第2話『繋いだ手』

第2話『繋いだ手』

記事
小説
短編連作『かぐや姫』より
ー人生には、役目が終わったことに気づく瞬間があります。
 この連作は、そんな瞬間を書き留めたものです。

第2話 『繋いだ手』

何処へ出掛けても目に付くのは、手をつないでいる大人たち。
なんで繋いでるんだろう?というより、繋げるんだろう?
私が「パパ」と言えば、鬱陶しそうにジロっと見られる。そこに手を繋ぐという行為は、どんな風に居場所を見つけるんだろう?
そんな風に人の手ばかり見ている私は羨ましいのかな?

亡くなった父の代わりに私と腕を組んでヴァージンロードを歩いてくれた兄は、皆に聞こえる声で泣きながら私と組んだ腕から、夫となる男性にバトンタッチをした。その組まれた私の腕はそれほどまでに二人の男性にとって大切なものだと分かるほどに丁寧に。
その後も、終始涙を流し続けた兄は、周りが笑うのも気にせず、双子のようにくっついて育った私の結婚を愛おしいものだと大切に涙で送り出してくれた。

そんなにも大切な私の腕は、しばらくは夫と繋がれていたけど、赤ちゃんを抱くものになり、子供とつなぐものになりしているうちに、夫と繋がれていた日々があったことも忘れ去られ、今では道行く人のつながれた手を見ては、口にくわえられる始末だ。

たくさんの夫婦に囲まれて育ったけど、どんなおじちゃんもおばちゃんもそんなことしてなかったから、この歳になって、そんなことを考えるとも思っていなかった。ただ、私の周りはそれぞれにいびつだったから、夫婦は、そのいびつさこそが必要条件だとすら思えていた。むしろ正しい形とはアンバランスなんだと。だからアンバランスは上手いことバランスをとって、手なんか繋がなくても十分にその形そのものだった。

それでも羨ましがる私の腕が抱えているのは、繋ぎたいと思う気持ちの問題なんだと思うだ。私にまだ腕を組んで出歩ける元気があるなら、手を繋いでドキドキしたいのか?ただ一緒にいるだけで笑えたあの頃、一緒にちょっとそこまでお遣いにいくだけで、デートみたいだったあの頃。私はずっとそのままなんだと思っていた。ずっとこのままの日常が人生なんだと疑わなかったあの時の気持ちが、ひょこっと顔を出す。

夫婦を繋ぐものは何なのか?なんて考えずに夫婦の一部になっていた。新婚旅行で結婚指輪をなくした夫と私の間には、結婚直後から私たちの手を繋いでいる目印はなかった。それは確かに手を繫いでいた私たちには大したことではなかったけど、どこかで私はずっと、その繋がりを気にしていたのかもしれない。
目で見つめ合うと嬉しくなる人のそばにずっといたいと思うことは、夫婦になるってことだと思って疑わなかったあの頃の私は、目でも心でも繋がっているんだと手を繋ぎながら思えていたんだと思う。

私の手は次のつなぎ手を探している。
誰かに相談したら、犬のリード、趣味、いつか繋いでくれるかもしれない孫のために使いなって言うかもしれない。

大きな声では言えなくても、やっぱり私は、まだ繋ぎたい。繋いだ瞬間に鼓動が速くなるような手と。もう一度。
道端で、他人の繋がれた手から目が離せない私の手は、まだ何かを待っている。

そんな風に、私の手が誰かと繋がる日を待っているんだと、ふと気付く。

天羽詞鏡
2026.06.26

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