ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第21連句

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学び
【C.H.Sisson英訳】
While I rushed headlong to the lower slopes,
Before my eyes a man offered himself,
One who, for long silence, seemed to be hoarse.
【Mark Musa英訳】
While I was rushing down to that low place,
 my eyes made out a figure coming toward me
 of one grown faint, perhaps from too much silence.
【野上素一和訳】
私がまさに低い場所へ落ちこもうとしたとき、
長い沈黙のために声が細くなっていると
思われる者が、目の前に姿を現わした。
【平川祐弘和訳】
私が谷底に逃げる途中、
 目の前に一人の人が現われた、
 長いこと口を利いたことがないらしく声がかすれている。

【語句】
headlong=まっさかさまに。
offer oneself=(チャンスなどが)現われる、生じる、起こる。
hoarse=声がかすれた、かれた(風邪などでのどの表面がざらざらするためにしゃがれ声になる)。
 gruff=(しばしば不機嫌で)声がしわがれた、どら声の。
make out=~をようやく見分ける(判読する、聞き分ける)。
figure=姿、容姿、風采、外観。
grown=自動詞の過去分詞が名詞の後に置かれて修飾しています。この場合、a fallen leave(落ち葉)のように「完了的な意味」を表わします。これに対して、他動詞の過去分詞は「受動的な意味」を表わします。
faint=活気(勇気)の無い、気の弱い。
 Faint heart never won fair lady.(弱気が美人を得たためしが無い。)
低い場所=「暗闇の森」のこと。「倫理的に低い所」という意味も持っています。
長い沈黙=ダンテは、ヴィルジリオ(ウェルギリウス)が「辺獄」(リンボ)で長い間、沈黙して暮らしていたと想像しました。「辺獄」とは「地獄」の第1圏で、洗礼を受けなかった者が、呵責こそ無いものの、希望も無いまま永遠の時を過ごす場所として描かれています。

【解説】
 ウェルギリウスはキリスト以前に生まれたため、キリスト教の恩寵を受けることがなく、ホメロスら古代の大詩人と共に、未洗礼者が置かれる「辺獄」にいたのですが、「地獄」に迷い込んだダンテの身を案じたベアトリ-チェの頼みにより、ダンテの先導者としての役目を引き受けて「辺獄」を出たのです。
 ちなみにダンテが『神曲』を執筆していて、最も気がかりなことが2つあり、1つはイスラーム教徒でありながら、優れたアリストテレス学者であったアヴェロエスやアヴィケンナを「辺獄」に住まわせていいかどうかということと、聖トマスの論敵でパリ大学の教授ブラバンテを「天国」の第4天(太陽天)に聖トマスの霊魂と共に住まわせていいかどうかということでした。前者についてはそれほど心配ではなかったとされますが、後者の悩みは深刻で、これに対してはラヴェンナの大司教が、これらの人々をそれぞれ「辺獄」や「天国」に置いても大丈夫だと太鼓判を教えてくれたので、安心して先を書き続けたようです。ラヴェンナの大司教の権威は非常に重く、その決定に対してはヴァチカンも口をはさむことを控えるほどでした。ダンテは問題になりそうな点をいちいちこの大司教に相談していたのです。
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