夜の公園には、誰にも見つからない場所がある。
街灯の光がぎりぎり届かないベンチの端で、私はコンビニの温かいカフェラテを両手で包んでいた。
「また来てる。」
声がして顔を上げる。
黒いパーカー姿の青年が、自販機の横に立っていた。
「……別に、来たくて来てるわけじゃないし。」
そう返すと、青年は少し笑った。
この公園には、ときどき来てしまう。
帰りたくない夜だけ。
家が嫌いなわけじゃない。
仕事がものすごくつらいわけでもない。
でも、うまく呼吸ができない日がある。
「今日は何があったの。」
青年は隣には座らず、少し離れた場所で缶コーヒーを開けた。
「別に。」
「“別に”って言う日は、大体なにかある。」
図星だった。
仕事帰り、同僚たちの会話にうまく入れなかった。
笑うタイミングもわからなくて、気づけばまた愛想笑いだけしていた。
たぶん、誰も気にしていない。
でも私は、そういう小さなことをずっと引きずる。
「馴染めないんだよね。」
ぽつりと呟く。
「みんな普通にできることが、できない。」
風が木を揺らした。
青年は少し考えるように空を見上げてから、小さく言った。
「でもさ。」
「馴染めないから、見える景色もあるんじゃない。」
「……なにそれ。」
「例えば。」
「ちゃんと苦しんでる人のこととか。」
その言葉は、思ったより静かに胸に落ちた。
遠くで救急車の音が鳴っている。
夜の街は、誰かの孤独を知らないまま光っていた。
「ここ、不思議だよね。」
私が言うと、青年は「なにが」と笑う。
「消えたいってほどじゃないけど、少し疲れた人が集まりそう。」
青年は少しだけ黙った。
それから、
「じゃあ君も、そのひとりだ。」
と、優しく言った。