【C.H.Sisson英訳】
Then he moved forward, and I kept behind him.
【Mark Musa英訳】
Then he moved on, and I moved close behind him.
【野上素一和訳】
そこで彼は歩きはじめ、私はそのあとに従った。
【平川祐弘和訳】
すると彼は歩きだした、そして私は彼の後に従った。
【語句】
move forward=前進する。
move on=どんどん進む。
close=~に接して、すぐそばに、ぴったりと。
【解説】
いよいよ「地獄」から始まる霊界旅行の出発です。ちなみに「地獄」の構造は次のようになっています。
地獄の門:「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」
地獄前域:無為に生きて善も悪もなさなかった亡者は天国にも地獄にも入ることが許されず、ここで蜂や虻に刺されます。
アケローン川:冥府の渡し守カロンが亡者を櫂で追いやり、舟に乗せて地獄へと連行していきます。
第1圏:「辺獄」(リンボ)。洗礼を受けなかった者が、呵責こそないが希望もないまま、永遠に時を過ごします。
地獄の入口:冥府の裁判官ミーノスが死者の行くべき地獄を割り当てています。
第2圏:愛欲者の地獄。肉欲に溺れた者が荒れ狂う暴風に吹き流されます。
第3圏:貪食者の地獄。大食の罪を犯した者がケルベロスに引き裂かれて、泥濘にのたうち回ります。
第4圏:貪欲者の地獄。吝嗇と浪費の悪徳を積んだ者が重い金貨の袋を転がしつつ、互いに罵ります。
第5圏:憤怒者の地獄。怒りに我を忘れた者が血の色をした「スティージュの沼」で互いに責め苛みます。
ディーテの市:堕落した天使と重罪人が容れられる、永劫の炎に赤熱した城塞。ここより下の地獄圏はこの内部にあります。
第6圏:異端者の地獄。あらゆる宗派の異端の教主と門徒が火焔の墓孔に葬られています。
第7圏:暴力者の地獄。他者に対して暴力をふるった者が暴力の種類に応じて振り分けられます。
第1の環:隣人に対する暴力。隣人の身体・財産を損なった者が、煮えたぎる血の河に漬けられます。
第2の環:自己に対する暴力。自殺者の森。自ら命を絶った者が奇怪な樹木と化し、葉を啄ばまれます。
第3の環:神と自然と技術に対する暴力。神および自然の業を蔑んだ者、男色者に火の雨が降りかかります。
第8圏:悪意者の地獄。悪意を以て罪を犯した者がそれぞれ十の「マーレボルジェ」(悪の嚢)に振り分けられます。
第1の嚢:女衒(ぜげん)。婦女を誘拐して売った者が、角ある悪鬼から鞭打たれます。
第2の嚢:阿諛(あゆ)者。阿諛追従(あゆついしょう)の過ぎた者が糞尿の海に漬けられます。
第3の嚢:沽聖(こせい)者。聖物や聖職を売買し、神聖を金で汚した者が岩孔に入れられて焔に包まれます。
第4の嚢:魔術師。卜占や邪法による呪術を行った者が首を反対向きにねじ曲げられて、背中に涙を流します。
第5の嚢:汚職者。職権を悪用して利益を得た汚吏が煮えたぎる瀝青に漬けられ、鉤手で責められます。
第6の嚢:偽善者。偽善をなした者が外面だけ美しい金張りの鉛の外套に身を包み、ひたすら歩きます。
第7の嚢:盗賊。盗みを働いた者が蛇に噛まれて燃え上がり、灰となるが、再び元の姿に返ります。
第8の嚢:謀略者。権謀術数をもって他者を欺いた者が我が身を火焔に包まれて苦悶します。
第9の嚢:離間者。不和・分裂の種を蒔いた者が体を裂き切られます。
第10の嚢:詐欺師。錬金術など様々な偽造や虚偽を行った者が悪疫にかかって苦しみます。
最下層の地獄:かつて神に歯向かった巨人が鎖で大穴に封じられています。
第9圏:裏切り者の地獄。「コキュートス」(Cocytus、嘆きの川)と呼ばれる氷地獄。同心の4円に区切られ、最も重い罪、裏切りを行った者が永遠に氷漬けとなっています。裏切り者は首まで氷に漬かり、涙も凍る寒さに歯を鳴らします。
第1の円:カイーナ(Caina)。肉親に対する裏切り者。旧約聖書の『創世記』で弟アベルを殺したカインに由来します。
第2の円:アンテノーラ(Antenora)。祖国に対する裏切り者。トロイア戦争でトロイアを裏切ったとされるアンテノールに由来します。
第3の円:トロメーア(Ptolomea)。客人に対する裏切り者。旧約聖書外典『マカバイ記』に登場する裏切り者トロメオに由来するようです。
第4の円:ジュデッカ(Judecca)。主人に対する裏切り者。イエス・キリストを裏切ったイスカリオテのユダに由来します。
地獄の中心ジュデッカのさらに中心:地球の重力が全て向かう所。神に叛逆した堕天使のなれの果てである魔王ルチフェロ(サタン)が氷の中に永遠に幽閉されています。魔王はかつて光輝はなはだしく、最も美しい天使でしたが、今は醜悪な3面の顔を持った姿となり、半身を「コキュートス」の氷の中に埋めていました。魔王はイエス・キリストを裏切ったイスカリオテのユダ、カエサルを裏切ったブルートゥス、カッシウスの3人をそれぞれの口で噛みしめています。2人の詩人は、魔王の体を足台としてそのまま真っ直ぐに反対側の地表に向けて登り、岩穴を抜けて地球の裏側に達するのですが、そこは「煉獄山」の麓でした。