【C.H.Sisson英訳】
So bitter it is, death itself is hardly more so;
Yet there was good there, and to make it clear
I will speak of other things that I perceived.
【Mark Musa英訳】
a bitter place! Death could scarce be bitterer.
But if I would show the good that came of it
I must talk about things other than good.
【野上素一和訳】
その森の難渋なことはほとんど死にも近い。
だが私は彼地で享けた幸運を述べるため、
そこで見た他のことをも話すことにしよう。
【平川祐弘和訳】
その苦しさにもう死なんばかりであった。
しかしそこでめぐりあった幸せを語るためには、
そこで目撃した二、三の事をまず話そうと思う。
【語句】
bitter=つらい、苦痛な。
hardly=ほとんど~ない。余裕が全くないことを表わし、ほとんど否定の意味に近いです。
scarcely=hardlyと大体同じ意味だが、hardlyの方が普通に用いられます。
barely=hardly, scarcelyより否定的な意味は弱いです。
good=利益、幸福、福利。
the greatest good of the greatest number=「最大多数の最大幸福」。
perceive=知覚する、気づく、理解する。
scarce=(古語・文語)scarcely。
come of=~から生じる、起こる。
other than=(名詞の後で)~以外の。
幸福=「理性」の象徴であるヴィルジリオ(ウェルギリウス)に会って、救済の道へ進んだこと。
【解説】
ウェルギリウスは紀元前70年から19年にかけて生きたラテン詩人であり、この時には「人」ではなく「影」、すなわち「魂」でした。ダンテがウェルギリウスを霊界の案内人として登場させたのは、ダンテも強く影響を受けたウェルギリウスの主著『アエネイス』(古典期における最大の百科全書と目されます)に霊界旅行の記述があるためとされ、中世にはウェルギリウスは実際に霊界旅行をした霊通者、霊能者として考えられていたようです。ちなみに地獄篇第4歌によれば、ダンテは自分自身を「世界(ヨーロッパ)文学史における第6位」として位置付けたことが分かりますが、彼に先立つ5人は以下の通りです。
①ホメロス(紀元前8世紀頃)=ギリシア文学の祖にして、『イリアス(イリアッド)』『オデュッセイア』が代表作。アリストテレスによれば、ホメロスの叙事詩はギリシア悲劇の先駆となったと言います。「『イリアス』の1章を読むためにだけ生きたとしても不平を言ってはならぬ。」(シラー)
②ホラティウス(紀元前65~後8年)=西洋諸国では最も愛好されたラテン詩人。
③オウィディウス(紀元前43~後17年頃)=ラテン文学黄金時代の最後を飾る人物で、『変身物語(メタモルフォーセス)』で知られます。ダンテ、ゲーテと共に「哲学的三詩人」と称されることもあります。
④ルカヌス(39~65年)=ラテン文学白銀時代を代表する詩人で、祖父は修辞学者の大セネカ、伯父にストア哲学者の小セネカがいます。
⑤ウェルギリウス(紀元前70~19年)=最大傑作『アエネイス』はローマ国家の偉大さと共にローマ人の人生の悲しさを彫琢されたラテン語で格調高く歌い上げた真の国民的叙事詩として位置付けられ、彼の死後、その刊行を命じたのは初代ローマ皇帝アウグストゥス・オクタウィアヌスでした。