ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第15連句

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【C.H.Sisson英訳】
Of that wild animal with the brilliant skin;
But not so that I found myself without fear
When a lion appeared before me, as it did.
【Mark Musa英訳】
that gaudy beast, wild in its spotted pelt,
 but then good hope gave way and fear returned
 when the figure of a lion loomed up before me,
【野上素一和訳】
目もあやな毛皮をまとった獣が現われたとて
希望をすてなかったのは自然なことだった、
だが恐怖を感じなかったのも一匹の獅子が
出現するまでのことであった。
【平川祐弘和訳】
恐れる道理はないといっているかに思われた。
 だが、ほっとしたのも束の間、今度は一頭の獅子が
 目の前に現われた。

【語句】
brilliant=(宝石・日光など)光り輝く、さんさんと輝く、目もあやな。
gaudy=(服装・装飾など)下品なほどけばけばしい、派手で俗っぽい。
give way=崩れる、折れる、破れる、落ちる。
figure=形、姿。内部構造と外形との両方を表わします。
 outline=線や輪郭によって表わされた外形。
 form=中身や色と区別した物の外形・形。
 shape=figureと同様に外形を表わすが、内部がつまっているという意味合いを強く表わします。
loom=ぼんやりと現われる、ぼうっと見える。(危険・心配などが)気味悪く迫る。
獅子=「傲慢」の象徴と考えられてきました。「権勢欲・名誉欲」などもこれに入れてよいでしょう。

【解説】
 1匹目の「豹」に続いて、2匹目の「獅子」が登場する場面です。さらに後には3匹目の「牝狼」が出て来て、これが1番手強いと見られているのですが、Sission訳では「豹」をit(中性名詞)、「獅子」をhe(男性名詞)、「牝狼」をshe(女性名詞)として受けている所がおもしろいですね。この3匹の獣は「人間の三大欲望」(物欲・食欲、権勢欲・名誉欲、肉欲・情欲)を象徴していると思われ、これらを克服・コントロールしない限り、地獄へと引っ張られていくということなのでしょう。
 ちなみに中国の「四大奇書」の1つに数えられる『西遊記』も、道教においては聖典の1つに挙げられるのですが、三蔵法師が「西天取経」の旅に出る時、孫悟空・猪八戒(観音菩薩は猪悟能と名づけています)・沙悟浄の3人の弟子を連れていたことが想起されます。なぜなら、それぞれ名前が「悟空」「悟能」「悟浄」となっていて、「空を悟る」「能を悟る」「浄を悟る」ことを意味しており(知・意・情に対応していると思われます)、これらを経ずには「西天取経」は果たせないということなのでしょう。
 ところで、キリスト教神学には「7つの大罪」(罪源)という概念があり、4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作に初めて8つの「枢要罪」(暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、高慢)が現われたのが起源です。6世紀後半にはグレゴリウス1世により8つから現在の7つに改正され、「虚飾」は「傲慢」に含まれ、「怠惰」と「憂鬱」は1つの大罪となり、「嫉妬」が追加されました。13世紀のトマス・アクィナスも著作の中で、キリスト教徒の7つの「枢要徳」と対比する形で7つの「枢要罪」を挙げています。煉獄篇第9歌でも、天使が「7つの大罪」を意味する7つのPの字をダンテの額に刻み、これらが清められてから天国界へ上ることとなっています。
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