。

「意味は分からなくていい。
  “読めた”っていう経験が大事なんだ」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(読めた……)

意味は分からない。
 でも、
 読めた。

それだけで、
 胸の奥のざわめきが少しだけ静かになった。


***

休憩時間。
 蒼真は、
 机に突っ伏して息を整えていた。

(疲れた……)

英語を読むだけで、
 こんなに疲れるとは思わなかった。

そのとき、
 隣から小さな声がした。

「蒼真くん、がんばってるね」

紗月だった。

「……見てたの?」

「うん。
  なんか、
  “怖いけど進んでる”って感じがした」

蒼真は、
 胸の奥がふっと揺れるのを感じた。

(怖いけど……進んでる)

紗月は、
 蒼真の心の中を
 そのまま言葉にしたようだった。

「わたしね、
  蒼真くんの英語の声、
  好きだよ」

「えっ……?」

「なんか、
  “がんばってる音”がするから」

蒼真は、
 顔が熱くなるのを感じた。

(がんばってる音……)

そんなふうに言われたのは、
 初めてだった。


***

帰り道。
 空は薄いオレンジ色に染まっていた。

蒼真は、
 胸の奥のざわめきを感じながら歩いた。

(英語……少しだけ、できるかもしれない)

まだ怖い。
 まだ苦しい。
 でも、
 “できるかもしれない”という感覚が、
 胸の奥に小さく灯っていた。

その灯りは、
 冬の夕暮れの空よりも、
 ずっと温かかった。

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