【C.H.Sisson英訳】
I cannot tell exactly how I got there,
I was so full of sleep at the point of my journey
When, somehow, I left the proper way.
【Mark Musa英訳】
How I entered there I cannot truly say,
I had become so sleepy at the moment
when I first strayed, leaving the path of truth;
【野上素一和訳】
いかにしてそこへ迷いこんだかうまくいえないが、
ただ、正しい道を捨てたその頃の私が
深い眠りにおちいっていたことは確かである。
【平川祐弘和訳】
どうしてそこにはいりこんだかうまくいえない。
当時私はただもう夢中だったから
それで正道を捨てたのだ。
【語句】
somehow=どういうわけか、なぜか。
proper=適切な、ふさわしい、ちゃんとした。
stray=(一時的に)正道から踏み出る。
a stray sheep=迷える羊。
path=(人に踏まれて出来た)小道、(人の歩くべき)道、(文明・思想・行動などの)方向、進路、方針。
lane=生垣・家などにはさまれた小道。
footpath=人が歩くための小道。
alley=建物の間の狭い道。
the path of civilization=文明の進む道。
a path to success=成功への道。
深い眠り=「霊魂の眠り」は中世では罪の証拠と考えられていました。道を踏み外したのも魂が眠っていたからということです。
【解説】
「ダンテの思想は二面性を有し、その中にはつねに相対立する思想が共存している。例えば、ダンテには東洋の叡智とギリシアのロゴスとキリスト教の聖愛(カリタス)とローマの政治学(キウイリタス)がある。彼はアリストテレスを尊敬し、聖トマスに師事したが、アラビア人やユダヤ人の知識を利用することを恐れなかった。彼は旧・新約聖書を糧としたが、回教的伝統さえも採用することを恥じなかった。
彼はその神学的構造の系列から見れば聖トマスの学徒だが、同時にアウグスティヌス、聖ベルナルド(ベルナール)、聖ボナヴェントゥラ、神秘主義者聖ヴィクトール、黙示主義者ジョアキーノ・ダ・フィオレ、の影響を強く受けている。ダンテは心情的にはアウグスティヌス主義者であり、頭脳的にはアリストテレス、聖トマス主義者である。そして、彼の詩は時には一方に、また時には他方に傾いている。彼は合理主義者と呼ばれるには、余りにも救世主義や神秘主義を持ちすぎており、純粋の瞑想主義者と呼ぶには、余りにも主知主義と公民意識が強すぎる。・・・
この偉大な『影』が、自己の作品を如何に審判するにしても、『死に至る道』に過ぎない生命を今辿りつつある我々は、それがなお我々に対して有する意味を知っている。それはヤコブの夜の幻を再び新たにしようとする、大胆で巧みな企画の一つである。『神曲』は人間の業(わざ)であるが、野獣の棲む原と焔の花咲く園との間に懸る梯子である。我々キリスト者は、そして我々詩人は、ダンテを想って心中感謝の愛に満たされざるを得ない。」(ジョヴァンニ・パピーニ)