【C.H.Sisson英訳】
‘You will have to go another way than this,’
He answered, when he saw that I was weeping,
‘If you want to get away from this wild place:
【Mark Musa英訳】
“But you must journey down another road,”
he answered, when he saw me lost in tears,
“if ever you hope to leave this wilderness;
【野上素一和訳】
「きみは別の道をとらねばいけないね」
私が涙ぐむのを見て彼は答えた、「もしきみが
この恐ろしい場所からのがれようと思うなら。
【平川祐弘和訳】
「この荒地から脱けだしたいのなら
別の道を行く方がおまえにはいいらしいな」
と私の泣き顔を見て先生が答えた。
【語句】
than=(other, otherwise, else, anotherなどの後で)~より他の(に)、~以外に。
weep=涙を流す、泣く。「声をあげずに泣く」で、特に涙を流すと示す文語的な語です。
cry=声をあげて泣く。
sob=声をつまらせたり、しゃくりあげたりしてすすり泣く。
get away=~から立ち去る、離れる。
wild=(土地など)荒れ果てた、人の住まない。
lost=道に迷った、当惑した、放心したような。
in tears=涙を浮かべて、泣きぬれて。
if ever=もし~だとしたら、~だとしても。
wilderness=荒れ地、荒れ野。
a voice (crying) in the wilderness=荒れ野で呼ばわる者の声、世に入れられない改革者の叫び(聖書「マタイ伝」より)。
別の道=「丘」へ直接自力で行くのではなく、地獄を一度見てから、すなわち「別の道」を通って行くことをウェルギリウスが勧め、彼が自らその案内を引き受けるわけです。
【解説】
「丘」といった場合、キリスト教徒にまず浮かび上がるイメージはやはり「ゴルゴタの丘」(「ゴルゴタ」はしゃれこうべの意、日本語では「ゴルゴダ」で広まっています)でしょう。その丘には3本の十字架が立ち、真ん中にイエス・キリスト、左右には強盗が磔刑に遭った場所です。イエス・キリストは十字架上で敵を愛し、迫害する者のために祈って、息を引き取ります。パウロ以来の「十字架贖罪論」では「全ての人類の罪を背負って十字架についた」ということになります。そして、3日間、地獄へ行って旧約時代以来の聖徒達を解放すると、「復活」して天上に上り、さらに「聖霊」による「ペンテコステ」(聖霊降誕)が起きて「キリスト教」が出発するのです。
これに対して、ダンテは「暗闇の森」から「丘」を仰ぎ見て希望を感じましたが、「豹」「獅子」「牝狼」の3匹の獣に道を遮られて絶望にかられるも、ローマ第一の詩人ウェルギリウスという導き手、さらには「理想的女性」を象徴するベアトリーチェを得て、地獄から煉獄、天国へと至る旅に誘われるのです。これは「十字架のイエス」に対する「信仰」によって天上へ行く道(ペテロやパウロら使徒達が行った「殉教の道」に他なりません)から、「理性」による助けを得ながら天上へ行く道(中世スコラ神学の最大のテーマは「信仰」と「理性」の調和にありました)への転換を意味していることになるでしょう。