ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第32連句

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【C.H.Sisson英訳】
For that beast, which has made you so call out,
Does not allow others to pass her way,
But holds them up, and in the end destroys them;
【Mark Musa英訳】
this beast, the one you cry about in fear,
 allows no soul to succeed along her path,
 she blocks his way and puts an end to him.
【野上素一和訳】
というのは、君に思わず叫び声をたてさせた
あの獣は他人がその道を通るのを許さず、
それを妨げて殺してしまうからだ。
【平川祐弘和訳】
「おまえが恐がって泣きわめいているあの獣は
 よそ者が自分の道を通るのを放っておきはすまい、
 必ずやこっぴどくいじめて挙句に喰い殺すだろう。

【語句】
call out=大声で叫ぶ、(人に)~を求めて叫ぶ。
hold up=~の進行をさえぎる、遅らす、~を妨げる、~を引き止める。
in the end=ついに、とうとう、結局は。
destroy=破壊する、築き上げたものを破壊してだめにする意の最も一般的な語。(敵などを)滅ぼす、全滅させる。
 ruin=修復が不可能なほどに破壊する。
 wreck=乱暴で手荒い手段によって壊す。
succeed=続く、成功する、うまくいく。
path=人や動物が歩いて出来た小道、細道。
block=道路などをふさぐ、(進路・行動などを)妨げる。
put an end to=make an end of (to, with)、~を終わらせる、除く、廃止する、(動物などを)殺す。

【解説】
 「自己との戦い」「自己省察」という点では、ペトラルカの証言が意義深いでしょう。彼は右手にリヨンの山々、左手にマルセイユの海、眼下にローヌ川の流れが見える景勝の地で宿願の山に登っていますが、にわかにアウグスティヌスの『告白』を読んでみたくなり、そこでまず目を留めた所に「人々は外に出て、山の高い頂、海の巨大な波浪、河川の広大な流れ、広漠たる海原、星辰の運行などに讃嘆し、自己自身のことはなおざりにしている」(『告白』第10巻8章)と書かれていて、愕然としました。さらにふり返って見れば、アウグスティヌスもパウロの「ローマ人への手紙」を読んでいて、「酒宴と酩酊、淫乱と好色、争いと妬みとを捨てよ。主イエス・キリストを着よ。肉欲を満たすことに心を向けるな」(「ローマ人への手紙」第13章)という言葉が目に入り、劇的な回心に導かれたという事実も想起されたようです。彼は登山にいそしんでいた自分が愚かに思え、「体を少しばかり天に近づけるためにすら、これほどの汗と労苦を引き受けることを厭わなかったとすれば、増長せる傲慢の頂を踏みつけ、死すべき人間の運命を見下して、神に近づこうとする魂にとっては、如何なる十字架や牢獄も拷問も恐れるに足ろうか」と考えたのです。さらに「苦難を恐れ、逸楽を望んで、この狭い道から離脱していくことのないような人が一体どれだけいるだろう。もしどこかにいるとすれば、まことに幸福な人だ」として、ウェルギリウスもこうした人のことを念頭に置いて、「幸いなるかな、万象の究極を見極めることを得て/あらゆる恐怖 非常な運命 貪婪な冥府の河の阿鼻叫喚を/己の足下に踏み敷いた人!」(『農事詩集』)と歌ったのだとしています。そして、「おお、我々が懸命に努力すべきは、地上の高所を足下にすることではなく、地上的なものにかきたてられて膨れ上がった欲望をこそ足下に踏みつけることではないのか!」と考え、即座に山を下りるのです。
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