「よく分かる宇宙論の歴史~人類最大のロマンは宇宙の「根源」にある~⑨」

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(3)「宇宙に始まりがある」ことの衝撃:天文学・数学

③「複素数」の概念が「時間・空間」の観念を大きく変えた

「虚数時間」「虚数空間」とは何か~アインシュタイン的「時空」論から「複素数時空」論へ。
 かつてニュートンは時間と空間は絶対的なものであるとしました。物理現象が起きる入れ物と考えたのです。しかし、アインシュタインは相対性理論の中で時空とは入れ物ではなく物理的な対象である、と考えました。具体的には、以前は独立に存在すると考えられていた時間と空間が実際はローレンツ変換によって入り混じることが分かり(「特殊相対性理論」)、これによって物理学の扱う空間は3次元から4次元の時空となり、物理法則も修正を受けたのです。さらに「一般相対性理論」によって、時空は物質の存在によって歪むことが指摘されました。理論物理学的立場からすれば、「時空」は「重力」であり、「事象同士の関係」ということなのです。
 また、現代物理学における最大の焦点の一つとして「時空の量子化」がありますが、不確定性原理によると、短い時間であれば真空からエネルギーを借りることが出来ます。そのエネルギーが十分大きければ、ブラックホールを形成し、時空は穴だらけになってしまいます。この描像を「時空泡」(space-time foam)と呼びます。この穴の大きさは「プランク長」程度、存在時間は「プランク時間」程度になります。このぐらいのスケールでは、一般相対論的効果と量子効果が共に大きくなり、時空の量子化の問題は避けられません。このエネルギーがアインシュタイン方程式の「宇宙項」そのものであると考えられていますが、値を評価すると観測値と120桁ほどずれてしまいます。これは現代宇宙論・素粒子論をとりまく最大の謎の1つなのです。

「プランク時間」~測定することのできる最小の時間で、光子が光速度でプランク長に等しい距離を通過するのに必要な時間です。プランク時間は物理的に何らかの意味のあるものとして計測することのできる最小の時間であり、いわば「時間の量子」です。

「無境界仮説」~ビッグバン宇宙提唱後も,宇宙は収縮と膨張を繰り返してきたのではないかと考えられてきましたが、ホーキングとペンローズが1970年に、「現在の宇宙膨張の事実を認める限りにおいては、宇宙は必ず特異点からはじまらなければならない」という「特異点定理」を数学的に証明し、それによって「宇宙の始まり」が科学によって議論されることになりました。
 量子力学によると、「無」の状態においてもエネルギーは揺らいでおり、そのエネルギーの揺らぎにより、宇宙は創生されたとされます。この時の宇宙の生成は「量子力学的トンネル効果」によって説明されますが、ファインマンの経路積分法によれば、トンネル効果において(今我々が感じている時間を「実数時間」としたならば)時間は虚数になっており、ホーキングはこのことから「無境界仮説」を唱えました。
 これは「時間は宇宙の始まりにおいては虚数であった」とする仮説であり、時間が虚数ならば相対論的には時間と空間の区別がなくなり、それゆえ、時空を閉じたものとして考えることが出来るため、3次元球上の2次元曲面(たとえば地球表面)のように端が無い(すなわち、境界が無い)時空を考えることが出来るというのです。そうすると、地球上において「北極より北」というものを考えることが無意味なように、時空においても「時間が始まる前」というものを考えることが無意味となります。ホーキングはそのような「虚数時間」こそが「真の時間」だと言い、こうしてホーキングは自ら証明した特異点定理をうまく避けるようにして時間の始まりを議論することに成功したのです。

【参考文献】
『よくわかる宇宙論 ニュートンの無限宇宙からホーキングの最新理論まで』(金子隆一、日本文芸社)
『相対論的宇宙論 ブラックホール・宇宙・超宇宙』(佐藤文隆・松田卓也、講談社BLUE BACKS)
『「量子論」を楽しむ本 ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる!』(佐藤勝彦監修、PHP文庫)
『ノーベル賞で語る20世紀物理学 極微の世界から宇宙まで』(小山慶太、講談社BLUE BACKS)
『光で語る現代物理学 光速Cの謎を追う』(小山慶太、講談社BLUE BACKS)
『超光速粒子タキオン 未来を見る粒子を求めて』(本間三郎、講談社BLUE BACKS)
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