さて、皆様。久しぶりに私の分野である循環器の事柄について書こうと思います。先日、外来診療を行なっていた際、とある患者さんに内服の量を減らすことを提案したところ、大変喜ばれ感謝されました。内服の量を減らすのは大抵の場合、病状がだいぶ安定してきて、必須な薬剤が減る場合です。しかし、今回の場合はそうではありませんでした。
今回は抗血小板薬(血液サラサラ系)のアスピリンとプロトンポンプ阻害薬などの胃薬の合剤を提案したのでした。抗血小板薬はかなりの頻度で消化管に出血や潰瘍が生ずるため、大抵胃薬を合わせて処方します。それを別々に処方すると2錠ですが、合剤が存在して1錠で2錠分の効果効能が得られます。値段もわずかに安価なことが多いのですが、何より大事なのは患者さんの内服の負担が半分になることです。2錠が1錠になるくらい大したことはないと思われるかも知れませんが、循環器疾患を有する患者さんは欠かせない内服薬の種類がとても多く、毎日10錠とか飲まなければならないことがしばしばです。よく患者さんから薬でお腹がいっぱいになっちゃう、とか、管理が大変すぎて飲み忘れてしまうなどと、日常生活の不満を訴えられることも多いです。
例えば、心筋梗塞を起こして心不全を合併してしまった糖尿病患者さんの場合は、抗血小板薬1−2剤、ACE阻害薬またはARB(最近はアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:通称ARNI)、ベータブロッカー、スタチン、アルドステロン受容体拮抗薬、利尿薬、胃薬、SGLT阻害薬は必須になります。これだけでも8−10種類です。糖尿病が悪ければこれに加えて、DPP4阻害薬、メトホルミン系、SU剤、αGIまたはインスリン製剤の皮下注射も加わります。狭心症が合併すれば硝酸薬も内服していたりもします。以上のように心筋梗塞を発症すると10種類近くもしくはそれ以上を、毎日毎日内服していかなければならないのです。
そこで登場するのが合剤です。循環器系の合剤は多数あります。先に述べたように、抗血小板薬と胃薬の合剤。抗血小板薬2種類の合剤、降圧薬の合剤、スタチンを含むコレステロール低下薬の合剤、コレステロール低下薬と降圧薬の合剤、抗糖尿病薬の合剤などです。これらを駆使すると、毎日10錠程度であったのが、5錠とか6錠くらいまでは減らすことができる場合が多く、大抵の患者さんはとても喜びます。私の感覚ではかなり好評な場合が多いので、近年はできるだけ合剤を使い分けて患者さんに処方するように努めています。
一方で合剤をあまり好まない医師もいます。合剤の一方だけを後に増やしたくなるかも知れないし、副作用が出た時にどちらの薬剤が原因か突き止めることが困難であるため、そのリスクを負いたくないといった理由だと思います。処方の小回りが効かなくなってしまうのです。
確かに重症患者さんでは合剤は好ましくありません。わずかな薬剤の変更で体調に変化が見られたりすることも多々あります。その場合は私もほとんど合剤は使いません。というか使えない場合も当然あるといったのが私の感想です。でも、病状が安定してきた場合には漫然と今までの処方を継続するのではなく、私はできるだけ患者さんの生活の質を向上させるため、可能であれば合剤を提案するようにしている次第です。
皆様の中で、多くの内服薬を毎日飲んでいらっしゃる方もいるかも知れません。もしご希望であれば一度医師と合剤への変更の可否を相談してみるのもいいかも知れませんね。