先日、退職される方の面談を担当する機会がありました。
その経験から、あらためて考えたことがあります。
退職意向者は、直属の上司には、話せないことがある
退職理由を尋ねる面談は、多くの企業で行われています。
でも、直属の上司や、日頃から関わりのある人が聞き手になると、本当の理由を話しにくいと感じる方は、少なくないと思いますが、いかがでしょうか。
角が立たないように。
今後の人間関係を壊さないように。
そうした配慮から、当たり障りのない理由で、面談が終わってしまうことがあります。
なぜ、第三者になら話せるのだろう
利害関係のない第三者が話を聞くと、状況は変わることがあります。
これから先、その相手と関わり続けるわけではない。
評価にも、人間関係にも、影響しない。
そう思えるからこそ、率直な言葉が出てくるのだと思います。
エグジットインタビューは、欧米の組織では広く定着している慣行です。
近年は、日本の企業でも、退職マネジメントの一環として取り入れる動きが広がっています。
退職代行という選択肢が広がっている
一方で、今、別の広がりも見えています。
パーソル総合研究所の調査によると、離職者のうち5.1%、20人に1人が、退職代行サービスを利用しているとのことです。
マイナビの調査では、直近1年間に転職した人の16.6%が、退職代行を利用した経験があると回答しています。
利用理由の上位は、「引き留められた、あるいは引き留められそうだから」「自分から退職を言い出せる環境でない」というものでした。
この数字が示しているのは、本音を伝えないまま、関係を断ち切るという選択をする人が、確実に増えているということです。
本音を伝えないまま、次に進んでいいのだろうか
ここで、私はもう一つ、問いかけてみたいことがあります。
本音を伝えないまま関係を断ち切ることは、目の前の負担を、たしかに減らしてくれます。
でも、その先で、当事者本人はどうなっていくのでしょうか。
漠然とした不安を抱えたまま、次の転職先を決めてしまう。
そうしたキャリアの重ね方は、この先、本人にとって本当に良い方向に向かうのでしょうか。
会社に向き合うことも、自分自身の本音に向き合うことも、どちらも簡単なことではありません。
だからこそ、その間に立ち、双方が向き合いにくい本音に、丁寧に耳を傾ける存在があってもいいのではないかと、私は思っています。
キャリアコンサルタントこそが、その代弁者としての役割を担うことができるのではと、私は考えています。
どこまで、本人の本音を伝えるべきなのだろう
ここで、私はもう一つ、大切な問いに向き合っています。
本音を引き出せたとして、それを、どこまで会社に伝えるべきなのだろう。
すべてをそのまま伝えてしまえば、話してくれた方の信頼を裏切ることになりかねません。
かといって、当たり障りのない部分だけを伝えても、会社にとって意味のある情報にはなりません。
だからこそ、逐語録をそのまま渡すのではなく、個人が特定されない形に整理し、組織改善に活かせる情報として、匿名化してお伝えすることが大切なのだと、私は考えています。
レポートは、退職後に届ける
もう一つ、大切にしていることがあります。
分析レポートは、対象の方が実際に退職された後にお渡しするようにしています。
在職中に会社へ情報が伝わるかもしれない、という不安があれば、どれだけ丁寧に面談をしても、本音は出てきません。
「今、話したことが、自分がまだ働いている間に、会社へ伝わることはない」
その安心感があってはじめて、本音を話してもらえるのだと思います。
企業側にとって本音を聞くことは、組織を育てる
退職者の本音は、時に厳しい内容を含みます。
けれど、それは組織にとって、貴重な学びの機会でもあります。
誰かが去っていくときにしか見えてこない景色があります。
その景色を、次に向けた改善につなげていくこと。
それもまた、人を育て、組織を育てるということなのだと、私は思っています。
退職者側にとって本音を話すことは、次のキャリアへの道しるべにもなる
そしてもう一つ、忘れてはならないことがあります。
本音を話すことは、企業のためだけではありません。
話す本人にとっても、大きな意味を持ちます。
漠然とした不安や違和感を、言葉にせずに次へ進んでしまうと、同じ状況を、また別の場所で繰り返してしまうことがあります。
一方で、自分が何につまずき、何を大切にしたかったのかを、一度きちんと言葉にできた人は、次の一歩を、より確かな足取りで踏み出せるようになります。
本音を話すことは、過去を清算するためだけの行為ではありません。
それは、次のキャリアへの道しるべを、自分の手で描くことでもあるのだと、私は思っています。