【C.H.Sisson英訳】
So my mind, which still felt as if it was in flight,
Turned back to take another look at the defile
No living person had ever passed before.
【Mark Musa英訳】
So I, although my mind was turned to flee,
turned round to gaze once more upon the pass
that never let a living soul escape.
【野上素一和訳】
まだ逃走を願っている私の心は
生きたままでは何人をも通さない
あの森のほうをふり返ってみていた。
【平川祐弘和訳】
私の魂も、まだまだ逃げのびようとしていたが、
後ろを振り向いて過ぎこし方を見つめた、
そこからかつて生きて出られたためしのない森を見つめた。
【語句】
mind=身体と区別して、思考・意志などの働きをする心。
heart=感情・情緒を意味する心。
feeling=(喜怒哀楽などの様々な)感情、気持ち。主観的な感覚や感情を表わす最も一般的な語。
emotion=怒り・愛・憎しみなどを強く表わす感情。(理性・意志に対しての)感情。
sentiment=理性的な思考に基づく感情。religious sentiment「宗教心」、patriotic sentiment「愛国心」
passion=理性的判断を圧倒してしまうような強烈な感情。熱情、激情、欲情。
fervor=熱い、燃えるような(永続的な)感情。熱烈、熱情。
enthusiasm=ある主義・行動・提案などに対する情熱。熱中、熱狂。
will=意志。
spirit=(肉体・物質に対して人間の霊的な)心。
soul=霊魂、魂、死者の霊、精神、心、(知性と区別して)情、感情。
flight=flee(逃げる、逃走する)の名詞形。逃走、敗走、脱出。
defile=(山間[やまあい]などの)隘路(あいろ)。
turn=(人を~に)専念(専心)させる。
turn round=振り向く。
gaze=(熱心にじっと)見つめる、熟視する(at, into, on, upon)。驚き・称賛などの気持ちを込めて、じっと見続ける。
look=ものを注意して見るという自発的行為を表わしますが、静止しているものについて用いるのが普通です。
watch=ものを注意して見るという自発的行為を表わしますが、静止していない、動いているものについて用いるのが普通です。
see=単にものが見えるということ。
stare=驚き・称賛・恐怖などの気持ちで、特に目を大きく見開いて熱心に見る。
glance=ものをちらりと見る。
glimpse=ちらりと見えること。
pass=狭い通路、(特に)山道、峠。
let=相手の意志通りにすることを許す。
【解説】
ダンテの生きていた中世ヨーロッパにおいて、「森」には恐怖のイメージがつきまとっていましたが、「12世紀のルネッサンス」やキリスト教的使命感に基づく12~13世紀の大開墾時代以降、イメージの転換が起こりつつあったことは注目されます。ダンテは13~14世紀の人間なので、この転換点の只中にいたと考えられます
「すでに古代ギリシア・ローマ神話において、鬱蒼たる森は死者の国への入口であると考えられていた。」(ウラジミール・プロップ『魔法昔話の起原』)
「森はしたがって、見える国境というより、緑の海であった。ひとつづきの村や畑、未耕地、そして町は、森の海に囲まれた島であり、島国であった。…
「海」は深く、果てしなく、怖しいところであった。村人たちは「沿岸」で薪とりや豚の放牧をしていたにすぎない。深みにはまると、飢え死にや狼に食われる大きな危険と恐怖が待ちうけていたからであった。」(木村尚三郎、堀越孝一、渡辺昌美『生活の世界歴史〈6〉中世の森の中で』)
「つまり修道士にとっては、土地の開拓=浄化は、悪魔から土地をとり返すことを意味していたのだ。西欧修道制の祖ヌルシアのベネディクトゥス(480頃~547頃)の時代より、森を切り開き耕地に変える、という行為は、異教に染まった住民の偶像崇拝をやめさせ、彼らの神殿を破壊することで偽りの神々を打倒し、その力を弱めることも目途としていたのである。」(池上俊一『森と川-歴史を潤す自然の恵み-』)