ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第22連句

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【C.H.Sisson英訳】
When I saw that fellow in the great desert,
I cried out to him: ‘Have pity on me,
Whatever you are, shadow or definite man.’
【Mark Musa英訳】
And when I saw him standing in this wasteland,
 “Have pity on my soul,” I cried to him,
 “Whichever you are, shade or living man!”
【野上素一和訳】
私がその者をひろい人気のない場所にみつけると
大声で叫んだ、「私に憐れみをかけてください
あなたは影か真実の人間かどちらですか」
【平川祐弘和訳】
この人気のない場所でこの人を見かけた私は
 大声で叫んだ、「お助けください、
 人であれ影であれ、この私をお助けください」

【語句】
fellow=(漠然と)人。
 A fellow must eat.(人は食わねばならない。)
pity=哀れみ、同情(on, for)。自分より劣っていたり、弱い立場にある人に対する哀れみの気持ちを表わすことが多いです。
 have pity on=~を気の毒がる。
 Pity is akin to love.(かわいそうだと思う心は愛情に近い。)
 sympathy=相手の悲しみ・苦しみを理解し、共に悲しんだり、苦しんだりする気持ちを表わします。
 compassion=通例、積極的に相手を助けようとする気持ちを含みます。
shadow=光がさえぎられて出来る輪郭のはっきりした影、亡霊。
 shade=光・日光が物体にさえぎられて出来る、暗い陰、日陰。亡霊(文語)。
definite=明確な、確定的な。
wasteland=荒地、不毛の地。
soul=(肉体に対し)魂、霊魂、霊。spiritよりも宗教的意味合いが強く、不死・良心・美徳・理性などの象徴(⇔body, flesh)。魂が宿る心(知性・理性の宿る心はmind、喜怒哀楽などの感情が宿る心はheart)。

【解説】
 ウェルギリウスがいる「辺獄」には、ギリシア・ローマ・アラビアの偉人が多数いるとされます。例えば、トロイアの建設者ダルダノスの母エレクトラ、トロイア王の長子ヘクトル、ローマの将軍ユリウス・カエサル、アマゾン王パンタシレア、アエネイスの妻ラヴィーナ、イスラームの王サラディン、ギリシアの哲学者ソクラテス、プラトン、アリストテレス、原子論を説いたデモクリトス、ディオゲネス、アナクサゴラス、タレス、エンペドクレス、ヘラクレイトス、ストア哲学の祖ゼノン、薬草の研究で有名なディオスクリデス、詩人兼音楽師のオルフェウス、ローマの雄弁家キケロ、詩人兼音楽師リノス、ローマの哲学者セネカ、幾何学者ユークリッド、アレクサンドリアの天文学者プトレマイオス、ギリシアの名医ヒポクラテス、ガノレスなど、そうそうたる顔ぶれが揃っています。
 ちなみにプラトンは「イデア」の世界を本質とし、現実世界はその「影」のようなものだとしましたが、アリストテレスは感覚的世界を真の実在とし、「形相」(エイドス。イデアに相当)を感覚的世界に内在する不変の構成原理としました。これに対して、『神曲』では「霊界」(本質世界)にいる「魂」を生きて肉体を持っている人間と比較して、「影」のようなものだとしているのです。
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