いつもお世話になっております。
私は千葉県印西市に在住する、社会保険労務士の齊藤祐作と申します。
証券コード協議会とは何か?
突然ですが、皆さんは証券コード協議会というものをご存じでしょうか?
証券コード協議会とは、日本全国の証券取引所と、証券保管振替機構(ほふり)が共同で設置している委員会のことです。
この委員会では上場企業から提出される、有価証券報告書の内容の確認および審査を行っていて、「事業内容が大きく変化した」と認められる場合、所属業種の変更を決定することがあります。
上場会社の所属業種の変更は毎年3月と、9月の最初の取引日に各証券取引所の公式ホームページで発表され、それから1か月後の4月1日と、10月1日に実施されます。
主な例は、本記事の一番下に記載してあります。
所属業種変更の要件
証券コード協議会が定める業種変更(定期審査)の要件は、以下の通りです。
以下の(1)と、(2)の要件を全て満たした場合、証券コード協議会は上場企業の所属業種の変更を決定します。
(1):新たな所属業種の売上が、現所属業種の売上の2倍以上になっている
(2):(1)の状態が2年以上継続している
この他、合併や、営業の譲渡・譲受などで「事業の内容が大きく変化した」と認められる場合は、随時審査を行います。
この随時審査で、「上記の(1)の要件に該当している」と認められた場合は、合併等から2年を待たずに、所属業種の変更が決定されることになります(所属業種の変更は、4月1日と、10月1日の年2回実施)。
業種変更をする時に必要なこと
業種変更をする場合は、管轄の法務局で登記申請を、税務署で異動の届け出をする必要があります。
また、業種変更をすると、労災保険や、雇用保険の保険料率も同時に変化することになります。
そのため、毎年6月1日から7月10日までの(労働保険料)年度更新の際に、労働保険料の清算をする必要があります。
中小企業の業種変更はどうすれば良いのか?
ここまでは、主に大企業の業種の変更について書いてきましたが、多くの大企業は、工場や、営業所などといった事業所を全国各地に置いています。
1997年に持株会社が解禁されてからは、「●●ホールディングス」や、「●●グループ」という形でさまざまな業種の企業を傘下に置くケースも多くなっています(いわゆる複合企業体=コングロマリット)。
そのような場合、労働保険料率は企業単位ではなく、工場などの事業所単位で判定されます。
図1では、そのイメージを示します。
図1:持株会社と適用される労災・雇用保険料率
一方、中小企業の場合、事業所がそもそも1か所しかない(さまざまな事業を、全部1か所で行っている)ケースも多々あります。
また、各従業員が事務作業や、営業や、工場での作業を兼務していることもよくあります。
そのような場合はまず中小企業診断士に、業種変更の要件に該当しているかの判断を仰ぐのが無難と言えます。
業種変更の要件は、証券コード協議会が定めるものを準用します。
所属業種が変更された上場企業の主な例
最後に、所属業種が変更された上場企業の主な例を示します。
①:カネボウ(現・クラシエ。2000年10月に繊維→化学)
カネボウは元々、「鐘ヶ淵紡績」という名前の大手繊維メーカーでしたが、1970年代に繊維産業が衰退したのを機に、化粧品や、食品などの分野に参入して、事業の多角化を進めました。
その後、化粧品の売上が繊維製品の売上を大きく上回るようになったことから、2000年10月に所属業種がそれまでの「繊維」から、「化学」に変更されました。
このようにして事業の多角化を進めたカネボウでしたが、化粧品以外の分野では利益を出すことができませんでした。
食品分野では「ねるねるねるね」や、「甘栗むいちゃいました」などのヒット商品を生み出したものの、企業全体では赤字体質を解消することができませんでした。
事業の多角化に失敗して、巨額の累積赤字を計上したカネボウは、2005年に「2期連続債務超過」の規定に抵触したため、上場廃止となってしまいました。
その後、産業再生機構(当時)の支援を受けて、不採算部門の整理(創業事業である繊維事業からの撤退)などの経営再建を進めたカネボウは、2007年に社名をクラシエに変更して、現在に至っています。
②:東京エレクトロン(2006年4月に卸売業→電機)
③:ニプロ(旧・ニッショー。2006年4月に卸売業→精密)
東京エレクトロンはもともと、半導体などの電子部品を扱う商社でしたが、1980年代に入るとそれまでのノウハウを生かして、半導体製造装置などの開発・製造を自社で行うようになりました。
上記のようなプライベートブランドの確立によって、商社よりもメーカーとしての色彩が強くなってきたことから、2006年4月に所属業種がそれまでの「卸売業」から、「電機」に変更されました。
2006年4月には、医療機器メーカーのニプロ(旧・ニッショー)も東京エレクトロンと同様の理由で、所属業種がそれまでの「卸売業」から、「精密」に変更されています。
④:日清紡ホールディングス(2015年10月に繊維→電機)
日清紡ホールディングスはもともと繊維メーカーでしたが、平成以降になると事業の多角化や、積極的なM&Aを進めるようになりました。
これらの事業戦略によって、無線・通信事業と、マイクロデバイス事業の売上が繊維製品の売上を大きく上回るようになったため、2015年10月に所属業種がそれまでの「繊維」から、「電機」に変更されました。
⑤:大東建託(2022年10月に建設→不動産)
大東建託は土地の有効利用を目的とした、賃貸建物の建設を事業の柱としていましたが、その賃貸建物の管理戸数(自社で運営する「いい部屋ネット」の取扱物件)が増えたことで、賃貸収入が建設事業の収益を大きく上回るようになりました。
上記の理由により、2022年10月に所属業種がそれまでの「建設」から、「不動産」に変更されました。
⑥:RIZAPグループ(旧・健康コーポレーション。2016年10月に化学→サービス業、2021年10月にサービス業→小売業)
RIZAPグループ(旧・健康コーポレーション)は元々、健康商品や、サプリメントなどを製造・販売する企業でしたが、2010年代初頭に「RIZAP」ブランドでトレーニングジムの運営に参入して成功を修めた結果、2010年代中頃にはトレーニングジムの収益が、健康食品等の収益を大きく上回るようになりました。
これにより、2016年10月に所属業種がそれまでの「化学」から、「サービス業」に変更されました。
その後、RIZAPグループは積極的なM&Aによって、エンターテインメント専門店の「WondorGoo」や、リサイクルショップの「WonderREX」や、インテリアショップの「HAPiNS」や、カジュアルウェアショップの「ジーンズメイト」を展開する、REXTホールディングスなどを次々と傘下に収めて行きました。
これらのM&A戦略によって、小売業の収益がトレーニングジムの収益を大きく上回るようになったことから、2021年10月に所属業種が「サービス業」から、「小売業」に再度変更されました。
上場企業の所属業種の変更は、年平均で10銘柄前後ですが、2006年4月には東京エレクトロンや、ニプロや、テルモや、IHI(旧・石川島播磨重工業)など、計32銘柄の所属業種が一度に変更されています。
32銘柄は過去のデータを見ても、際立って多いと言えます。
RIZAPグループのように所属業種が2度も変更されるのは、非常に珍しいケースと言えます。
おわりに
いかがでしょうか?
労働保険料率の計算をする場合、企業ごとの実態に応じて業種を判断する必要があります。
その点が、社会保険労務士や、給与計算の担当者を悩ませるところです。
ましてや、所属業種が変更されるようなことがあれば、なおさらです。
本記事がそんな悩みを解消する一助になれば、幸いです。