#1|きっとボクは、死ぬまでアルコール依存症

#1|きっとボクは、死ぬまでアルコール依存症

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見上げた病室の天井は、ただ無機質に白くて、そしてあの「脳の周りを覆いかかっているモヤの感覚」を今でも忘れません。
肝臓のダメージを示す γ-GTPは衝撃の四桁。
当時のボクにとって、そしてボクの家族にとっても、想像を遥かに超えた、基準値から「ゼロが二つも違う」異常値でした。

2022年11月16日。

ボクは緊急入院しました。

入院の手続きをしてくれた妻は、優しく「それじゃ、頑張ってね」と病室を後にしました。



ベッドの上で数時間前の出来事を思い出す。。。

「このままだと、死にますよ」

医師のこの言葉は、四桁の数字のヤバさとは裏腹に驚くほど淡々としていました。
一瞬、診察室の時間が止まりました。
妻も、ドクターも……
でも、その一方でボクは、はっとして、涙が溢れて止まりませんでした。
それは、自分の人生に「全壊寸前」の判定が出たことを理解した瞬間でした。


はじめまして。
一級建築士の峰岸勝巳(かつみ)です。


ボクは35年間、建物の「骨格」を見続けてきました。

倒れない強い家を設計する構造計算のプロです。

建物の「強さ、安全性」について、ずっと数字を使って証明してきました。

なのに——
ボク自身の人生そのものが、まともな設計もされないまま、
いつしか見えないシロアリに食い尽くされて、内側から静かに崩壊していました。
当時流行していたウイルス感染予防で、一切面会は謝絶。

そんな病室は、誰かに何かを助けを求めるかのように医療機器の音だけが、鳴り響いていました。

実は、この緊急入院の前日、ボクは大腸内視鏡カメラを受けた直後に一度、気を失いました。
体調不良を感じてから、原因が分からぬまま医者を転々と四ヶ月、「いよいよ残すは大腸検査」という事で内視鏡検査を受けたクリニックでの出来事でした。
失神後、遠のいた意識を呼び戻すかのように、「冷たい何か」がみぞおちあたりを何か弄るように、静かにゆっくりと動いていました。

遅れて理解が追いつく。
超音波エコーのジェル。

そのクリニックの医師は胃腸科専門なので明言は避けていましたが、

「あー、肝臓がいっちゃったね、ヤバい」
そこかー、と思いました。

「詳細の採血結果を今日中に出すよう手配して紹介状を書くから、明朝こちらに寄ってこの総合病院に行ってください。あと、入院する準備もね」

そしてその言葉は、これから、まさかの事実を引き寄せていく序章に過ぎませんでした。


紹介されたのは総合病院の消化器科。
診断は、「アルコール性非代償期肝硬変(肝硬変末期)」。

しかも「アルコール依存症」という、おまけ付き。

倒れない建物を設計してきた人間が、
自分の身体に"崩壊寸前"の判定を受けた瞬間でした。

52歳の誕生日を、病院のベッドで迎えました。

点滴を受け、身動きも取れず、ただ天井を見上げるしかなかったあの時間。
あの白い天井の冷たさを、ボクは一生忘れません。
あのなんとも言えない脱力感・無気力感。

あれから今日までおよそ1200日以上。
ボクは一滴もお酒を飲んでいません。

でも——
だからといって、依存症が「治った」とは思っていません。


今でも飲み会でハイボールを見れば思います。

正直に「いいな」と。
クラフトビールの飲み比べを見れば思います。
正直に「いいな」と。
芋焼酎のお湯わりのあの香りがすれば思います。
正直に「いいな」と。

だからボクは、あれからずっと思っているんです。

「きっとボクは、死ぬまでアルコール依存症」だと。

でもこれは決して諦めではありません。

現実を、そのまま受け入れているだけです。
ではなぜ、そんな人間がこの話を書こうとしているのか。

かつてのボクのように、
がむしゃらに「正解」を求めて走り続け、
気づかないうちに自分を削り続けている人へ。

そして、その隣で支えながら、
どうしていいかわからず苦しんでいるパートナーの方へ。
どうしても伝えたいことがあるからです。

ボクは断言します。

「全壊判定は、終わりじゃない」

ボクは自分の意志の力でやめたわけではありません。
決して強い人間だったわけでもありません。

本当は、やめたかったんです。
体はもう限界でした。
50代に差し掛かる頃から、回復力が明らかに悪くなっていたこと。
どこか意識がおかしいことも、自分が壊れかけていることも、わかっていました。
それでも——やめられませんでした。

それが、アルコール依存症でした。
だからあの医師の一言は、ただの宣告じゃなくて、ボクにとっては「一度止まるためのきっかけ」でした。今振り返れば、あれは「神様がくれた最後の警告」だったのかもしれません。

それでも——終わりじゃない。

やめた先に、もう一つの人生がありました。
むしろ、そこからが当時のボクでは知り得ない、本当のスタートでした。

ボクは医者でもなければ、断酒の専門家でもありません。
この連載で何かを「約束」することも、「答えを渡すこと」もできません。

でも——
ボクがおよそ1200日超をかけて気づいたことはたくさんあります。
飲酒は、問題の「入口」に過ぎなかった。
本当の問題は、もっと深いところに静かに潜んでいた。
そんな話を、これから少しずつ、ボクだからこそできる何か必要なことを、すべて正直に話していきます。

これは、決して輝かしい成功者の話じゃありません。

一度すべてを壊した人間の「再建の記録」です。

例え何度失敗しても、崩壊しても、その「絶望の瓦礫たち」は、必ず「幸せのピース」となって生まれ変わります。

あの日見上げた白い天井の先に、どんな景色が待っていたのか。

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