【C.H.Sisson英訳】
And, like a man whose mind is on his winnings,
When the time comes for him to lose,
And all his thoughts turn into sorrow and tears;
【Mark Musa英訳】
As a man who, rejoicing in his gains,
suddenly seeing his gain turn into loss,
will grieve as he compares his then and now,
【野上素一和訳】
望んでいたものを手に入れた貪欲者が
得たものを失う時になると、思いのすべてを
こめて悲しむものだが、
【平川祐弘和訳】
望みの品を手に入れた者が
時が経ちその品を手放さざるを得なくなると
愛惜の念に胸が裂け涙して悲しむが、
【語句】
winning=獲得物。
thought=(理性に訴えて心に浮かんだ)考え、思いつき。
idea=(心に描く)考え。
notion=ideaと同じ意味に使われることも多いが、漠然とした、または不明確な意図・考えを意味することもあります。
tears=涙。
rejoice=~を喜ぶ、うれしがる、祝賀する。
gains=収益(金)、利益、報酬、得点。
No gains without pains.(骨折りなければ利益なし。)
turn into=~に変じる、転化する。
grieve=深く悲しむ。be sorryやbe sadよりも文語的で、意味が強いです。
compare=(類似・相似を示し、相対的価値を知るために)2つを比較する。
contrast=2者の違いを明確にするために対比・対照する。
【解説】
12世紀になると、世界各地の説話の中に「彼岸の世界旅行」という幻想文学が現れますが、主要なものとして『聖パトリツィオの井戸』『トゥンダロの幻想録』『聖ブランダーノ』といったアイルランド系の作品(当時、イタリアの港に寄港したアイルランドの船員からもたらされたものと見られます)から、『バビロニアの地獄』や『天のエルサレム』(ジャコモ・ダ・ヴェローナ)といった作品が挙げられ、ダンテはこれらを全て読んでいたとは限りませんが、キリスト教的な説話は教会を通して民間に伝わっていたので、内容は熟知していたのではないかと見られています。また、アラビア文学の中の彼岸の世界旅行記もダンテに影響を与えたとされ、例えば、ムハンマドの昇天、ペルシアのアルダ・ヴィアラフの昇天物語、イブン・アラビの『フトゥハト』(ここに出て来る地獄界や天国界の建物の描写は『神曲』のそれらに酷似していることで知られています)などが挙げられています。
ちなみに、『神曲』の中でダンテ自らが彼岸の世界旅行を行なったのは1300年4月4日から14日、または3月25日から31日までの6日間であり、『神曲』を書くきっかけとなったのもダンテの夢にベアトリーチェが出てきたことで、ダンテは奇しき幻影から我に返った時、今まで如何なる男も見たことないような、この素晴らしい淑女を主題とする大きな文学作品を書くことを決心したとされ、それを人にも告げているのです。