ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第13連句

記事
学び
【C.H.Sisson英訳】
The time was the beginning of the morning;
And the sun was climbing in company with those stars
Which were with him when the divine love
【Mark Musa英訳】
The hour was early in the morning then,
 the sun was climbing up with those same stars
 that had accompanied it on the world’s first day,
【野上素一和訳】
時刻はまだ早朝だったので
太陽はあの聖なる愛がはじめて
【平川祐弘和訳】
時は折しも朝明けの時刻で
 太陽は星々をしたがえて昇ってきた、
 神の愛がはじめて天地の美しい事物を動かした時にも

【語句】
in company (with a person)=(人と)一緒に。
divine=神の、神性の。
 The Divine Comedy=「神曲」。
 human=人の、人間の。ちなみにダンテの同時代人にして、ダンテに深く傾倒し、最初の崇拝者となったボッカッチョは『デカメロン』(十日物語)を書きましたが、これは『神曲』に対して、『人曲』と呼ばれています。
accompany=(人が別の人に)同行する、ついていく。(事物が~に、同時に)伴う。
太陽=天地創造の時、太陽は白羊宮と共に春に創られたと考えられていました。
美しい事物=被造物。ここでは天体を指します。

【解説】
 ボッカッチョによれば、ダンテは最初『神曲』をラテン語で書くつもりであり、その冒頭の言葉は「ウルティマ・レグナ・カナム・フルイド・コンテルミナ・ムンド」(この浮世に隣する遠い国のことを私は歌おう)となるはずでした。ダンテが交際していたラテン文学者ジョヴァンニは、『神曲』の最初の2歌を読んで絶賛しましたが、それが「俗語」(イタリア語を指す)ではなく、ラテン語で書かれていたならば完全であろう」と言い、「第3歌以下は是非ともラテン語で書いてほしい」という意味を盛り込んだ6行詩をラテン語で書いて、ダンテに捧げています。彼によれば、「イタリア語で『神曲』を書くことは、ダンテの天才という宝石を、それを理解出来ない、無知の大衆の前に投げ出すのに等しい」というのです。もしもダンテが『神曲』をラテン語で書いていたら、ボローニャ大学は少し前にチーノ・ダ・ビストイアに贈ったのと同じ「名誉博士」の称号をダンテに贈ったのではないかと見られています。ちなみに『神曲』地獄篇と同時期(1304~1308年)にダンテが書いた『俗語論』(これはイタリアの言語と文学に関する最初の科学的論文です)によれば、ラテン語が優位を占めていた当時、すでにそれがやがて「俗語」に取って代わられるだろうと予言しています。その理由として、「俗語」は民衆によって語られている生きた言語であることを挙げていますが、ここで言う「俗語」(ヴォルガーレ)とは特別の意味を持っており、それはラテン語から派生した「イタリア語」、「北部フランス語」、「南部フランス語」または「プロヴァンス語」を指しています。ダンテの関心はその中でもイタリア語に集中していて、各地で語られている14のイタリア語を1つ1つ観察して、批判を下しているのです。
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