本記事は小米(シャオミ)創業者の講演内容を基にしています。文章内の「私」は、創業者本人を指しています。
1.1 私たちの夢
今から10年前、私は仲間たちと共に 小米(シャオミ) を創業しました。
当時の中国の携帯電話市場には、大きく分けて三つの勢力が存在していました。一つ目はノキア、モトローラ、サムスンといった国際的な大手企業。二つ目は「中華酷聯」と呼ばれる中興(ZTE)や華為(ファーウェイ)などの中国大手メーカー。そして三つ目は、市場にあふれる無数のコピー品・模倣品(山寨手机) でした。
市場は主に国際的な大手企業によって占められ、製品価格は非常に高額でした。一方で、当時の国産スマホは品質があまり良くなく、魅力的な選択肢とは言えませんでした。
私は生粋のスマホ愛好家であり、同時に起業家でもありました。そんな状況を見て、どうしても納得がいきませんでした。
携帯電話を作った経験はまったくなかったものの、私たちには一つの大きな夢がありました。
「世界最高のスマートフォンを、半分の価格で提供し、誰もが手に入れられるようにする」
しかし、これを実現するのは簡単なことではありません。スマホを作ったこともない外部の人間が、ゼロから創業した小さな中関村(北京のシリコンバレー)企業が、世界最高のスマートフォンを作る―― そんなことが本当にできるのか?
この無謀とも思える目標を達成するために、私はある**「大胆な発想」**を思いつきました。
通常、スマホ業界の巨頭たちは「ハードウェア企業」として成長してきました。しかし、もし私たちが「インターネットの手法」を用いてスマホを作ったらどうなるだろう?
ソフトウェア・ハードウェア・インターネットを一体化させることで、新たな道を切り拓き、“次元の違う競争”を仕掛けることができるはずだ。
そして私は、一つの「近道」を見つけました。
• 当時、最高のハードウェア技術を持っていたのはモトローラ
• 最高のソフトウェアを持っていたのはマイクロソフト
• そして、インターネットの分野で最も優れていたのはGoogle
もしこの三社のトップエンジニアを一つのチームに集めることができたら、スマホ業界の「トライアスロン(鉄人三種競技)」のような最強の布陣が作れるはずだ!
⸻
1.2 人材探し
最初に声をかけたのは林斌でした。当時、彼はGoogle中国研究院の副院長を務めていました。
ちょうどその頃、彼は独立を考えており、オンライン音楽サービスを立ち上げようとしていました。私は彼に言いました。
「そんなことはやめて、もっと大きなことを一緒にやろう!」
そして、ナプキンに「トライアスロン構想」の図を描いて見せました。彼はすぐに興味を持ち、あっという間に小米の2番目の社員となったのです。
しかし、こんなにスムーズに仲間を増やせたのは本当に“偶然”でした。その後、私は立て続けに10人のGoogleエンジニアに声をかけましたが、全員に断られました。 正直、絶望的な気持ちになりました。
そんな中、ついに11人目の挑戦で成功しました。それが洪鋒です。彼はGoogleでも非常に優秀なエンジニアでした。
彼と初めて会ったとき、開口一番で次の3つの質問を投げかけられました。
1. 「あなたは、これまでにスマホを作ったことがありますか?」
➡ 「ありません。」
2. 「中国移動(チャイナモバイル)の社長、王建宙と知り合いですか?」
➡ 「知りません。」
3. 「鴻海(フォックスコン)の創業者、郭台銘とは?」
➡ 「彼のことは知っていますが、彼は私のことを知りません。」
これを聞いて、「ああ、ダメだな…」と思いました。もう完全に諦めモードでしたが、礼儀として少しだけ話を続けることにしました。
すると彼は最後にこう言いました。
「正直、話を聞いた感じでは、成功するとは思えない。でも……試してみる価値はあるかもしれない。」
その瞬間、私は心の中でガッツポーズをしました! ついに2人目のGoogle出身者を仲間に引き入れることに成功したのです。まるで宝くじに当たったような気分でした。
⸻
優秀な人材をどうやって集めるか?
未経験の分野に挑戦する人間に対して、「なぜそんな無謀なことを?」と疑問を持つのは当然です。
しかし、面接というのは一方通行ではありません。
私が優秀な人材を選んでいるのではなく、優秀な人材もまた、私を面接しているのです。
小米を創業した最初の1年間、私は80%の時間を採用活動に費やしました。
中でも特に印象に残っているのは、ある一人の人材です。
彼とは2か月間で10回以上会い、時には1回の面談で10時間以上話し込むこともありました。
起業家や経営者から、「どうやって優秀な人材を見つけるのか?」とよく質問されます。
しかし、多くの人が「人材が見つからない」と嘆く理由はただ一つ。
それは「十分な時間をかけていないから」です!
私が言いたいのは、「人材探しは“三顧の礼”では足りない。“三十顧の礼”を尽くせ!」 ということです。
本気で優秀な人材を求め、十分な時間をかければ、必ず素晴らしいチームを作ることができるのです。