「味が落ちた」と、その爺さんは、毎日、言いに来た。

「味が落ちた」と、その爺さんは、毎日、言いに来た。

記事
占い
ー えんたくの、しずかな物語 ー

・・・

その爺さんは、毎日、来た。

そして、毎日、文句を言った。

・・・

「味が落ちた」

「米が硬い」

「昔は、もっと旨かった」

・・・

俺は、親父から継いだ、町の定食屋の二代目だ。

うんざりしていた。

そして、それ以上に、知っていた。

文句は、正しい、と。

・・・

俺には、親父ほどの腕がない。

常連が減り続けている。

あの爺さんの言う通り、味は、落ちた。

・・・

だから、言い返さないと、認めることになる。

「うるさいなあ、爺さん。文句あるなら、来なきゃいい」

俺が言い返すと、爺さんは、なぜか、満足そうに、帰っていく。

・・・

ある日から、爺さんが、来なくなった。

一週間、十日。

・・・

なんとなく、気になって。

常連仲間に聞いた住所を頼りに、俺は、爺さんの家を訪ねた。

・・・

爺さんは、入院していた。

近所の人が、教えてくれた。

「あの人、もう、耳がほとんど聞こえないし、舌も、味がわからなくなってたのよ」

・・・

え。

じゃあ、あの「味が落ちた」は。

・・・

病院に、行った。

ベッドの脇に、古い菓子箱が、置いてあった。

「あんたのこと、よく話してたよ」と、看護師さんが言う。

・・・

箱を、開けた。

入っていたのは、割り箸の袋。

何百本も。

・・・

一本ずつ、日付と、小さな字が、書いてあった。

『今日は寒いねと、言ってくれた』

『また来たのか、と笑ってくれた』

『うるさい、と言ってくれた』

・・・

爺さんは、文句を言うと、俺が、必ず、言い返すのを、知っていた。

味なんて、もう、わからない。

ただ、俺の声が、聞きたかった。

一人きりの家に、帰る前に。

・・・

文句は、釣り針だった。

俺の一言を、釣り上げるための。

・・・

俺は、思った。

自分の店が嫌になって、親父に負けた自分を隠すために言い返していた、その荒い声が。

あの爺さんの、その日の、宝物だったのか、と。

・・・

俺は、箱から、割り箸を一本、抜いた。

袋に、書いた。

『爺さん、味が落ちたって、もう一回、言いに来いよ』

・・・

それを、爺さんの、痩せた手に、握らせた。

爺さんの目尻が、濡れて、光った。

聞こえていないはずの耳が、ちゃんと、聞いた顔だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

最後まで、読んでくださって、ありがとうございます。

・・・

人が、いちばん言いたいことは。

口にする言葉と、逆のことが、あります。

・・・

「もう、いい」が、ほんとうは「行かないで」だったり。

「味が落ちた」が、「また、会いに来た」だったり。

・・・

私は、タロットで、

その言葉の、裏側を、視ています。

・・・

文句や、強がりの下に、隠れている、ほんとうの気持ち。

カードを並べると、そこが、見えてくることがあります。

・・・

もし、あなたにも。

うまく言葉にできない、もやもやがあるなら。

・・・

対面では、ありません。

文章でご相談をいただいて、

鑑定書という手紙で、お返しします。

・・・

▼ タロット鑑定のお申し込みはこちら
えんたく
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す