神保町の三省堂書店がリニューアルオープンした。
「書店の街」と言われ続けてきた神保町だけれど、正直に言えば、三省堂が長く本来の旗を掲げられなかった時期は、背骨の抜けた人体みたいだった。街は街として存在しているのに、芯がない。血流が弱い。歩いていても、どこか落ち着かない。
だからこそ、今回はまず「ヤレヤレ」だ。
この街に、ようやく骨格が戻ってきた。そんな気がした。
ところが、安心した直後に、私は少しだけ背中が冷えた。
社長インタビューを読んだときだ。業界が厳しいのは分かっている。むしろ私は、紙の雑誌と書籍の世界で長く生きてきた人間だから、痛いほど分かっている。だけど、トップの言葉に期待していたのは、苦しい現状の説明だけじゃない。「こうしたい」「こう変える」「この街の書店の未来を、こう描く」──そんな明るい提言や決意だった。
「値上げしてくれ」が、いちばん大きく聞こえた
インタビューでは、いろんな話題に触れている。
それでも私の耳に残ったのは、強調されるように響いてくるメッセージだった。
「出版社は、本の値段を上げてくれ」
ごもっともだ。本当にごもっともだ。
紙の本は紙でできている。原油価格の高騰は、用紙代に直撃する。コロナ以前なら1400円くらいだった本が、今は1700円あたりで定価設定されるのも珍しくない。文庫本ですら本体1000円を超えるものが出てきた。
それに対して、書店の取り分は薄いまま。薄いどころか、薄すぎるまま。
だから閉店する本屋さんが増えている。これは、誰かが怠けた結果じゃない。「構造」がそうなってしまっている。
そして厄介なのは、ここから先の話だ。
「じゃあ、別の利益構造を作ればいい」
口で言うのは簡単だけれど、本の世界でそれを成立させるのは途方もなく難しい。結局、現実的な対策は「本体価格を上げる」以外に打ちづらい。大手でも中小でも、そこは変わらない。
──だからこそ、私は思ってしまった。
それを“いちばん大きな声”で言うのは、いまここなのだろうか。
リーダーの仕事は、希望を設計することだ
苦しい現状を語ること自体が悪いわけじゃない。
むしろ隠さずに伝える姿勢は必要だ。
でも私は、業界のリーダーの務めは別のところにもあると思っている。
与えられた条件の中で、どう前向きに進むかを示すこと。
「こうすれば本が売れる」
「こんなことをすれば書店に人が集まる」
「この場所を、こういう体験の拠点にする」
もちろん、万能の答えなんてない。
それでもトップの言葉には、未来の設計図があってほしい。人は、設計図がある場所に集まるからだ。
私はその“設計図の気配”を、もっと聞きたかった。
正直に言って、残念だった。
だからこそ見えた。「プロレベル電子書籍」の時代
そして、その残念さが逆に、私の確信を強めた。
私はずっと言い続けている。
これからは、いやでも電子書籍の時代になる。
紙の世界で生きてきた人間として、寂しさはある。人一倍、寂しい。
でも、変化に対応できず、意固地になっても何も良いことはない。
むしろ、いまは“生活者側”にチャンスがある時代だ。
目の付けどころひとつ。デジタルマーケティングひとつ。
それだけで、自分の電子書籍をたくさんの人に届けられる可能性がある。
ただし、ここでひとつだけ強く言いたい。
ちゃんとした電子書籍を作らないと、意味がない。
素人考えで作った電子書籍ほどタチの悪いものはない。
読者が何を求めているのか。どんな切り口で構成すべきか。刺さる言葉は何か。そこを徹底的に考え抜いた原稿で仕上げる。
タイトルだって、何千冊、万単位の本をウォッチし続けて磨かれた感覚とセンスが要る。
表紙デザインも、テンプレに当てはめてちゃちゃっと作ればいいものじゃない。
生成AIは、活用するものだ。
丸投げするものではない。
三省堂の復活が教えてくれた「次の勝ち筋」
三省堂のリニューアルオープンは、神保町にとって大きな意味がある。
だからこそ私は、あのインタビューで背中が冷えた。
でも同時に、確信した。
紙の構造が厳しくなるほど、**“ちゃんと作られた電子書籍”**は、次の勝ち筋になる。
出版の世界が縮む話ではなく、出版の世界が「再編集される」話だと思っている。
これからの時代は、出版の入口が増える。
そのぶん、“本物”の価値も上がる。
だから私は、ここから先も言い続ける。
プロレベルの電子書籍の時代が来る。もう来ている。