【C.H.Sisson英訳】
Many are the animals she makes herself a wife to,
And there will be more of them, until the Greyhound
Comes, who will make her die a painful death.
【Mark Musa英訳】
She mates with many creatures, and will go on
mating with more until the greyhound comes
and tracks her down to make her die in anguish.
【野上素一和訳】
その獣は多くの獣と交尾して種族をふやし
ついにはヴェルトロが現われてそれを苦しめて
殺してしまうまで繁殖をつづけるだろう。
【平川祐弘和訳】
あいつがつるむ獣の数は多いから、
将来はもっとふえるだろうが、結局は猟犬(ヴェルトロ)が現われて
あいつをなぶり殺すだろう、
【語句】
greyhound=グレーハウンド(快足の猟犬)。
die=(同族目的語のdeathが修飾語を伴って)~の死に方をする。
painful=痛い、苦しい、つらい。
mate with=(鳥・動物が)~とつがう、交尾する。
creature=生き物、(特に)動物。
go on doing=~し続ける。
track A down=Aを(痕跡・証拠などをたどって)突き止める、探知する。
make=無理やりさせる。
let=少々特別にさせてあげる、することを許す、することをゆずる。
have=当然してもらう。makeとhaveの中間で、「やってもらうのは当然」という事情を示します。
get~to=少々特別にしてもらう、納得させて何かをしてもらう。
in anguish=苦悶して。
ヴェルトロ=ダンテが使用した謎の言葉の1つです。通常の意味は「猟犬」ですが、注釈者達はそれがキリスト、教皇、皇帝、ルクセンブルク王アリーゴ七世、カングランデなどを暗示すると考えてきました。次に出て来る「金銭(ベルトロ)」「フェルトロ」と掛けているものと思われます。
【解説】
ミルトンの『失楽園』には、「サタン」が天使の3分の1を率いて神に叛逆した時、その頭から女神たる「罪」が生まれ、「サタン」は自らの子でもある「罪」と交わって、さらに「死」を生んだという凄まじい描写が出て来ます。そして、「死」は自らの母たる「罪」を凌辱し、一群の「地獄の猟犬」と呼ばれる怪物を生んだというのです。「罪」は上半身こそ美しい女体ですが、下半身は醜い蛇の姿であり、「地獄の猟犬」どもはその母の腹部の周りで吠え喚き、何かあれば母の胎内に潜り込んで、そこを臥所とするのです。「罪」と「死」の2人は地獄の門の両脇に座っていますが、「罪」によって地獄の門が開かれ、「サタン」はそこへ入って行きます。いずれにしても「悪」が「罪」を生み、「罪」が「死」を生み、「地獄」の門を開くといったように、次々と「繁殖」していく様がよく分かり、これを断ち切るのが「神の子」「救い主」「キリスト」だというのです。